第47話 ♀華菜の気持ち


 ※華菜視点のエピソードです。



 華菜の修学旅行も後一日。


 今日が終わればあたしは家に帰ることができる。

 やっと、お兄ちゃんの元に戻れるんだ……



 お兄ちゃんへのお土産を選んでいると、同じ班の北山さんがこっちに来た。


「華菜ちゃん誰にお土産買うの?」


「兄」


 素っ気なく一言返す。

 同じ班だからか気を使って、いつも一人のあたしに声をかけてきたみたいだ。


「お兄ちゃんいるんだ。私もお兄ちゃんいるけど、嫌いだから買ってかない」


 そう、あたし以外の女は声を揃えるように兄が嫌いと愚痴をこぼす。


 世界に蔓延る妹の九割は兄が嫌いらしい。

 でもあたしは違う。あなた達とは違うんです。


「何で嫌いなの?」


「うっさいしキモいしウザいし邪魔なの」


 なんとも辛辣な意見。

 あたしがお兄ちゃんにそんなこと言ったらお兄ちゃん泣いちゃう。


「華菜ちゃんのお兄ちゃんはどんな感じ?」


「髪ボサボサで、潔癖症で細かい。変態だし、友達いない」


「うわー最悪だね」


「でも、あたしのこと大切にしてくれるよ。そして、誰よりも優しい」


「そ、そうなんだ……」


 若干引いてしまっている北山さん。

 まっ、みんなと同じじゃないあたしがいけないんだけど。


「お土産多いね」


 あたしは三つのお土産を手に取ると、不思議な目をして問いかけてきた。


「母と姉」


「お姉ちゃんいるんだ! いいなぁ~私もお兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんが欲しかった」


 兄の話題の時と反して、姉の話題は目をキラキラとさせている北山さん。


「何で?」


「だってお姉ちゃんなら化粧とか色々教えてくれそうだし、お買い物とかも一緒にできるじゃん。兄と違ってキモくないだろうし」


 そういえば弓花さんとそういう姉妹っぽいことしてこなかったな。


 あの人絶対にお兄ちゃんのこと好きだしな~

 めっちゃべたつくし、あたしがお兄ちゃんとイチャついてると羨ましそうに見てくるし。


 今頃家でお兄ちゃんと二人きりか……羨ましいなー


「お姉ちゃんなら趣味とかでも話し合いそうだし、プレゼントとかも良いの貰えそう」


 みんな兄は嫌いだけど姉は好きなんだ。

 でも、あたしは弓花さんのこと……


「あっ、宮田君だ!」


 北山さんは好きな男の子を見つけたのか、あたしの元から去っていった。


 あたしは買い物かごに入れたお土産を見ると、全部同じものだった。

 弓花さんのもちゃんと選んであげようと思い、一つはピンク色の可愛い八つ橋に変更することに。


 今まで弓花さんに冷たく当たってたけど、やっぱり仲良くなりたい。

 そしたらお兄ちゃんもあたしのこと良い子だって褒めてくれそうだし。


 それに弓花さんとも仲良くなれば、お兄ちゃんを独占なんてあたしが悲しむ真似はしてこなくなるはず。


 弓花さんがお兄ちゃんを好きになってくれたのは嬉しくもある。

 お兄ちゃんのこと嫌って悲しませるようなことしていたら口も聞いてなかったけど、好きになったということはあたしと同じ気持ちを抱いているということだし。


 好きな人のことで語り合えるのは楽しいだろうし、理解者がいるのは気が楽だ。

 周りはみんな兄が嫌いって言うしね。


 今までは無駄に警戒していたけど、一緒に住んでいてもめっちゃ良い人だって伝わるし、お兄ちゃんと似ていて面白い。

 そもそもお兄ちゃんと一卵性双生児の双子なら、好きにならないはずがない。


 家に帰ったら弓花さんのことお姉ちゃんって呼ぶことにしよう。

 仲良くなって一緒に遊びに行ったりできたらいいな……



     ▲



 修学旅行の夜は女子トークが始まる。


 好きな人の話をするというしょうもない時間。

 参加しないと嫌われるので実質強制参加だ。


 しんどい。

 お兄ちゃん助けて……


「北山さん、宮田君とはどうなの?」


「今日話したよ。どんな女性がタイプか聞いたら、マッサージしてくれる人だって言ってた。マッサージの勉強しないと」


「頑張れ~」


 まじでしょうもない会話してる……


 マッサージなんてきっと性行為を言い換えただけの表現だ。

 宮田君はエッチな人が好きなだけじゃんか。下心丸出しだ。


「友香ちゃんは豊君と最近どうなの?」


「順調だよ。今日もキスしたし」


「え~羨ましいなー」


 あたしも好きな人とキスとかしてみたいとは思う。

 でも好きな人はお兄ちゃんしかいないし、キスはお兄ちゃんが寝ている時とかに隠れてするしかないや。


「華菜ちゃんは好きな人とかいないの?」


「いるよ」


「えっ待って、意外。男とか興味無いと思った」


 酷い言われようだが、ガキ臭い周りの男子は嫌いということもあり避けているので、男嫌いだと思われているのだろう。


「誰なの?」


「年上の高校生。名前言ってもみんな知らない」


「え、待って、華菜ちゃん年上派なんだ」


 さっきから、え、待って、がうざいんだけど。

 どこにも行く予定ないから。


「どんな人?」


「バスケ部で大人っぽくて優しくて頼りになって勉強教えてくれて甘えさせてくれる人」


「何それ最高じゃん。あたしも年上の彼氏欲しい~」


 お兄ちゃんもうバスケしてないけど、二年前に試合見に行った時はカッコよかった。


「どこまでしたの? 年上だからエッチなこととかしてるでしょ?」


「好きなだけで何もしてないよ……したいけど」


 その後も一時間ほど恋バナが続いていた。


 みんな楽しそうに話しているけど、あたしはあまり楽しくなれない。

 お兄ちゃんのこと好きだなんて口にできないし、言いたいこと隠さないといけないから。


 慣れない布団でぜんぜん寝れないな~

 お兄ちゃんの声聞きたいけど、二日連続で電話したら呆れられちゃう。


 ここはいっそ異世界でお兄ちゃんと冒険する妄想でもして夜を越えようか――

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