第69話 ♀テイクアウトパンツ
※このエピソードは弓花視点となっています。
洗濯当番の私は洗濯機のスイッチを押そうとするが、洗濯物の一番上にあった咲矢の脱いだパンツがどうしても気になってしまう。
何故か朝にパンツを履き替えたらしく、脱ぎたてほやほやということだ。
咲矢は私と同じ潔癖症なので、どこか少しでも汚してしまい履き替えることに至ったのだろうか……
私は振り向いて背後に誰もいないことを確認する。
咲矢は朝食当番なので洗面所には来ないはず。
「あら」
どことなく男らしい香りが漂うパンツ。
何度か咲矢のパンツを物色したことはあったけど、今までは無味無臭なことが多かった。
意外な結果に思わず、あらと声が出てしまったわ。
なんて卑猥な匂いをさせてしまっているのかしら、このおパンツ君は……
朝からこんなものを見せつけられたら流石に興奮してしまうじゃない。
こんな時に限って登校時間までにもう余裕は無い。
まだ時間があったら色々とできることはあったかもしれないのに。
ほんと憎たらしいパンツね。
中心部に油性のペンで弓花専用と書いてやりたりレベルだわ。
「お姉ちゃん、何してるの?」
「つぇい」
背後から華菜ちゃんの声が聞こえたので、思わず咲矢のパンツをシャツの中に入れて隠してしまった。
あまりに油断していたので変な声が出てしまったわ。
「……洗濯当番だから洗濯をしているだけよ」
「そっか。お兄ちゃんのパンツとか漁ったりしてないよね?」
「ぎくっ!? ……そんなことするわけないじゃない」
「当たり過ぎてるのか、ぎくって声が出ちゃってるよ!?」
まさかピンポイントに言い当てられてしまうとは……
これではもう言い逃れができない。
「まっ、弓花お姉ちゃんは変態さんだから別に気にしないよ」
「寛容ね」
「だって前にも漁ってるの見たし」
「……あら」
どうやら私の行動は意外と華菜ちゃんに見られてしまっているみたいだ。
でも、同じ家に住んでいるのだから、見られているのは当然でもある。
もう少し気を引き締めて咲矢と絡んだ方がいいかもしれない。
キスをしているところは見られたら流石にまずいしね。
冷静さを取り戻し、そのまま洗濯を始めて部屋に戻った。
着替えようとした時に、シャツから咲矢のパンツが出てきた。
どうやら隠してそのままだったみたいだ。
今さら洗濯機に入れてくるわけにはいかないし、このおパンツは部屋に保管しておくしかなさそうね。
学校から帰ってきたらたくさん可愛がってあげましょう。
ピロンとスマホが音を鳴らしたので、誰かからメッセージが来たみたいだ。
この時間に連絡をしてくるということは、私の相談相手であるハルコさんである確率が高いわね。
【父親の洗濯ものって何か洗うのもったいなくて、気軽に洗濯機のスイッチが押せない】
ハルコさんは数ヶ月前にSNSの恋愛相談チャットで知り合った女性だ。
今では互いに連絡先を交換してSNSを通さずに直接やりとりをしている。
自分たちの連絡先を教えるほど仲良くなったのは、互いに同じ悩みを抱えているからだ。
私は双子との禁断の恋。ハルコさん父親との禁断の恋。
ハルコさんに直接会ったことはないので、どんな顔をしているのかは知らない。
でも、言動や行動から、けっこう可愛い女の子であることは予想できる。
同じ埼玉県に住んでいるみたいなので、意外と近い場所に住んでいる可能性もある。
『私もその気持ちはわかるわ。かといって洗濯ものに手を出すほど変態ではないのだけど』
【ユーミンさんは変態だから、洗わずに部屋に持ちこんだりするタイプだと思ってた】
『あれは事故よ』
【持ち帰りしてんじゃん!? 変態じゃないとか言いつつしっかりテイクアウトしてんじゃん!?】
ハルコさんは見知らぬ相手だからこそ、自分を隠さずに何でも話すことができる。
それが私にとって大きな救いとなっている。
ハルコさんは実の父親のことが好きらしい。
そんな馬鹿げた恋をしているハルコさんを見ていると少し落ち着くことができる。
ヤバい恋をしているのは私だけじゃないんだって。
世界にはもっと困難な恋に挑んでいる人もいる。
自分は一人じゃないという安心感が、私の背中を押してくれる。
【ユーミンさんには敵わないよ。でも羽目外し過ぎると、トラブルが起きちゃうかもよ。あたしと違って母や妹と一緒に住んでいるわけだし】
『そうね。妹にも変態だねって言われちゃっているし、もっと隠さないといけない』
【もう妹さんに色々とバレちゃってんじゃん!? 時すでに遅しだよ!】
ハルコさんとのやり取りに思わず笑ってしまう。
かれこれ二ヶ月以上はこうして連絡を取り合っているが、直接会ってみたいとも思う。
友達が少ない私でもハルコさんとは絶対に仲良くなれると思うし、もっと互いの恋を応援できる気がする。
直接会わないかしらと書き込みたくはなるが、ギリギリのところでいつも躊躇してしまう。
相手がそれを望んでいないかもしれないし、私が勝手に頭の中で作りだしてしまったハルコさんのイメージが崩れてしまうかもしれない。
ハイリスクハイリターンではあるが、私には一歩踏み出す勇気がない。
いつかハルコさんと相対する時は来るのだろうか――
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