第31話 ♀馬鹿二人
※このエピソードは弓花視点となっております。
私、長澤弓花の朝は早い。
それもこれも理由はくせ毛だから。
父も咲矢もくせ毛だから髪の毛がぼさぼさだった。
お母様はストレートヘアなので父の遺伝なのだろう。
華菜ちゃんはストレートヘアなので羨ましい。
藤ヶ谷家に居候してからは極力毎朝シャワーを浴びている。
それから髪をストレートにするためにヘアアイロンをかけたりと大変な工程がある。
朝じゃなくても水スプレーで髪を濡らしたり、手入れを欠かさずあれこれケアをしないと髪がぼさぼさになってしまう。
そんなこのくせ毛が子供の頃から嫌でコンプレックスだったけど、咲矢と出会ってからは何だか悪くない気もしてきている。
大袈裟かもしれないけど咲矢と共通している部分は、一つ一つが私の宝物だし、見つける度に嬉しくなっちゃうから……
準備が大変なので毎朝早起き。
その習性を生かして洗濯の仕事も名乗り出た。
藤ヶ谷家の洗濯は今までは基本お母様がしていて、時間が無い時は咲矢がやっていたみたい。
でも、今は私が担当をしている。
シャワーを浴び終えた私は、洗濯を終えた衣服を干す。
咲矢の下着を手に持つ。
普段はこの下着に咲矢の大事な所が隠されていると考えると、少しドキドキしてしまう。
私は自分で言うのもあれなんだけど、ちょっと変態気質なところがある。
毎日、我慢ができなくなった咲矢が私にあれやこれやしてくることを妄想しては、興奮して悶えてしまう。
でも大好きな人とそういうことを考えるのって、冷静に考えてみれば普通のことよね。
好きなんだからしょうがないし、欲なんて誰にでもある。
むしろ人間らしくあるわね。
そしてきっと、双子の咲矢も私とエッチなことをする妄想をしているんだろうなと考えると、どこか嬉しくなる。
はぁ……咲矢大好き、早く起きてこないな……
「朝から俺の下着持って悩ましそうな顔をしないでくれ」
「さ、咲矢っ!」
いつの間にか起きていた咲矢に驚き、持っていた下着を服の中に隠した。
「俺の下着をパクらないでくれ」
「あっ、これは、その、あれで……」
自分の咄嗟の行動を恥ずかしく思い、言葉が上手く出てこない。
きっと私は真っ赤な顔をしてしまっている……
「その、ごめん」
「謝らなくていいよ。俺も前に弓花の下着を干す時にあれこれ考えちゃったことあるしな。お互い様だ、恥ずかしがらなくていい」
咲矢は私の頭を優しく撫でてくれる。
恥ずかしがっている私をフォローするために自らの恥ずかしい行いを告げてくるなんて、本当に優しい人。
世界で一番好き。
「……って、私の下着を見て何を考えてたのよ」
「内側」
「この変態バカっ!」
素直に答えてきた咲矢の脛を蹴る。
ほんとデリカシーの無い男ね、超好き。
「嬉しそうに怒るなよ。そういう弓花は俺の下着を見て何を考えてたんだ?」
「咲矢の……って言うわけないでしょ!」
「ほぼ言ってるってそれ」
咲矢も私も考えていることは一緒。
双子の変態なんて救いようがない。
まっ、誰にも救ってもらえなくていいけどね。
「あっ、おはよう。言い忘れてた」
「そうね。おはよう」
毎朝好きな人とおはようを言い合える幸せ。
すっごく素敵ね。
「あと、ありがとな」
「何が?」
「いつも俺のこと思ってくれていて」
「もぅ……ばか、私の方こそありがと」
咲矢を好きな気持ちが爆発してしまったので、咲矢に抱き着く。
咲矢は私を受け止めてくれて、抱き返してくれる。
温かいし、心が安らぐ。
咲矢の胸の中にいると、自分の生きてきた意味が分かる気がする。
今まで辛いこととか悲しいことがたくさんあったけど、きっと咲矢と会うために頑張ってきたんだなぁって思える。
あたしは積極的に咲矢を求めてしまうけど、咲矢は冷静で消極的だ。
性格が似ているとはいえ、立場が違うのでそれは致し方ないことだ。
家族がいる咲矢と、父親が亡くなって身内もいない私。
まだ自立できていない私にとって、今の状況は不安だし心細い。
だからこそ、咲矢をより強く求めてしまう。
誰か一人でも私を一番に考えくれる人が欲しいから――
「ちょっと咲矢、朝から興奮してるの?」
私は下腹部にある違和感に気づいて、咲矢を見つめる。
「朝は生理現象。それに朝だから弓花は薄着だし、胸とか色々な。谷間とかえぐいし。俺は悪くない、悪いのは弓花だ」
「発情期ね。困ったものだわ」
私は呆れたふりをして、咲矢の前から離れる。
そして、お手洗いへと早歩きで向かった。
駄目だな私……
咲矢のこととなるとすぐにもう……人のことぜんぜん言えないわ。
火照った身体にうなだれながら天井を見る。
これも遺伝的な体質なのだろうか……
替えの下着が欲しくなるレベルだ。
自分自身に呆れるも、私はこんな自分が大好きでもある。
肌寒くなってくる季節だけど、咲矢のことを考えていれば身体は温かくなる。
今年の冬は防寒具とか不要かも。
むしろあえて薄着で過ごし、咲矢に温めてもらおうかしら――
考え事をしているとピロンとスマホの音が鳴った。
【あなたは双子のお兄さんと結ばれるべし。互いの好きを受け入れて恋人になるのが一番だと思う。あたしでもそーするし、そうじゃないとたぶん絶対後悔する。二人ともね】
スマホに表示された私を肯定してくれる文面を見て、ホッと胸を撫でおろす。
有名なネットの恋愛相談板で双子との恋愛を相談したら丁寧な返答が来た。
同い年の女の子からの返答なので、自分と似たような立場の人でも一緒の選択肢を選ぶことを知ることができて心の底から安堵した。
今は自分を肯定してくれる相手が欲しいので、この人にもっと相談してみよう。
一卵性双生児の双子との恋愛なんて一人で抱え込める案件ではない。
誰かに相談して打ち明けていかないと心の整理なんてできはしない。
禁断の恋と聞くと運命や特別感を抱いて相手をより愛しく想うこともある。
だが、それよりも不安や恐怖で焦ることの方がよっぽど多い。
私はまだ高校生で未熟者。
好き勝手に生きていける財力や能力も無い。
理想的な生き方なんてできないの――
咲矢ともっと深い関係になりたいとはいえ、強制的に行ってもそこに価値は無い。
咲矢の方から踏み込んでくれないと……
あ~もう咲矢大好き。大好き過ぎて死ねる。
早く私と一つになって!
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