第21話 生か死か


 母と弓花との三人で朝食の時間を過ごす。


「いつも美味しい朝ごはんありがとうございますお母様」


 弓花は母に感謝を述べてから朝食のトーストとサラダを食べ始める。


「いえいえ。弓花のお父さんはどういう朝食を作ってくれていたの?」


「ごはんと海苔と即席の味噌汁でした。朝からごはんは重かったので、トーストが恋しかったです」


「あの人らしいわ……」


 母は元夫のことを思い出したのか、少し複雑な顔を見せていた。


 サラダの味が薄いと思ったのでテーブルのドレッシングを取ろうとすると、弓花と手が重なった。

 朝から早速シンクロしました。


「ちょっと今日は眠いわね。昨日の夜は身体が熱くて上手く眠れなかったし」


 弓花は隣で朝食を食べている俺の肩に頭を乗せてくる。

 母の前で大胆なことをしてきやがるな……


「体調悪いのか?」


「少しダルい程度」


 俺の目を見つめニヤニヤとしてくる弓花。

 おいおい、可愛いなまじで。


「本当に二人とも仲良くなったわね。咲矢の性格を知ってるからあまり仲良くできると思ってなかったけど」


 俺達の様子を温かい目で見守っている母。

 さりげなく俺の性格が悪いとディスってきているな。


「咲矢といると落ち着きます。頼りになりますし、いつも気にかけてくれます」


「やはり離れていても双子だったのね……そういう心の繋がりというか、シンパシーは素敵ね。私は兄妹とかいなかったから、そういうの羨ましいな~」


 母は俺と弓花の関係を羨ましがっている。


 やはり双子という関係性なので、多少いちゃついても仲が良いと捉えられるようだ。


 あえて弓花は家族に見せつけているのだろうか……


 俺と弓花がべったりでも普通なことであると、耐性をつけさせているのかもしれない。


 実際、華菜とべったりでも母親は何も関係性を疑ってこない。

 俺が変に身構えたりすると、逆に変に思われるのか……


「お兄ちゃ~ん」


 椅子に座っている俺を背中から抱きしめてくる華菜。


「どうした?」


「朝の占い十位だったよ。金髪ギャルに気をつけてだって」


「どんな占いだよ……」


 華菜は朝のテレビ番組で必ず放送される占いの結果を俺に報告してきた。

 星座占いなので弓花も俺と同じ結果だ。


 金髪ギャルといえば隣の席の木下さんのことが思い浮かぶな。


「ラッキーアイテムは妹だって」


「華菜じゃん」


「そう、あたし~」


 嬉しそうに俺にじゃれてくる華菜。

 猫みたいで可愛いな。


「そろそろ支度しないと遅刻するわよ咲矢」


 何故か少し怒った様子で時間の指摘をしてくる弓花。


「そ、そうだな……」


 俺は重い腰を上げて、家を出る準備をすることに――



     ▲



「行ってきます」


 弓花と一緒に家を出ると、すぐに俺と手を繋いできた。


「急に何だよ恥ずかしいな」


「学校へ近づく少しの間だけだから我慢して。ちょっとだけでも咲矢に触れていたいの」


 純粋な声で触れていたいと言われてしまえば、断ることはできない。

 他の生徒の姿が見えるまでは手を繋いで歩くことに。


「あなた、華菜ちゃんと距離が近すぎじゃないかしら?」


「弓花よりは遠いよ」


「いいや、べったり具合は華菜ちゃんの方が上。悔しいけど、経験の差が出ているわね」


「華菜と張り合うなよ……」


 華菜は弓花と違い、兄としての俺のことが好きであると公言している。

 あくまでも兄妹として仲が良いだけだ。


 しかし、弓花は俺を男として好きなのだ。

 その意識の差を忘れてはならないし、天と地の差がある。


「でも華菜ちゃんと違って、私は胸が大きいしアドバンテージがあるわね。咲矢も華菜ちゃんに抱き着かれるより、私に抱き着かれた方が充実感あるでしょ?」


 自分の大きな胸をポンポンと叩いて主張している弓花。

 確かにその大きな胸は脅威だな。


「勝手に言ってろ」


「強がっちゃってさ、こういうことされると嬉しいくせに……」


 弓花は繋いでいた手を抱きしめて、腕を胸に挟んでくる。

 俺の腕がコッペパンに挟まれたソーセージみたいになってら。


「いや別にそんなことされてもめっちゃ嬉しいけど」


「否定から入ったくせに肯定したわね」


「まー俺も普通の男だからな。大きい胸を好きにならないわけがない」


「そう……私の胸は咲矢のものでもあるから、好きに使っていいわよ」


 少し俯いて恥ずかしそうに意思を伝えてきた弓花。


 とんでもないことを口にした弓花だが、その誘惑に負ければ一線を越えることは間違いないのでトラップでもある。


 俺は弓花から発動される数々のトラップに理性を保って回避しなければならない。


 まさか双子との生活が、社会的に生きるか死ぬかを試されるギリギリなラインを渡る生活になってしまうとは――

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