第55話 3P


 放課後になり、弓花と二人で帰ることに。


「咲矢、今日はどこ行く?」


「悪いが今日もどこも寄らないで帰るぞ。華菜が昼過ぎに帰ってきているみたいだしな。きっと寂しくて辛い思いしてたから、早く顔を見せてあげたい」


「……シスコンね」


 弓花は呆れた目を向けてくる。

 実際、双子の弓花のことも大切なので否定はできない。


「ごめんな、今日は弓花を優先できなくて」


「別に構わないわよ。独占するのはよくないし、華菜ちゃんにも咲矢パワーを少し分けてあげることにするわ」


「何だよ咲矢パワーって……」


「咲矢を見ると元気になるのよ。あなたも私を見て元気になるでしょ?」


「そりゃあな」


 俺の回答に満足した弓花は腕に抱き着いてくる。

 それを見た周りの生徒が羨ましそうな視線を送ってきた。



     ▲



「ただいまー」


「お兄ちゃん!!」


 玄関の扉を開けるなり、華菜が飛びついてきた。

 出待ちスタイルは弓花に似ているな。


「久しぶり、大丈夫だったか?」


「ぜんぜんダメだった! お土産は買ってきたよ!」


 腰に抱き着く華菜の頭を撫でると、えへへ~と嬉しそうにしている。

 やっぱり可愛いな。


 久しぶりに会うからか、俺の心が華菜にもっと触れたいと叫んでいる。

 ちょっと冷静になりたいくらい変な気分だ。


 もしかして……弓花の存在のせいで俺の倫理観がバグってきているのか?


 とりあえず距離感はもうイかれてしまったと思う。

 弓花に触れ合うと同様に華菜に触れてしまっている。


「二人きりの生活は終わってしまったわね」


 弓花は俺の左腕に抱き着いてくる。

 華菜に対抗しているのか、二人は俺の身体の奪い合いを始め出す。


「ちょっとお兄ちゃんにくっつき過ぎだよ弓花さん」


「家族だから問題ないわ」


「お兄ちゃんのこと好きなの?」


「家族として大好きよ。華菜ちゃんと一緒」


 華菜のダイレクトアタックを華麗に回避した弓花。


 流石に華菜も弓花の好意を察してはいるみたいだ。


「まだ一緒に暮らして数ヶ月じゃん。お兄ちゃんのことぜんぜん知らないでしょ」


「もう咲矢とは以心伝心してるわ。一卵性双生児の双子というのを舐めない方がいいわね」


「思い出はあたしの方があるもん」


 口論している二人を引き剥がす。


 いつになったら二人は仲良くなるのだろうか……



 母親は明日帰ってくるので、今日は三人で過ごさなければならない。

 何も問題が起きなければいいのだが、それはちょっと無理な願いみたいだ。



     ▲



「はい、お土産」


 夕食を食べ終えると、華菜はお土産の八つ橋を渡してくる。

 甘い物は好きなので素直に嬉しい。


「弓花さんも」


「あら、ありがとう」


 弓花の分もちゃんと買ってきた華菜。

 流石は我が妹だな。しっかりしている。


 弓花の八つ橋はイチゴ味なのか、パッケージがピンク色で女の子仕様になっている。


「ちょっと寝不足で眠たいからお兄ちゃんソファーに座って。枕にするから」


「部屋で寝ろよ。俺を抱き枕にするな」


「だ、駄目なの?」


「……べ、別にいいけど」


 華菜の要求を断ることはできずにソファーに座ると、華菜が俺に抱き着いて寝始めた。


「ゲロアマお兄ちゃんね」


 その様子を弓花が軽蔑するような目で見てくる。


「何か弓花が家に来てから、やけに甘えてくるようになったんだよな」


「……気持ちはわからなくないわね。私が逆の立場なら華菜ちゃんと同じことしてる」


「何で?」


「あなたのことを取られたくないからよ。よくある話じゃない? 弟や妹ができたら、そっちばかり可愛がられて寂しくなっちゃう現象に似ているわ」


「そういうことか」


 確かに別の姉妹が家族に加われば、必然的に華菜との時間は少なくなる。

 それを華菜は不安に感じているかもしれないということか。


「だからといって、咲矢との時間を譲る気は無いけどね」


「もっと華菜に優しくしてあげてよ」


「勝負に同情はいらない。これは女の戦いなの」


 相手が華菜であれ、譲る気はない様子の弓花。

 そりゃ仲良くなれないわけだ。


「んートイレ」


 尿意で目を覚ました華菜は寝ぼけながら、ふらついた足取りでトイレへと向かっていった。


「次は私の番ね」


 華菜を黙って見送っていた弓花は、華菜がトイレに入ったのを見て俺と同じように抱き着いてきた。


「どっちの方が抱き心地が良い?」


「どっちにもそれぞれ良さがあるよ」


「優柔不断ね」


 弓花は胸を押しつけてくる。

 あたかもこっちの方が良いでしょと言わんばかりに。


「ちょ、ちょっとそこあたしの席だよ!」


 トイレから戻ってきた華菜は自分の居場所を横取りしていた弓花に怒る。


「咲矢はみんなのものよ。その意見は受け入れられないわね」


「んー」


 華菜は言い返せなくて、弓花のいない方から俺に抱き着いてくる。


 これは不味いな……

 弓花の影響で華菜の積極性が増し、華菜の影響で弓花の積極性が増している。


 何たる悪循環。

 今は最高な気分だが、いつかヤバいことになりそうだ。


 下手したら3Pなんてことも……


 いやいや俺さん何考えてんだ?

 いつからそんな変態なことを考えるようになった?

 弓花は双子で華菜は妹だぞ?


 首を振って裸になった弓花と華菜に挟まれている妄想映像を振り払う。


 ヤバいヤバい、俺の頭の中が大変なことになってる。


 残念ながら俺はもう普通の人間に戻ることはできなそうだ――

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