第30話 異世界へ


「あ~疲れたよ~」


 リビングのソファーに座り一人でテレビを見ていると、部活から帰ってきた華菜が飛びついてきた。


「お疲れさん」


 ダンス部の活動はハードのようで、華菜からほんのり汗の匂いが漂ってくる。


「お兄ちゃん優しくして~」


「甘えるな」


 言葉では反論したが、華菜を抱きかかえテレビを見続ける。


 華菜は寝不足だったのか、俺の胸の中ですぐに寝てしまった。


「あら、お眠り?」


 部屋から出てきた弓花は俺の隣に座る。

 そして、華菜の可愛い寝顔を覗きながらニヤニヤしている。


「部活で疲れてたみたい」


「華菜ちゃんは本当に可愛いわね」


 起こさないようによしよしと頭を撫でる弓花。

 まるで愛しいペットへの対応だ。


「可愛いのは間違いないな」


「妹に手を出すとか最低なことは考えないでよね」


「弓花が言える立場じゃないだろそれ……」


 妹に軽く嫉妬する弓花。

 華菜は可愛いが、そういう対象として見ることはない。


「ちょっとトイレ行きたいから、華菜を預けるぞ」


「え? 大丈夫なの?」


「双子だから枕が入れ替わってても気づかないだろ」


 俺は華菜をそーっと弓花に渡すと、華菜は問題無く弓花の胸の中でスヤスヤと寝続けている。


「ほら大丈夫だろ」


「ええ……可愛いわね」


 華菜を優しく抱き寄せて楽にさせる弓花。

 そのまま仲良くなってくれればいいのだが、華菜が目を覚ましたらどんな反応をするのか……


 トイレを済まし、部屋で漫画を一冊読んでからリビングに戻った。


「どれだけトイレ長いのよ。トイレで私の妄想をして何かよからぬことでもしてたんじゃないの?」


 華菜を抱きかかえる弓花から文句を言われてしまう。

 華菜が起きるまで二人きりにしようと思ったのだが、華菜はまだ寝ているようだ。


「お兄ちゃん大好き……」


 華菜は寝言を言いながら弓花の胸の中で悶えている。

 そこにいるのはお兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんなのだが。


「そうとう寝心地が良いみたいだな」


「そうね。私も咲矢とは同じ匂いするだろうし」


「いや、その大きな胸が柔らかくて温かくて心地良いんだって。体験者は語る」


「ほんと咲矢は私の胸が好きよね。抱きしめるといつも幸せにそうにしてるし」


 弓花の胸は最強だからな。

 柔らかくて温かくて、包まれると嫌なこととか全て忘れることができる。


 それに、大き過ぎて色んなものを挟めてしまえそうだ。

 って何考えてんだ俺は……



「うーん、お兄ちゃんそこは駄目だって大事なところだから……って、あれ」


 華菜は目を覚ましたのか、間近にいる弓花の姿を見て驚いている。


「何で弓花さんが? 寝ててごめんなさい……」


 慌てて弓花から離れる華菜と、あたふたとしている弓花。

 その二人の姿はまだぎこちない。


「謝る必要はないわ。可愛い寝顔を見れたしね」


「う~」


 華菜は唸りながら俺を見つけて、背中に隠れた。


「華菜、弓花の身体を枕にして寝てたんだから感謝を述べないと」


「……お兄ちゃんの意地悪」


 華菜は背中をポコポコと叩いてくる。


「……弓花さんありがとう。寝心地良かった」


「どういたしまして」


 低速度だが、二人の距離は着実に近づいているように思える。


「お兄ちゃんって寝言繰り返してたけど、咲矢の夢でも見てたの?」


「うん。お兄ちゃんと一緒に異世界に飛ばされちゃって、日本のルールとか関係無くなって結婚した」


「……その手があったわね」


 弓花は異世界というワードを聞いて何か閃いたようだ。

 一緒に二トントラックに轢かれて異世界に行きましょうとか言い出さないことを祈る。


「私は夢に出てきた?」


「オークにお持ち帰りされてた」


「悲惨ね。でも、夢に出ているのなら悪くないわ」


 弓花は華菜の夢に自分も現れるくらいの仲にはなれたとプラスに解釈しているようだ。


 やはり二人が関われば関わるほど仲は深くなるはず。

 少し強引にでも引き合わせた方が二人の為になりそうだ――

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