第35話 薬局


「ドラッグストアに行きましょう」


 珍しくドラッグストアに行きたいと告げた弓花。

 何か欲しい薬でもあるのだろうか……


「体調悪いなら言ってくれよ。放課後デートできなくても、家で傍にいてあげるから」


「体調は悪くないの。あと咲矢好き」


 体調は悪くないみたいなので安心した。あと弓花好き。


 二人で手を繋いだままドラッグストアに入る。


 ドラッグストアの店の中って照明のせいなのか白く眩しく光っていて、目がチカチカしてしまうな。


「早速あったわね」


 弓花は絆創膏コーナーから、指用の絆創膏を手に持った。


「家に絆創膏あるぞ」


「自分用」


 弓花にはお気に入りの絆創膏があるのか、わざわざ追加で購入するようだ。


「……そういえば」


「何か思い出したのか?」


「咲矢ってちゃんと避妊具持ってるの?」


「……は?」


 何を思い出したのかと思えば、弓花はとんでもない質問をしてくる。

 そういうことを恥じらいもなく言ってくるのは、もう弓花は覚悟しているということなのだろう。


 弓花と移動した先の商品棚には避妊具が並べられていて、目のやり場に困ってしまう。


「で、持っているの?」


「持ってるわけないだろ」


「ちゃんと備えておいてよ。いざって時どうするつもりなの?」


「どうって言われてもな……」


 いざって時が訪れたら俺は終わる。

 そうならないように日々を過ごしているのだ。


「妊娠検査薬でも買っておいた方がいいかしら?」


「事後かよ」


 妊娠検査薬を手に取っている弓花を見ていると、股間に響くものがあるな。


 もし万が一弓花とそういうことになったら、背徳感とか凄すぎてテクノブレイクしてしまいそうだ。

 色んな意味で死んじゃいそう。


「弓花ってエロいよな」


「咲矢ってエロい女好きでしょ?」


「そりゃあな。男だし」


 だからよと言わんばかりにこっちを見てくる弓花。


「薬局ってローションとかも売っているのね」


 棚に並べられているローションを手に取って、興味深そうに見る弓花。


「変なもん見つけんなよ」


「ご希望があれば、これを使って咲矢をいつでもおもてなしするわよ」


 その言葉を聞いて色々と想像してしまい、俺は弓花から目を逸らす。


「あら、エッチなことでも考えちゃったかしら?」


「今日の夕飯は何かなと考えていた」


 適当に嘘をついたが、弓花は俺の下腹部を見て小さく笑った。


「本当はヌルヌルにしたあれをあれしてほしいとか考えてたんじゃないの?」


「ぜんぜんちげーよ。ヌルヌルになったあれであれをあれしてほしいって考えてたんだ」


「……咲矢は変態ね」


「弓花もな」


 変態の双子とか、もう救いようがないだろ……


 結局、弓花は絆創膏を持ってドラッグストアのレジへと向かう。


 外で待っていて言われたので、店から弓花が出てくるのを待つことに。



「お待たせ、そこの公園行こっ」



 近くにある公園に入り、ベンチに座る。


 そして弓花は袋から取り出した買ったばかりの絆創膏の箱を開けた。


「怪我したのか?」


「それはあなたよ」


 弓花は俺の指先を見る。

 そういえば家庭科の授業の時に怪我してしまったのだ。


「絆創膏はもう貼ってあるぞ」


「それってビチ下さんが先生から貰ってきたやつでしょ」


「そうだけど……」


「私の手がかかっていないものを身につけて欲しくないの。その絆創膏を見るたびに、咲矢はビチ下さんを思い出してしまうでしょ? それが嫌なの」


 弓花は問答無用で俺の絆創膏を外して、自分の買った絆創膏に張り替える。


「こうすれば、絆創膏を見るたびに私を思い浮かべるでしょ?」


「……そうだな」


 愛が深すぎて若干引いてしまうが、それが弓花の好きな所でもある。


「弓花ってほんと自分勝手だよな」


「引いた?」


「いや、めっちゃ可愛いと思う」


「もぅ……」


 弓花は恥ずかしさを紛らわすために、隣に座る俺を抱きしめてくる。


「ついでにこれも買っておいたわよ」


 弓花はレジ袋から避妊具が入った箱を取り出した。


「何で買ってんだよっ!?」


「……あなたと一線を越えるためよ」


「越えないし、使わないから」


「と俺はあの時は弓花にそう宣言したのだが、まさか一週間後には使い切ってしまうとは……」


「勝手に代弁すんな」


 茶化してくる弓花だが、その目は本気なので恐い。


「備えあれば憂いなしよ。使わないにしてもこういうのは持ってるだけで気が楽になるの」


「まさにビチ花さんだな」


「ちょっと咲矢、その冗談は洒落にならないわよ」


 弓花は鬼の形相で俺を睨んでくる。

 心春をビチ下呼ばわりする弓花への冗談だったが、気に障り過ぎたようだ。


「私はあなたに私の全部を知って欲しいだけ。そこにいやらしい意味なんてないの」


 どうやら弓花は快楽とかは抜きに、俺に全てをさらけ出したいだけのようだ。


「そして、咲矢の全てを知りたい……」


 真っ赤な顔でそんなこと言われてしまえば、流石に俺も興奮を隠せない。


「だから私とぉ~お願いっ」


 両手で拝み、上目遣いで俺を見つめる弓花。


 洒落にならんわ。

 こんなお願い断れるわけない。


 もう人生諦めようかな俺――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る