第70話 殺し合い


 遂にこの日が来てしまったか……


 今日は前に心春と約束してしまった、弓花との仲を取り持つ日だ。

 波乱しか起きそうなイベントに足が重くなってしまう。


 事前に相談した結果、昼休みにいつもの場所で弓花と過ごすが、その途中で心春が現れて仲を取り持つ流れとなっている。


 心春は俺にフォローはよろしくと言っているだけで、何の策も用意していないみたいだ。


 心春のことを快く思っていない弓花と仲良くなれるのだろうか……

 下手したら殺し合いでも始まってしまうんじゃないかという恐怖がある。


 成功して仲良くなる未来が見えない。

 俺にできることはあるのだろうか……


 困難なミッションな割に、責任重大でもある。


 だが、心春はアンビリバボーな女の子だ。

 今回もキセキ体験を見せてくれる可能性は秘めている。


「どうしたの咲矢? 顔色が悪いわよ」


 教室の椅子に座って悩んでいた俺の顔を覗いてきた弓花。

 不安が表情に出てしまっていたみたいだ。


「嫌いな奴に友達になろうって言われたら弓花はどうする?」


「無理ですって言うけど。咲矢もでしょ?」


「まぁ、そうだよな」


 そう、弓花の考えがわかるからこそ、悪い未来しか見えないのだ。


「あっ、新都心高校一のバカップルだ」


 教室に入り、隣の席に座った心春が開口早々に茶化してくる。


「もうエッチとかしたの?」


「してない」

「したわよ」


 心春のふざけた質問にしてないと答えた俺だったが、弓花はしたと答えてしまう。


「どっちなん?」


 笑いを堪えながら聞いてくる心春。


「まじでしてない」

「一線は越えてはいないけど、エッチなことはしてないかしら? エッチの捉え方にもよるけど、世間的にエッチだなと思われることはしていると思うのだけど」


 確かに言われてみれば一緒にお風呂に入ったりと弓花とは色んなことをしてきている。


「なるほど。つまりまだ一つにはなってないわけだ」


「生々しいこと言うなよ」


 心春の言葉に俺は呆れると、弓花も溜息をついた。


 弓花は心春と話したくもないはずだが、牽制するためにあえて話して俺との仲を見せつけたのかもしれない。



     ▲



 遂に恐れていた昼休みが訪れてしまった……


「やっぱり朝から顔色が悪いわよ咲矢。私の胸の中で休む?」


「別に体調は悪くないんだけどな。とりあえず失礼します」


 弓花の胸に顔を突っ込み、目を閉じる。

 何してんだろ俺さん。


「何しに来たの?」


 周りの様子は見えないが、弓花が恐い声を出したので心春が来てしまったのだろう。

 いつでもフォローできるように弓花の胸の中で待機していよう。


「……告白しに来たの」


「えっ」


 心春のまさかの発言に驚く弓花。


「前に、咲矢のことは別に好きではないと言っていたわよね……まさかあなた、私のことが好きなの?」


 弓花の言葉に少し驚いた様子を見せる心春。

 俺は胸の中から脱出し、正座をする。



「私のことが好きだから、咲矢にちょっかいをかけていたのね……なるほど、そう考えると全て合点がいくわね」


「いや、違うけど」


「……こほん、違うのね」


 己惚れた推理をしてしまったため、少し顔を赤くしてしまう弓花。可愛い。


「でも半分正解かも。ユーミンさんのことは好きだったから」


 半分正解とはどういうことだろうか……

 それにユーミンさんとは何のことだ?


「何でその名前を知っているの?」


「あたしがハルコだから」


「えっ!?」


 心春のハルコという言葉に驚く弓花。

 ついていけないぞおい!


「ごめん、あたしはけっこう前に気づいちゃったけど、言わない方がいいかもしれないと思って黙ってた。でも、やっぱり弓花さんとちゃんと仲良くしたいから、あたしがハルコだって告白することにしたの」


「なるほど。だからあなたからは常に胡散臭さを感じていたわけね。でも、何でもっと早く言わなかったのよ」


「あたしのこと気づいたらユーミンさんともう連絡取れなくなるんじゃないかと思って言い出せなかった。知ってたのに最低だよね。悪い子だよね」


「……最低ね」


 弓花は俺を置いて立ち上がり、心春を見つめたまま空いている距離を詰めるように歩いていく。


 もしかしたらは弓花は心春の頬にビンタでもするつもりなのか?


 不味いな、このままでは取っ組み合いが始まってしまうかもしれない。

 何かフォローしなくてはと思うが、二人の間に何が起きているのかがわからないので強制的に止めるしかない。


「言い出せなくてごめん弓花さん。でもあたしはこれからも仲良くしたい」


「そんな真実を知ってしまったら関係は崩れてしまうわ」


「だよね……」


「だってこれからはあなたのことを父親に恋しているヤバい人として仲良くしなきゃならないのだから」


「……弓花さん」


 俺は二人の間に割って入ろうとしたが、二人は涙目になりながら抱き合ってしまった。


 いや、いったい何が起こっているんだ!?


「これから弓花さんのことを双子に恋している変態ヤバ女として仲良くするね」


「変態は余計よ」


 笑い合いながら見つめ合う二人。

 そこに俺が入れそうな隙間はなかった。


 どうやら二人には何か繋がりがあったみたいだな。

 とりあえず予想外の結果過ぎてアンビリバボーと言ったところだ。



     ▲



 下校時に弓花から心春との間にあったことを知らされた。


 どうやら二人はネットを通じて恋愛相談をしており、互いに助け合ってきたみたいだ。

 今まで表向きには仲が悪かった二人だが、裏向きでは仲が良かったということだな。


 心春が今まで思わせぶりなことを言っていたのも、弓花との関係があったからなのだろう。


 双子に恋をしている弓花と、父親に恋をしている心春。

 互いにヤバい恋愛をしているからこそ、分かり合える部分も多かったのだろう。


 この日を境に弓花と心春の仲は急激に深まった。

 だが、友達のいない俺はそんな二人を見て、ちょっと寂しさが募ってしまった――

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