第68話 ♀心春日和


 ※このエピソードは心春視点となっております。




 お母さんは小学生の頃にいなくなっちゃって、それからはずっとお父さんと二人で生きてきた。


 あたしのために働いて、あたしのために頑張って、あたしのために生きてくれるお父さん。


 そんなお父さんがあたしは大好きで、幸せにしてあげたいなと思っている。


 料理も作って、お掃除もして、買い物にも行って、洗濯もして……


 お父さんに尽くしていれば、あたしもお父さんも幸せになる。


 でもね、あたしはもっと幸せになりたいの……



     ▲



 朝、目を覚ます。


 最初にすることはお化粧。

 お父さんはギャル風の女の子が好きだから、派手目にお化粧を施す。


 身なりを整えた後は朝食作り。

 ごはんとお魚とお味噌汁を用意した。


 そして次に愛しのお父さんを起こしに行く。


 朝からちょっと大変だけど、まるで奥さんみたいな生活に疲れより充実感が勝る。


「お父さん起きて~」


 毎日お仕事で疲れているお父さんを起こすのはちょっと辛い。


「んぅ~」


 寝起きの悪いお父さんは一言では起きてくれない。


 身体を揺さぶったり大きな音を鳴らさないといけない。


「おとーさーん」


 毛布を勢いよく剥がすが、お父さんは起きてくれない。


 どうやら今日は普段よりも深い眠りについているみたいだ。


「失礼しまーす」


 寝ている隙を見て、あたしはお父さんの身体に抱き着く。


 こんなことは高校生になってからは滅多にしていなかったのだが、最近は欲求が溜まっていたので我慢できなかった。


 お父さんの下半身を見ると生理現象でズボンがテントのように膨れていた。


 大好きな人のこんな姿を見てしまったら我慢できるはずもなく……


 あたしは先ほど払いのけた毛布を戻し、お父さんが起きても何をしているのかが一目でわからない状態にした。


 あたしはお父さんのパジャマのズボンに手をかけて、それをゆっくりと動かした。


 そして、隠れてキスをする――



 本当は口にしたいけど、それはロマンチックなシチュエーションにとっておきたいからね。


 お父さんはくすぐったかったのか、もぞもぞとし始めたので慌てて布団から出た。


「んー何してたんだ?」


「おはよ。何もしてないよ」


「そっか、じゃああと五分寝かせて」


「だーめ、あと二分ね」


 危ない危ない、理性がぶっ壊れちゃって大胆なことしちゃってた――



     ▲



「行ってらっしゃい」


 あたしは家を出た父の背中を見送ってから、ソファーに深く座り込んだ。


 大好きなお父さんの前で自分の気持ちを抑え続けるのが難しくなっている。

 高校生になったことで、一人の異性として見てもらいたい気持ちも日に日に強くなっている。


 でも、お父さんのためにも我慢しなくちゃならない。

 一線は越えないようにしないと……


 あの人も一緒に踏ん張っていることだろうしね。


【どうしましょう……今朝、寝ている彼氏の大事なところに触れてしまったのだけど】


 頭の中で噂をしているとスマホにネットで知り合ったユーミンさんからメッセージが届いていた。


 ユーミンさんは数カ月前にSNSの恋愛相談チャットで知り合った女性。

 今では互いに連絡先を交換してSNSを通さずに直接やりとりをしている。


 自分たちの連絡先を教えるほど仲良くなったのは、互いに同じ悩みを抱えていたからだ。


 あたしは父の禁断の恋。

 ユーミンさんは双子との禁断の恋。


 そしてこのユーミンさんは99%長澤さんだ。


 あたしが咲矢君から弓花さんとのことを打ち明けられるちょっと前に恋愛相談チャットに現れたのでタイミングも同じ。


 ましてや双子に恋をしているなんて、日本に彼女ぐらいしかいないはずだ。


『あらあら、大胆なことしちゃったね~』


【あのまま彼氏が寝ていたら……きっと私はどうかしちゃってたと思う】


 あたしも今朝はユーミンさんと似たようなことをしてしまった。


 やはりあたし達は互いにネジが外れかけている。

 でも、これでいい。


 一緒に堕ちる仲間がいるのは心強いからね。


 あたし達は一緒に堕ちることまで堕ちて、慰め合っていければいい。


『あたしはもっと凄いことしちゃったから平気平気』


【……実は私も触れるだけでは収まらなかったのだけど】


 ユーミンさんの返信に思わず吹き出してしまった。


 咲矢君も大変だな~と同情する。

 でも咲矢君には悪いけど、このままユーミンさんに突っ走ってもらった方があたしは安心できるんだけどさ。


【キスの壁を超えてからはちょっと自分の制御が難しくなってしまっているわ】


『いいな~キスできて。あたしもパパとしてみたい』


【別に家族がキスすることは普通のことよ。欧米では家族間の挨拶でもキスしたりすることがあるし、一度すれば相手もノってくれるかもしれないわ】


 ふふっ。やっぱりユーミンさんは最高だ。

 うじうじしているあたしの背中を押すどころか蹴ってくれる。


 彼女の話を聞いていると、あたしってまだまだぜんぜんまともなんだなと安心できる。


『今後は何か彼氏にする予定はあるの?』


【ディープキスは今週中にはしたいわね。後は……見せ合いっこかしら?】


 馬鹿だっ!? この人馬鹿だっ!?


 でもユーミンさんの話を聞いていると元気にもなれるなぁ……


 あたしもそういうことしたいと思うし、そういう妄想をすることも多いからさ。


 ユーミンさんができたのなら、あたしにだってできると勇気を貰える。

 馬鹿げたことを言ってても、あたしにとっては心強くもあるのだ。


 馬鹿な恋愛は馬鹿になんないとやってられないからさ――

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