第71話 ♀イモシコ



 ※このエピソードは華菜視点となっております。



 今日は学校で先生に怒られたので機嫌が悪い。


 給食で嫌いなナスを残したら、先生に世界には空腹で死んでしまう人たちがいるのよと怒られたので、てめーが毎日してる化粧を止めてその分のお金寄付した方が人は助かるよと言い返してやった。

 そしたら後で職員室に呼ばれて先生に囲まれて説教一時間。


 思い出すだけでイライラしてしまうので、お兄ちゃんに甘えて癒してもらおっと。



 一階からお兄ちゃんとお姉ちゃんが帰ってきた声がしたので、お兄ちゃんの部屋に侵入しクローゼットに隠れた。

 お兄ちゃんを驚かせてかまってもらう作戦だ。かくれんぼ~。


「はぁ……疲れた」


 お兄ちゃんが家に入ってきたので、いつでも外に出られるように準備を始める。


「そうね。一緒に癒しっこする?」


 困ったことに、弓花お姉ちゃんも一緒にお兄ちゃんの部屋に入ってきている。


「癒しっこってなんだよ。字面的にはロマンがありそうだが」


「癒しっこは互いに気持ち良くなることをすることよ」


「危険すぎる罠だな」


「なら、癒しこしこにする?」


「もっと危険になってる!?」


 楽しそうに会話をしている二人。

 なんだか出辛い空気になっちゃったな。


「ちょっとイチャつかないかしら?」


「ちょっとならいいけど」


「ありがとう。じゃあ遠慮なくキスさせてもらうわ」


 抱き合いながらキスを迫っているお姉ちゃん。


「お、おい、華菜が帰ってきてるんだぞ」


「下の階にいなかったからきっと部屋にいるはずよ、大丈夫」


「ま、まぁ俺もしたいからいいけどさ」


 ベッドに座ったお兄ちゃんの膝に跨るお姉ちゃん。


 そしてお姉ちゃんはそのままお兄ちゃんを抱きしめてキスを始めた。


「好きな人とのキスはいいものね」


「同意見」


 えっ……いったい、何が起きているの?


 お兄ちゃんとお姉ちゃんは双子だよね?

 がっつりキスしちゃってるんだけど……


「咲矢、愛してる」


「俺も愛してる」


 二人のキスは初々しいものではなく、愛情のこもった深いキスになっていく。

 きっとキスすることにも慣れている。


 刺激の強い光景を目の当たりにして胸が激しくドキドキしてしまう。


 似た顔同士の二人が、鏡のように見つめ合っている。


 さらにはキスだけじゃなく言葉でも愛を囁き合っている。


「ちょっとどこ触ってるのよ」


「不可抗力」


「しょうがないわね」


 えっ、このまま何か始まっちゃったりしないよね?


 二人が仲良いのは知っていたけど、もう禁断のゾーンに足を踏み入れちゃってんじゃんか。


「脱いだ方が良いかしら?」


「脱ぐなって。この状況で脱いだら始まってしまうだろ」


「もう我慢するのダルくない?」


「ダルいけど、今は華菜もいるし母親も帰ってくるから」


「……そうね、少し冷静さを欠いていたわ。家族に迷惑をかけるわけにはいかないものね」


 ヒートアップしていた二人だったが、急に冷静になりお姉ちゃんは部屋から出ていった。



 ようやくお兄ちゃんが一人きりになったが、この状況で姿を現せば今の一連のやり取りを見ていたことになっちゃう。


 もう驚かせのは諦めて、お兄ちゃんが出ていった時に部屋からこっそり出ないと。


「弓花……」


 制服を脱ぎ、お姉ちゃんの名前を呼びながらごそごそと何かをしているお兄ちゃん。


 あたしの方に背中を向けているので何をしているかはわからないが、早く服を着ないと風邪を引いてしまいそうだ。


「ふぅ」


 二十分ほど経つとお兄ちゃんは部屋を出てってくれたので、ようやくあたしはクローゼットから解放された。


 そのまま部屋を出て事なきを得たのだが、あたしの心は酷く揺らいでいた。


 とんでもない光景を見ちゃったな……


 だが、それはあたしにとって希望でもあった――



     ▲



 夕飯を食べ終え、リビングでお兄ちゃんと二人きりになった。


 お母さんもお姉ちゃんもいないけど、少し不安なので小声で話しかけた。


「お兄ちゃんってお姉ちゃんと付き合ってるの?」


「いや、めっちゃ仲が良いだけだぞ」


 お兄ちゃんは付き合っていることを否定したが、先ほどはお姉ちゃんとは愛し合っていた。

 きっと付き合っていることを隠しているのだろう。


「それに愛とかこもってないの?」


「家族愛ならいっぱいあるよ」


「あたしにもある?」


「もちろん。弓花も華菜も大切な妹だしな」


「そうなんだ……」


 あたしとお姉ちゃんはお兄ちゃんにとって対等みたいだ。



 お兄ちゃんの言葉を聞いて、あたしが抱えていた迷いは断ち切られてしまった。


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