第73話 バグってる


「おいおい……」


 シャワーを浴び終え冷静になると俺はとんでもないことをしてしまったなと改めて思う。


 俺はさっき妹の華菜とキスをしてしまった。

 恋人ではなく実の妹である華菜と……


「おいおいおいおい……」


 弓花とも常にキスをしているから感覚がバグっていた。


 だが、ふと冷静に考えるとけっこうヤバいことしてた。

 いや冷静に考えなくてもヤバいってわかるだろ。


「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」


 もう、おいしか言えねーよ!

 どうすんだよコレ!


「おい弓花!」


 俺は慌てて弓花の部屋に突入した。


「どうしたのよ急に。ノックぐらいしてよ」


 何故か俺が探していたパンツを持ってベッドで横になっていた弓花。

 色々とツッコミたいところはあるが、今はそれどころではない。


「おいおいおい」


「おいを連呼してどうしたのよ、だいぶテンパっているみたいだけど」


「ちょっといいか?」


 俺はとりあえず弓花にキスをした。

 華菜とキスをしてしまったので上書きをして罪悪感を減らさないと。


「んぅ……どうしたのよそんなに私を求めて。双子の妹に無理やりキスするとか、最低なお兄ちゃんね。私は大好きだけど」


 しまった!? 弓花も妹だった!


 罪悪感が薄れるどころか増しただけだった!


「華菜に俺達がキスしているところを見られてた!」


「えっ!? 本当に?」


「まじだって! 華菜が見たって俺に言ってきた」


「……それはまずいわね」


 とりあえず華菜とキスしたことは置いといて弓花に見られていたことを伝えた。


「ヤバいだろ! 俺がてんぱる理由もわかるだろ?」


「少し羽目を外し過ぎたみたいね」


「そうなんだよ弓花ぁあ」


「ごめんなさい、次からはもっと気をつけないと」


 そう言いながらキスをしてくる弓花。

 風呂上がりだからか弓花の身体が温かい。


「反省しながらキスしてるって!? まったく反省が生かせてないって!」


「まぁぶっちゃけ見られてもギリギリセーフよ。家族同士でキスすることは世界から見たら、まぁ割とあることだから」


「ここ日本!」


「落ち着きなさい、ここはプラスに考えましょう。華菜ちゃんに見られてしまったのなら、もうバレても平気だから、むしろキスしやすくなったと」


「その発想は無かった!」


 ピンチもプラスに変えようとする弓花。心強いな。


「でも、問題が一つあるわね」


「どんな問題?」


「華菜ちゃんが、弓花お姉ちゃんがしているのなら私にもキスしてよと咲矢に甘えてくるかもしれないっていう問題が」


 深刻そうな顔で問題を伝えてきた弓花だが、その問題は既に生じてしまっている。


「あぁ、なんだその問題か」


「不安じゃないの? あの子もけっこう咲矢のこと好きみたいだし」


「もうその問題は解決済みだから」


「……どういうことよ。まさか華菜ちゃんとキスしたとか言わないよね?」


 弓花が俺を睨んでくる。


 嘘は良くないので本当のことを伝えよう。


「弓花お姉ちゃんとはキスして、あたしとはしてくれないのって言うからさ」


「それで実の妹とキスしたの?」


「キスしないと母親に俺達がキスしてたって言うよって脅してくるからさ」


「それで実の妹とキスしたの?」


「家族間でキスすることは世界からしたら割と普通のことだよって言うからさ」


「それで実の妹とキスしたの?」


「……キスされちゃった」


 俺の返答を聞いて溜息をつく弓花。


「ほんとあなたって人は、意思が弱いというか頭がバグっているというか」


「ごめん」


「別に謝ることではないわ。もし私が咲矢の立場だったら同じことをしていたと思うしね」


「弓花ぁあ!」


 流石は弓花だ。

 俺の気持ちをわかってくれる。


 そう、あれは不可避な状況だった。


 俺は悪くない。

 悪いのはこの世界だ。


「でも、キスより先のことは駄目よ」


「そんなの当たり前だろ」


「私と百回ほどした後なら構わないけど。華菜ちゃん限定だけどね」


「事後ならいいのかよ!?」


「私が華菜ちゃんに何か言える立場ではないの。ぶっちゃけ一卵性双生児の私の方がキスしててヤバいしね。妹との恋愛を否定することは私自身をも否定することになるから」


 嫉妬深い弓花も家族は別問題と考えているようだ。


「咲矢の問題は私の問題でもあるの。一人で抱え込まずに、一緒に解決していきましょう」


「女神かよ」


「女神よ」


 そう俺に微笑んで抱きしめてくる弓花。


 テンパって取り乱していた俺の心は、弓花の温かい抱擁に落ち着きを取り戻していく。


「でも同じ家族の華菜ちゃんでも少しは嫉妬するから、ちょっとじっとしてて」


「はい」


 その後は弓花が満足するまでキスをしていた。


 二人の妹にキスされるなんて、とんでもない一日だったな。


 いつの間にか藤ヶ谷家がとんでもない一家になっちゃってる。

 だが、ヤバさと引き換えに幸福を得ることができているのは間違いない。


 まぁ、ぶっちゃけ幸せです。兄より――


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