第72話 伝説


 お風呂に入る準備をしていたのが、お気に入りのパンツが見つからなかった。

 いったい俺のパンツはどこへ……


 同じタイミングで弓花が部屋から出て風呂へ向かってしまったので、部屋でパソコンを操作しネットを見ることに。


 マウスをカチカチしていたら何故かエッチな動画が再生されてしまった。


『お兄ちゃん、そのまま出して!』


 イヤホンを挿していたと思っていたのだがスピーカーで音が再生されてしまい、慌ててパソコンの電源を引っこ抜いた。


 ふぅ、危ない危ない……

 出してって言われたけど抜いてやったよ。


 それにしても妹モノのエッチなやつは俺に不向きだ。

 実際の妹である華菜をそういう対象として見れないしな。


 こんなジャンルのやつを見てもちょっとしか興奮しねーっつーの。



 コンコンとノックの音が聞こえたので入っていいよ返事をした。


「華菜か、どうした?」


「お兄ちゃん遊ぼ~」


 俺の腰に抱き着いてきて遊ぼうと甘えてくる華菜。

 精神年齢はまだまだ子供だな。


「いいよ。何して遊ぶ?」


「キスして遊ぶ」


「おいおい何言ってんだよ、俺達は兄妹だぞ」


 遂に華菜も末期か……

 なんかとんでもないことを口走っているぞ。


「兄妹だって知ってるよ。知ってて言ってるんだよ」


「兄妹はキスとかしねーから。キスってのは恋人同士でするものだぞ」


「ふーん」


 どこか思わせぶりな表情を見せる華菜。


 ちょっとした出来心なら笑って流せるのだが……


「でも、お兄ちゃんってお姉ちゃんとキスしてたよね?」


「ししししてしててしてっててしてしててしてねーよ」


「てんぱり過ぎだよお兄ちゃん」


 おいおい、まさか見られていたとは!?


 これはヤバい!

 双子同士でキスしてるの見られるのはヤバいって!


「お姉ちゃんは良くて、あたしは駄目なの?」


「いやいや、いや……」


「駄目なことだったらお母さんに報告しないと」


「なんぬ!?」


 これはマズイぞ……


 華菜は本気で俺にキスを迫ってきている。

 しかも母親にバラすと脅されてしまっては拒否しようがない。


「別に兄妹とか家族で挨拶のキスをするのはよくあることだろ。外国では普通にしてるし」


「だよね。じゃああたしにもしてくれるよね?」


「そりゃ、まぁ」


 駄目だ完璧に包囲されている。

 ここから逃げ出す術はない。


 だが、俺だってただのバカじゃない。

 逃げられないのなら、新たな道を作ればいい。


「じゃあ、するぞ」


「うん……お願い」


 身体を震わせながら目を閉じる華菜。

 俺はその華菜の頬にキスをした。


「ふぅ」


 そう、別にキスをすると言っても口同士でしなければならないわけではない。

 限界まで追い詰められた俺は見事な発想の転換でこの危機を乗り切った。


「早く~」


「いや、キスしたよ」


「口に決まってんじゃん。ふざけたことしてないで早くキスしてよ~」


 なんてこった……

 この妹、目がマジになってら。


「キスってのは好きな人にしてもらうものだぞ」


「お兄ちゃんのこと大好きだもん! 弓花お姉ちゃんがお兄ちゃんを想ってるのと同じくらい好きだもん!」


「困ったちゃんだなまったく……」


 とんでもないブラコン妹だ。


 だが、それも俺が甘やかし過ぎた結果だ。

 ちゃんと責任取らないといけないのかもしれない。


「俺の気持ちは無視か?」


「お兄ちゃんは華菜のこと好きじゃないの?」


「……好きだけど」


 そう、俺は華菜が好きだ。

 もちろん妹としての話だが。


「嬉しい」


「俺も華菜に好まれて嬉しいよ」


「好き好き~」


 俺に抱き着いて好きを連呼する華菜。

 今まで好意をさらけ出すことは無かったが、いったいどうして急に……


 やはり弓花の存在が華菜を触発させているのだろうか。


「お兄ちゃんを好きになるなんておかしいことなんだぞ」


「どうして?」


「だってそりゃ家族だし……」


「家族だから好きになっちゃいけないの? 別に異性として好きとかじゃなくて、お兄ちゃんがただ好きなの。愛が溢れる家族とかってよく言うじゃん。そんな感じ」


「そういうことか」


 どうやら俺が悪い方向へ考え過ぎていたようだ。


 家族にも愛はあって当然。

 ちょっと神経質になり過ぎていたな。


 でも俺からキスをするのは家族だが、恋人の弓花にちょっと申し訳ない気持ちになるな。


「じゃあ、華菜からしてもらえるか?」


「うん。お兄ちゃんがそうしてほしいなら」


 抱き着いている華菜がキスをしてきたので、俺はただ受け入れた。


 これはただの家族間のスキンシップであり、異性としてのキスではない。


「幸せ……」


 中々キスを終えず、息継ぎをしてはキスを繰り返す華菜。


「大好きお兄ちゃん、愛してる」


 いやちょっと華菜さん!

 とても家族としてのキスじゃない想いが込められていそうなんですけど!?


「いつまでするんだよ」


「ごめん、ついつい甘えちゃった」


「許す」


 どうやら俺も弓花との触れ合いに慣れて華菜との距離感もバグっているらしい。

 華菜とのキスも悪くないものだと思ってしまった。


「さっきは脅すような真似してごめんね。拒否しても別にお母さんとかに言ったりしなかったよ。お兄ちゃんを苦しめることはしないからさ」


「先言えよ。もう事後だっつーの」


 もう壁は破壊されてしまった。

 修復は不可能である。


「まったく……今日だけだからな」


「うん、我儘聞いてくれてありがとう。またしたくなったら甘えてもいい?」


「少しならな」


 甘過ぎるだろ俺!

 でもお兄ちゃんは妹の我儘を聞いてあげないと!


「お兄ちゃんって本当に優しいよね。もっと大好きになっちゃうよ」


「ほどほどにしとけよ。これ以上のことはできないんだから」


「あたしはしてもいいけど」


「……勘弁してくれ」


 まったく弓花といい華菜といい、我儘が過ぎるだろ。

 ちっとは俺の身にもなってくれよな~


 双子にも妹にもキスされるとかさぁ……









 最高っすわ――


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