第28話 心の負担


 駅前のカフェで木下さんと弓花との関係について相談することにしたのだが……


「それはヤバいって、なんかもうドラマチック!」


 今置かれている状況を木下さんに話し終えると木下さんはドン引きするどころか、めっちゃ食いついてきた。


「引いたりしないのか? 双子との恋だぞ」


「いやいやあたしは応援するよ。すっごい素敵」


 親指を立てる木下さん。

 その姿を見て少し心が軽くなる。


 今までは、まるで自分は罪人なんじゃないかという気がしていたのだが、木下さんの好意的な反応を見ると俺はそこまで悪いことをしていないのかもしれない。


「長澤さんの気持ちわかるな~、双子だから全てを理解し合えるし、気持ちを分かち合える。あたしもそんな人と出会ったら恋に落ちちゃうよ。自分みたいな人なんて絶対に嫌ってる人も一定数いると思うけどさ」


 木下さんは俺というか、弓花の方に共感しているようだ。

 そこはやはり同じ女の子同士であり気持ちがわかるのだろう。


「そんなものなのか?」


「うん。誰かに理解されることって凄い嬉しいことなんだよ。特に女子はね」


 木下さんが言うからには、それは本当のことなのだろう。

 弓花が俺を好きになる理由は十分過ぎていたということだ。


「ずっと双子が一緒に生きてきたら、きっと同じことが不気味に見えて反発し合うように育っていくと思うの。でも生き別れた故にそれぞれに育って、再会する。なんと運命的なのかね」


 感嘆している木下さん。

 他人の話なので、禁断の恋でも楽しく受け止められているのだろう。


「俺も弓花のことが好きだが、弓花の気持ちには答えられない。それがお互いにとって凄い苦しいことなんだ」


「……本当に優しいんだね藤ヶ谷君は。普通の男ならあんな綺麗な長澤さんに好かれたら即受け入れてるよ。世間なんて知らねーよと考えてね。でも、藤ヶ谷君は優しくて長澤さんを大切にしているからこそ苦悩しているんだね」


 木下さんに今の自分の理解してもらえて嬉しくなる。

 相談して良かったな……


「でも、残念」


「何がだ?」


「それ、相談しても答え出ないよ。当事者の藤ヶ谷君が一番わかっていると思うけどさ」


 木下さんは結論を先に言ってしまう。


「そうだな……諦めるしか選択肢は無いもんな」


「うん。もちろん、愛の逃避行という道もあるかもしれない。でも、それを選ぶのなら最初から選んでいるだろうし、長澤さんを拒絶するしかないんじゃない?」


 そう、その答えはわかりきっているもの。

 自分でも何度もその答えに辿り着いた。


「それが、普通の人の考え方。でも安心して、あたしは普通じゃないから」


 まるで希望を与えるかのように、話を続ける木下さん。


「あたしは隠してでも付き合うべきだと思うな。もちろん、肉体的な関係は持たないことは絶対だけど、互いの好きを受け入れて恋人になるのが一番だと思う。そうじゃないと、たぶん絶対後悔する。二人ともね」


