第46話 せいしを懸けた戦いⅤ


 お風呂から上がったが俺と弓花はお互いのぼせ気味だ。

 恥ずかしさも相まって体温が上がっていたからな……


 そのまま二人でソファーでアイスを食べながら肩を寄せ合ってぐったりとしている。


「最後の要求を発表しようかしら」


「もう疲れたから優しいので頼む」


「安心して。最後は添い寝だから、寝るだけよ」


「そうか、なら安心だ……」


 いや、安心する要素どこ!?

 一緒に寝るとか、最後の最後に試練出てきたぞ!


「距離空けて寝ろよ。くっつくの禁止な」


「いや、添い寝なんだから寄り添って寝ないと意味がないでしょ。咲矢にもう拒否権は残されていないのよ」


 そう、俺は受け入れるしかない。


 だが、一緒に寝れば弓花も俺もどうにかなってしまう可能性は高い。

 お互いに気を引き締め合わないと。


「それに、この前は華菜ちゃんと一緒に寝てたじゃない。私とは一緒に寝れないなんて言ったら、流石に怒るわよ」


「華菜は寝るだけだからな。誘惑とかはしてこない」


「今日はもう満足しているからそういう心配はいらないわ。ただ咲矢と寄り添ったまま眠りにつきたいの」


 どうやら弓花は一緒にお風呂に入ったこともあって、相当満足しているみたいだ。


「そうか、なら大丈夫そうだな」


「ええ。今日はゆっくり寝ましょう」


 乾ききっていない弓花の髪を指に絡ませてから、肩を抱き寄せる。


 触れるのを禁止した自分から我慢できなくなって触れにいってしまうとは……


「どうしたの咲矢? 恋しくなっちゃった?」


「その通りだ」


「私もよ……幸せね」


 弓花も俺の首に手を回して抱き着いてくる。

 普段は家族の目もあって平然と過ごしているリビングだが、今日は二人の場所になっていた。


 その背徳感というか非日常具合が、俺の残りライフを削ってゼロにしてしまった。



     ▲



 時刻は二十二時を過ぎたので、俺は弓花の要求通りに添い寝をすることに。


「どちらのベッドで寝ましょうか?」


「弓花の好きな方でいいぞ」


「じゃあ咲矢のベッドがいいわね。咲矢の匂いも堪能できるし」


「変態さんかよ」


「それはお互い様でしょ」


 弓花が手を差し出してきたので、手を繋いで階段を昇って俺の部屋に入ることに。


 真っ暗な部屋だが、いつも過ごしている場所なのでどこに何があるかというのは見えなくてもわかる。


 俺はそのまま弓花をベッドに押し倒して、横になる。


「ちょっと、咲矢?」


「部屋は暗い方が良いって前に言ってたよな?」


「……ええ。覚えていてくれたのね」


 寝間着姿の弓花はすぐに服がはだけてしまう。

 部屋は暗いけど、弓花の姿ははっきりと見える。


「我慢しなくていいの?」


「疲れているからか、我慢する力が残っていない」


「私も疲れているから、ただ受け入れることしかできないわ」


 弓花は不安と喜びが混ざったような、不思議な声で話している。


 吐息も荒くなっていて、覚悟を決めているようだ。


「本当に良いんだな?」


「私はずっと前から覚悟しているわ。本当に良いのか確かめるのは自分自身じゃないかしら?」


「そうだな……」


 弓花の言葉を聞いて少し冷静さを取り戻すが、俺の欲は止まらなかった。


「準備とか大丈夫か?」


「私はいつこんな日が来てもいいように、色々と処理をしてきているわよ」


「上手くできないかもしれない」


「それは私もよ。でも安心して、別に行為をする前後であなたへの想いは変わったりはしない。何も不安がらなくていいの」


 背中を押してくれる弓花の言葉。


「私も怖いから優しくお願いね」


「優しさだけじゃ生きられない」


「何よそれ。まぁ、あなたになら何されてたって受け止めるけど」


 遂にこの日が来てしまったか……

 まぁ遅かれ早かれこんな日が来てしまうのではと察してはいたが。


 弓花の身体に触れようとした時、ポケットに入れてあったスマホが音を鳴らす。


 スマホを取り出すと、華菜から着信が来ていた。



「どうした華菜?」


『お兄ちゃんっ、電話出てくれてありがとう!』


「何かあったのか?」


『消灯時間過ぎたけど不安で眠れなくて……お兄ちゃんの声を聞いて安心しようと思って』


「まったく……子供じゃないんだから」


『まだ子供だよ! 高校生になったら大人!』


 華菜は自分の中で高校生から大人だという明確な基準があるようだ。


『お兄ちゃんは何してたの?』


「弓花と話してた」


『そっか……弓花さんと変なこととかしてないよね?』


「めっちゃしてない」


『ならいいんだけどさ』


 華菜には悪いが変なことはめっちゃしてた。

 嘘をつくのは心痛いな。


「旅行に寝不足は危険だぞ。ちゃんと寝る、わかったか?」


『うん。迷惑かけてごめん』


「もし、何かあったらすぐに俺に電話していいから。俺は華菜のお兄ちゃんだしな」


『わかった。お兄ちゃんありがとう……大好き』


 華菜との通話は終了する。

 どうやら一人で不安だったようだな。


「電源は切っておくかマナーモードにしておいて欲しいわね」


 待ち呆けていた弓花に叱られてしまうが、華菜からの電話はありがたかった。


「……それじゃあ、寝るか」


「続きはしないの?」


「自分を必要としてくれる人がいるから、まだ我慢したくなった」


「そう……」


 弓花は体勢を立て直して、添い寝をする形をとる。


「色々とごめんな」


「謝る必要は無いわ。私は咲矢の判断を尊重するし、そういう咲矢が好きだから」


「そう言ってくれると助かる」


「我慢できたのは立派なことよ。私にとっては都合が悪いけど、よりあなたのことを好きになったわ」


 布団を被り、弓花を抱き寄せる。

 身体は普段よりも熱くなっている。


「咲矢って急に私の前に現れたじゃない?」


「そうだな。生き別れた双子で再会は急だった」


「だから、いつも不安になるのよ。急に現れた咲矢は急にどこかへ消えてしまうじゃないかって……だから、一人で寝る時はいつも辛いのよ。起きたら咲矢がいなくなってるんじゃないかって思って」


 弓花の不安は俺も抱いている。

 弓花がいなくなってしまう恐怖は俺も持っている。


「俺は弓花の前からいなくならないよ」


「私も、ずっと咲矢の傍にいる。だから、ずっと傍にいてほしい」


 弓花の俺を抱きしめる力は強くなる。

 俺を離さないようにしているようだ。


 温もりに溢れる弓花に抱かれたまま、俺は深い眠りにつくことに――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る