第56話 裸の付き合い
「じゃあ、お風呂入るから」
俺は弓花と華菜をソファーに置いて立ち上がる。
二人に挟まれた状況から抜け出すにはお風呂という選択肢しかなかった。
「こんだけ仲の良い家族というか兄妹は他にいないだろうな……」
俺は服を脱ぎながら藤ヶ谷家の珍しさに溜息をつく。
子供の時に仲の良い家族は多いが、中学生や高校生になっていくに連れて仲は悪くなるのが一般的であるはずだ。
家庭環境やそれぞれの事情が影響しているだろうが、俺達に共通しているのは皆、総じて友達が少ないという点だろうか……
友達いないから家族が話し相手みたいな。
「ふぅー……」
シャワーを浴び終え浴槽に入ると、何故か風呂場のドアが開いた。
「お邪魔します」
何故かタオルを巻いた華菜が風呂場に入ってきた。
理解が追いつかない。
「お邪魔しますじゃないだろ。まだ俺入ってるぞ」
「知ってる」
「知ってたら俺が出るまで待ってなきゃ駄目だろ。修学旅行で常識を京都に置いてきてしまったのか?」
久しぶりに見る華菜の半裸。
色んなところが成長していて、女性らしくなってきている。
「家族が一緒にお風呂に入ることは不思議なことではないわ」
弓花の口調の真似をして、家族だから問題無いとシャワーを浴び始める華菜。
俺はタオルを持ってきてないので、体育座りをして大事なところを隠すしかない。
「お兄ちゃんに裸見られちゃうぞ」
「いいもん。お兄ちゃんなら」
問答無用とはこのことか……
華菜も妹なだけあって弓花と通ずる部分があるな。
「背中流すわよ華菜ちゃん」
「えっ、何で弓花さんが!?」
何故か弓花もタオルを巻いて風呂場に入ってきた。
大混乱だ……
この家族、崩壊しつつあるぞ。
「家族が一緒にお風呂に入ることはよくある話しでしょ? 別に特別なことではないわ」
「でもでも、おかしいって」
華菜の抜け駆けは許せなかったのか、華菜を追うようにして風呂場へやってきた弓花。
おかげでとんでもない空間になってしまっている。
「なら、華菜ちゃんも一緒に出て行く?」
「そ、それは……」
華菜は弓花と同じ立場なので言い返せなくなっている。
俺的には二人ともおかしいので、どうか冷静になってくださいという心境だ。
黙った華菜に変わって身体を洗ってあげている弓花。
その姿はもう仲睦まじい姉妹だ。
「華菜ちゃんの身体をガン見し過ぎよ咲矢」
「す、すみません」
俺は顔を伏せる。
勝手に入ってきたのはそっちなので文句を言われる筋合いはない。
「弓花さん、タオル巻いてるとはいえ、お兄ちゃんに全裸見られて恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいわよ。でも、嬉しいとも思う。華菜ちゃんの気持ちと同じだと思うけど」
「一緒なんだ……あたしと。お兄ちゃんが大好きなんだね」
「ええ。もちろん、家族としてね」
弓花は華菜に自分の気持ちを憶することなく話している。
そして、華菜の身体を洗い終えた。
「あたしも……お姉ちゃんの身体洗うね」
「華菜ちゃんっ!」
自然と弓花のことをお姉ちゃんと呼んだ華菜。
それに嬉しくなった弓花は華菜を抱きしめた。
「私のこと、認めてくれるの?」
「うん。ちょっと意地悪して、お姉ちゃんって呼んでなかった。ごめんなさい」
華菜が一歩より沿ってくれたおかげで、望んでいた絆が生まれた。
いや、でも何で風呂場なの!?
感動のシーンなのに何で風呂場で全裸なんだよ!
「私は華菜ちゃんのこと大好きよ、何でも相談してね」
「うん。あたしもお姉ちゃんのこと、きっと好きになるよ」
どうやら華菜の心境に大きな変化があったようだな。
理由はわからないが、裸の付き合いが功を奏したということなのだろうか……
そのまま弓花の身体を洗い始める華菜。
何か風呂出るタイミング逃したな。
「お姉ちゃん、胸ヤバいね」
「ちょ、ちょっと華菜ちゃん」
弓花の大きな胸を揉んで感動している華菜。
俺だってまだダイレクトアタックしてないのに、華菜のやつめ先に味わいやがって。
「めっちゃ大きくて気持ち良い」
「華菜ちゃんくすぐったいからストップ」
姉妹らしくスキンシップも挟みつつ仲良くやっているようだ。
俺はこの場には不要だと思うので、このまま自然に立ち去ることに。
「ちょっと何で出ようとしているのよ」
「そうだよお兄ちゃん、一緒にお風呂入ろうよ」
弓花と華菜に腕を掴まれる。
どうやら逃がしてはくれないみたいだ。
正直、この二人が仲良くなったらなったで、俺の身が持たないのだが。
協力して俺を味わおうとしてくるのだが……
お母さん早く帰ってきて! この二人の暴走を止めて!
その後はサンドイッチのように二人に挟まれて風呂に入った。
とんでもないことになったので詳細については記憶にございません。
お風呂を出た俺達は、そのまま三人一緒に寝ることになった。
もちろん、母親が帰ってきたらこんなことはできないので、今日限定のイベントだ。
弓花がトイレに向かい部屋から出て行ったので、俺は華菜から気持ちを聞いてみることに。
「何で頑なにお姉ちゃんって呼ばなかった弓花への態度を変えたんだ?」
「うーん……お兄ちゃんが一番好きなバンドのミスリルってあるじゃん? あんまあたしらの世代じゃ人気無いけど」
「ああ、ミスリルがどうかしたかのか?」
「ミスリルが一番好きっていう人が現れたらどう思う?」
「こいつ、話分かる奴だなって思って嬉しくなるな」
「そんな感じ」
にっと笑った華菜。
共通のものを好きになることで相手との距離が近づいたということなのだろうか……
「てーか、今まではちょっと疑ってただけ。お姉ちゃんが来て、お兄ちゃんが幸せそうになったから、あたしはお姉ちゃんのこと好きだったよ」
弓花が戻ってきたので華菜との話は終了する。
三人で一緒に寝ると、流石にベッドは狭くなる。
二人とも真ん中にいる俺に身を寄せて寝始めた。
自分で言うのもあれだが、この家族大丈夫か?
凄く幸せだが、このままでいいのだろうか……
お兄さんは二人の将来が心配です――
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