第27話 素敵やん
悩みというのは詰め込み過ぎると、人は疲弊していく。
適度に解決したり、外に放出しないと自分を保つことは難しくなる。
悩みは家族や友人に相談するのが一般的だ。
しかし、俺には友達がいないし、家族自体が悩みの本題になっている。
そこで俺が選んだ選択肢というのは友達と呼んでいいのかはわからないが、連絡先を知っているクラスメイトの女子に聞いてみることだった――
【木下さん、相談したいことがあるんだけど……】
【藤ヶ谷君があたしに相談!? 超気になる、相談乗るよ~】
木下さんにスマホでメッセージを送ると、好意的な回答が返ってきた。
そして、そのままこれから会う約束を取りつけることまで完了した。
土日は常にお出かけしていて忙しそうなイメージがあったのだが、意外と暇をしているようだ。
「咲矢、今日の休日はどこか遠くへ行かないかしら? 帰ってくるのはいつになるかわからない旅に出ましょう」
「愛の逃避行のお誘いをするな」
何の躊躇もなく駆け落ちのお誘いをしてくる弓花。
冗談なのか本気なのかわからないので恐い。
「冗談よ。でも、一緒に過ごしたいのだけど」
「悪いが、今日はクラスメイトと会う約束がある」
「……そう」
信じられないくらいに落ち込む弓花。
そんな姿を見せられると、つい抱きしめてしまう。
いつの間にか自分からも自然と弓花に触れられるようになったな。
慣れてきたというか、肉体的接触は何をしても許されるし、むしろ喜んでもらえるということを理解したからだろう。
「ごめん。だが、自分のために必要なことなんだ」
「大丈夫よ。でも、帰ってきたら、私との時間も用意してね」
「ああ、それは約束する」
手を繋いで想いを確かめ合うと、弓花は素直に部屋へ戻っていった。
今は冷静な判断ができない状況だ。
だからこそ、第三者の意見が聞きたいんだ――
▲
「お待たせ~」
駅前のベンチでスマホを弄りながら座っていると、木下さんがやってきた。
「普通に遅刻してきたな。ニ十分」
「そこはぜんぜん待ってないよと言うべきなんじゃないかな。そんなんじゃモテないよ」
待ち合わせに遅刻してくるということは、俺のことを何にも意識していない証拠だろう。
だが、今はそれが気が楽でありがたい。
適当に扱われることに心地良さを感じる日が来るとはな……
「俺はモテる気がない」
「余裕がある男は違うね」
会って早々に軽い会話を交わす。
やはり木下さんとは話しやすいな。
それにしても、木下さんの私服は初めて見たな。
もう九月の終わりだが、まだ気温は少し暖かいのでラフなシャツにパーカーを羽織っているだけ。
「どうしたの? あたしのことじろじろと見て」
「初めて私服見たからさ」
「あ~そうか、藤ヶ谷君ってクラスの打ち上げとか来ないもんね」
木下さんも胸は少し大きいな。
いや、けっこう大きい方か……
弓花の胸が大き過ぎるせいで感覚が麻痺しているな。
「藤ヶ谷君の私服はイメージ通りかな。モノクロ男」
「影の者はモノクロを着なければならないんだ」
「何それウケる」
木下さんとそのまま近くのカフェに入ることに。
二人きりなのでデートみたいな感覚だが、弓花との交流のおかげで女性への耐性ができており変に緊張しないで済んでいる。
注文した飲み物を持ってテーブルに座り、相談を始めることに。
「それで、スマホでも言った相談のことなのだが……」
「ちょっと待って、当てたい」
何故かクイズが始まってしまう。断る理由もないので受け入れることに。
「……長澤さんが関わっていることとみた」
「凄いな。当たりだ」
「まぁ藤ヶ谷君が関わっていそうな人ってあたしか長澤さんしかいないしね」
「それもそうか」
どうやら俺の相談内容は予め限られていたようだ。
狭い世界を生きているんだな俺は……
「長澤さんが実は幼馴染であり、子供の時は親友だった。当時は長澤さんを男だと思っていて、恋愛感情とかはいっさいなかった。でも高校生になって再び再会した長澤さんは胸もめっちゃ大きくなって女性らしい女性に。長澤さんから好意を持たれているが、子供の頃の記憶が抜けない藤ヶ谷君は、いまいち一歩踏み出せずにいる。なんてのはどうでしょう?」
木下さんは独特な予想を俺にぶつける。
想像力豊かな人だな……
まっ、現実はもっと凄いことになっちゃってんだけどさ。
「違います。まぁ当てることの方が難しいけど」
「てーかあたし思うんだけど、長澤さんと藤ヶ谷君って似てない? 兄妹とか言われたらそうかもってなる。苗字が違うから、兄妹ではないと思うんだけど」
どうやら木下さんは俺と弓花が似ていると感じているようだ。
だが、クラスで俺に唯一関心がある木下さんでさえ、双子とは予想できていないので誰かに関係性を気づかれることはなさそうだ。
「実は俺と弓花の関係性が、悩みの種になっている」
「弓花? 名前で呼んでんじゃん」
しまったと思うものの、もう手遅れだろう。
ここは開き直って、木下さんの前では弓花呼びでいくしかない。
「けっこう重要な秘密というか、絶対に言いふらさないで欲しい内容なんだ」
「あたし見た目はこんなんだけど、口は堅いから安心して。言わないでって言われたら絶対に言わないからさ。まぁ藤ヶ谷君もそれを見越してあたしに相談を持ち掛けてくれたと思うけど」
やはり木下さんは根は良い人だな。
安心して相談できる。
「あと、ドン引きするような内容だけど、どうか俺を見捨てないでほしい」
「気になるな~、まっあたしもドン引きされるような人間だから何でも受け入れられると思うよ」
念には念を。
木下さんに向けて色々と保険をかけていったが問題は無さそうだ。
だが、リスクは最小限に留めた方がいい。
木下さんが最初で最後の相談相手だろう。
「実は俺と弓花は双子なんだ。一歳からずっと生き別れていて、夏の終わりに再会した」
「双子!?」
「それで俺と弓花は今、恋をしている。だが、双子だからそれは許されない。それが俺の悩みだ」
俺の告白を聞いて黙り込む木下さん。
改めて口にすることで、自分がいかに稀有で危険な状況に立たされているかを再認識することに。
「引いたか?」
「いや、何それ……」
「受け入れてくれるんじゃないのか?」
「いやいや、めっちゃ運命的。そんなん、素敵やん」
木下さんは意外にも目を輝かせて、素敵やんと言ってくれた。
何故か関西弁やん。
だが、状況はしっかりと飲み込んでくれたようだな。
幸いにも軽蔑した様子ではなく、真逆のときめきを見せてくれている。
それにしても……言っちゃってよかったかな?
少しばかり後悔というか不安な感情が湧き出るが、もう前に進むしかない――
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