 まさかの付き合うことを勧めてくる木下さん。

 それは、無責任な発言ではなく真摯に考えてのもののようだ。


「それできっとその内、恋は冷めるよ。恋ってそういうものだもん、永遠なんてきっとないし。だから今は、その恋を全力で楽しむべきだとあたしは思うな~」


 足をぶらぶらとさせながら、恋について語る木下さん。

 俺もその意見には賛同するが、終わりの見えない恋には怖さもある。


「やけに物分かりが良いというか、理解してくれるな」


「あたしも似たようなものだしね」


「肉親にでも恋をしているのか?」


「その内、教えるよ。今は藤ヶ谷君の話題でいっぱいいっぱいだから。凄い秘密を打ち明けてくれたから、あたしも秘密を教える。今じゃないけど」


 どうやら木下さんも何か厄介な恋愛事情を抱えているようだ。


 恋をしているということに否定もしてないかったので、好きな人もいるのだろう。

 どうりで俺達の気持ちがわかるというか、考え方が一般的では無いようだ。


「気になるな」


「今は藤ヶ谷君の話。長澤さんと付き合うべし」


「付き合ったら、絶対色んなことをしたくなっちゃだろ。好き同士なんだし」


「キスまではあたしは許すよ。恋人同士には必須行為だし」


 残念ながら弓花が求めているのは、その先の関係だ。

 キスはたぶん、その内俺も我慢できなくなってしてしまうことだろう。


「もっと器用に生きれば? もう一人恋人作って、肉体的な欲はそっちにぶつけるとか」


「論外だ」


 木下さんはイケイケのギャルということもあって、たまにえげつないことを真顔で言ってくるな。


「あら誠実。でもさ~人は一人では生きていけないって、先生に教わったでしょ? 女子だって本命の彼氏と保険の彼氏がいたりとかあるしね」


「俺がどうしようもないチャラ男だったらそういう選択肢もあったかもしれない。だが、俺は本気で弓花が好きで、家族も大切にしたいんだ」


「本気なんだね~信用できる男だこと」


 俺の弓花マジ好き発言を聞いてニヤニヤしている木下さん。


「でも……その内きっとクズヶ谷君になるよ。何もかも諦めたって」


 木下さんは俺に釘を刺してくる。

 どうやら俺が道を踏み外すことを予見しているようだ。


「でも、話聞いて藤ヶ谷君の印象さらに良くなったな~」


「普通逆だろ。双子と恋愛しそうだなんて、なんだこいつって思われるだろ」


「だからあたしは普通じゃないんだって」


 木下さんは普通じゃない。

 それは今日の予想を超える回答等を聞いて、実際に確認できたことだ。


「あたしと藤ヶ谷君ってかなり相性良いかもしれない。きっとこれからもっと仲良くなれるよ」


「そう思ってくれるなら嬉しいけど」


「うん、絶対そう。歪みっぷりがもうばっちしだね」


 ポンポンと肩を叩いてくる木下さん。

 共感を得ることが多かったのか、木下さん曰く俺と相性が良いらしい。


「藤ヶ谷君はあたしのことどう思うの?」


「見た目はギャルで派手な印象あるけど、根は良い人だと思ってる。実際優しいし」


 金髪の木下さんの見た目はギャルなのだが、性格はギャルっぽくはない。


「良い人止まりか~まぁ、藤ヶ谷君に長澤エンジェルがいるもんね」


「弓花を変な呼び方にするな。まぁ弓花を天使だと思うことはたまにあるが」


「当たってんじゃん。あたしもイケメン彼氏の双子が急に現れて、あたしのこと理解してくれて傍にいてくれたら神だと思っちゃうけど」


 そう、誰しも容姿が素晴らしい双子の異性が急に現れれば、好きになってしまうのです。


「あたしは応援してるよ二人のこと。幸せな日々が送れることを祈ってる」


「良い奴だな本当に。今まで出会った良い奴ランキング堂々の一位だよ」


「そんなことないよ。あたしは悪い子だしね」


 悪戯な笑みを見せる木下さん。


「今日は話聞いてくれてありがとうな。まさか背中を押される結果になるとは思わなかった。ちょっと気が楽になったよ」


「こちらこそあたしに相談してくれてありがとう。答えが出ない悩みって凄い苦しいと思う。だから、何でも打ち明けられる人も必要だと思う。あたしは何でも聞くよ、愚痴でも悩みでも運命に対するしょうもない嘆きでもね」


 木下さんは俺と隙間をほとんど空けずに傍を歩いて店を出る。

 時折、腕に木下さんの胸が当たっており、ちょっと鼓動が高鳴ってしまった。


 店を入る前と出た後では、木下さん距離感が大きく異なっている。

 きっと秘密を共有してくれた相手に安心感を得ているのだろう。


「何でそこまで俺に優しくしてくれるんだ? 前にスマホを一緒に探してくれたからとか言ってたけど、流石にただのクラスメイトの俺に優し過ぎるだろ」


「疑心暗鬼だね藤ヶ谷君は。素直に優しさを受け止められないタイプだ」


「悪いな変に疑って。気を悪くしたのなら謝る」


「謝らなくていいよ。実際、あたしは不自然に藤ヶ谷君に優しくしてるから」


 木下さんは俺を真っ直ぐ見つめて、目の奥を覗いてくる。


「人に優しくする時はね、下心ってのが関わってくるんだよ。そういうこと、じゃあね」


 逃げるようにして改札を通ってしまう木下さん。

 俺に優しくしてくれるのは、彼女なりの理由があるということのようだ。


 俺に貸しでも作れば、何かが得られるとでも思っているのだろうか……


 何はともあれ、木下さんとの休日は理想の時間となったな。


 一卵性双生児の双子との恋愛なんて一人で抱え込める案件ではない。

 誰かに相談して打ち明けていかないと心の整理ができないからな。


 禁断の恋と聞いて運命や特別感を抱いて相手をより愛しく想うこともある。

 だが、それよりも不安や恐怖で焦ることの方が多い。


 俺はまだ高校生で未熟者だ。

 好き勝手に生きていける財力や能力も無い。

 理想的な生き方なんてできないんだ。


 色々と考えて行動を選択していかないとな。

 BADENDに繋がる選択肢も隠されているかもしれない。


 いや、待てよ……

 俺が誰かに相談しているということは中身そっくりな双子の弓花も誰かに――

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