第59話 家族
放課後になり、弓花と一緒に帰ることに。
「今日もそのまま家に帰りましょうか」
「いいのか?」
「お母様は帰ってきているけど疲れてるだろうから夕飯は私が作ってあげたいし、華菜ちゃんも修学旅行の振替休日で今日は休みと言っていたしね」
俺が言うまでも無く直帰を提案した弓花。
華菜と仲良くなったことで家族愛が深まってきてくれたようだ。
「そうだな。少し寂しいけどそうしよう」
「安心して、私も寂しいから今日は咲矢の部屋行くし」
腕に抱き着いてくる弓花。どうやら気持ちは同じの様で嬉しくなった。
「……今日はごめんなさい。咲矢の友達の木下さんにキツく当たっちゃった。咲矢が木下さんとは何もないと言ってくれてるのに、我慢できなくて」
「いや、俺の方こそ悪かったよ。そこまでさせてしまった俺に原因がある」
心春には謝罪のメッセージを送ったが、気にしてないよと返信が来た。
言葉ではそう言ってくれたが、それでも不快に思っている部分はあるだろう。
「心春が俺達の事情を知っているのは、俺が心春に弓花との関係性のことを相談していたからだ。これは俺の我儘だが、心春のことは悪く思わないで欲しいし、できれば仲良くしてほしいというのが俺の本音だ」
「それは我儘が過ぎるわね。残念だけど私はあの人と仲良くできない」
「何でだ?」
「私は……咲矢を独り占めしたいからよ」
「……お互い我儘だな」
弓花には譲れない点や妥協できない点もあるみたいだ。
まぁ俺も弓花に仲良い男友達ができたとか言われたら、同じ対応をするかもしれないので何も言い返せないな。
▲
家に帰ると母の靴があったので海外から帰ってきたことが伝わる。
「ただいまー」
弓花と一緒にリビングへ入ると、ソファーでぐったりと座っている母の姿が目に入った。
「おかえり。机の上にお土産あるから。黒い袋の方が咲矢で、白い袋が弓花ちゃんのね」
「ありがとうございます。今日の夕食は私が作りますので、ゆっくりしていてください」
丁寧に感謝を述べる弓花。
ここまで礼儀正しいと彼氏としては安心できる。
親とかに挨拶へ行く時も褒められそうだし、自慢もできる。
まぁ双子だからそういう未来は訪れないのだが……
やばい、ちょっと悲しい。
「私に似て良い子だね弓花ちゃんは」
母は嬉しそうにしている。
親指を立ててご機嫌だ。
「何この高級財布? ブルガリじゃん」
黒い袋から現れたまさかの高級お土産に俺は驚く。
シンガポールで安く売っていたのだろうか……
「カジノで大勝ちしてきたからね」
「ギャンブルとかぜんぜん良い子じゃないじゃん」
先ほど自分で良い子だと宣言していた割には、ギャンブル自慢をしている母親。
弓花はギャンブルとかに手を出すことはないと思うので、その点はあまり似ていない。
「堅苦しいわねー咲矢は。女の子だって時には遊びたいの、ね弓花ちゃん」
「はい。私も品行方正で堅苦しく生きるよりかは、自由に楽しく生きるがいいと思いますし、そうしてます」
「だよね~」
言われてみれば弓花も双子という手を出してはいけない相手に迫っているので、二人の本質は少し似ているのかもしれない。前言撤回だな。
弓花は見たことのある有名なブランドのバッグを貰っていた。
いったいいくら大勝ちしたのだろうか……
母は前から勝負強いところはあったので、意外とギャンブルとかに向いているかもしれない。
「父さんは元気だった?」
「ええ。私が行ったらすぐに元気になったわ。弓花ちゃんにも早く会いたいって」
父さんからしてみたら、自分がいない間に血の繋がっていない子供が家に上がり込んでいるといった形だ。
それでもプラスに考えているのは、良い人の証だな。
まぁ俺も実の子ではないのだが、そんな事実は関係無く優しくしてもらっていたからな。
華菜への溺愛っぷりは異常だが、尊敬できる人ではある。
「お兄ちゃーん、お姉ちゃーん」
部屋から出てきた華菜は、俺と弓花の間に入って二人の手を抱きしめる。
「あら、私がいない間にすっかり仲良しになっちゃって」
弓花への華菜の態度を見て笑顔になる母。
「華菜ちゃんが優しいので、仲良くなれました」
「お姉ちゃんの方が優しいよ。あたしは家事とかできないぽんこつ妹だから」
「そんなことないわよ。一緒に夕飯作る?」
「作る!」
弓花と華菜のやり取りを見て、俺も笑顔になる。
どうかこの関係性を壊さずに見守っていきたいが、どうなることやら――
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