第15話 ミニ嫉妬
お昼休みになり、弓花が速攻で教室から出ていった。
きっと俺が教えた例の場所へ向かったのだろう。
俺の席は窓側であり、周りに集団ができることなく静かだ。
だから弓花のように移動する必要もなく静かに食事ができる。
隣の席の木下さんは飲むゼリーを口に咥えながらスマホを弄っている。
他に食べ物は見当たらない。
「それだけで足りるのか?」
「うん。ダイエット中だし」
木下さんが太っているとは思えない。
むしろ痩せている方だ。
それでもまだダイエット思考があるとは、女子も大変だな。
「痩せる必要ないだろ」
「あるよ、ほら?」
木下さんは制服をめくって俺にしか見えない絶妙な角度で少しお腹を見せてきたので、慌てて目を背ける。
一瞬見た木下さんのお腹は特に膨れてもなく、おへそも綺麗だった。
「お、おい、何してんだよ」
人生で初めて痴女という人をこの目で見た。
痴女なんて存在は都市伝説かと思っていたけど、本当にいたんだな……
木下さんの思考回路や行動は俺にはまったく理解できない。
それが怖くもあるのだが、彼女を知りたいという興味もそそらせる。
「興奮した?」
「驚いただけだ」
「そかなー藤ヶ谷君っておへそとか好きそうじゃん、おへそ綺麗だなーとか思ってそう」
見事に言い当てられていたが、このまま相手をしているとからかわれるだけなのでスマホを見ることに。
スマホには珍しくメッセージが届いていた。
それは弓花からで、まだ?と一言。
どうやら俺が一緒に昼休みを過ごすのは彼女の中で確定された事項みたいだ。
「あれっ、どこか行くの?」
俺が立ち上がると、木下さんは不思議そうな目で俺を見る。
「ちょっとな」
「長澤さんのとこ?」
「エスパーかよ」
「流石にわかるよ。まっ、ごゆっくり」
俺と交流があるのは木下さんと弓花しかいないので、冷静に考えれば木下さんの言う通り予想できることだったな。
▲
「遅いわよ」
「悪い」
弓花の元に辿り着くと、睨まれてしまった。
来てほしいなら、事前に今日もよろしくとか言ってほしかった。
俺は弓花と少し離れたところに腰かけて食事を摂り始めると、弓花がその距離を少し詰めてきた。
「咲矢ってぼっちよね?」
「ぼっちかそうじゃないかで問われたら、俺は間違いなくぼっちだろう。てーか、見ればわかるだろ、俺が友達とワイワイしてるとことか見たか?」
「いや、何か隣の尻軽そうなギャルとよく話してるとこ見るから」
「あ~木下さんは二年連続同じクラスだからな。友達というか、知り合いみたいな。木下さんは誰とでも話すし、特別仲が良いわけではない。あと勝手に尻軽にするな」
どちらかというと木下さんのお尻は大きくて重そうな人だった。
いや、そんなことはどうでもいい。
「そうなの……なら、いいんだけど」
「何がいいんだよ」
「咲矢に友達がいるのは、何か腹立つから」
「理不尽だなおい」
俺に友達がいると弓花は腹が立つらしい。
こんな理不尽な話聞いたことない。
「じゃあ、咲矢は私が男友達と話してたら腹立たない?」
弓花の仮定を頭の中で想像する。
弓花が福尾とか今野と仲良く話しているところをイメージしてみた。
「腹立つかも……」
「でしょ?」
弓花は自分の気持ちをわかってもらえて嬉しかったのか、ニコニコとしている。
「でも、安心して。私は男嫌いだし、咲矢以外の男と仲良くなれないから」
「安心するどころか、将来が心配になる。男子と関わることは将来的に避けては通れないだろ」
「じゃあ、咲矢で慣れることにするわ。咲矢で耐性をつける作戦」
そう言って弓花はさらに俺への距離を詰めてくる。
それはもう、肩がぶつかるほど近く。
「俺の役割重要だな。弓花の将来を担っている」
「そうよ。私のことを想うのなら、あなたが私に男をいっぱい教えて」
挑発的な目で俺を見てくる弓花。
可愛い女の子にそんなこと言われると、照れるというか興奮しちゃうので止めてもらいたい。
「俺にできる範囲なら協力するよ」
「よろしい」
俺の太ももに手を置く弓花。
安堵したのか、深い溜息をついていた。
「そういえば、体育の時に手を振ってきただろ」
「あっ、うん。咲矢が私の活躍見てたから、嬉しくなって」
「俺も手を振られて嬉しくなったけど、隣にいた木下さんに長澤さんって藤ヶ谷君のこと好きでしょって勘違いされてたぞ。あんまり人目につくことしない方が……」
弓花の方を見ると、顔を真っ赤にさせていた。
「弓花?」
「……確かに今思うと、少し大胆だったかもしれないわ」
「まぁ可愛いかったよ、あの時」
「本当に!?」
「うん、何か俺も凄い幸せな気持ちになった」
「咲矢……」
三秒ほど俺達は見つめ合ったが、すぐに背を向けた。
お互いに顔が真っ赤になっていることだろう。
「咲矢がシュート決めてるとこチラッと見てたけど、カッコよかったわよ」
「見てたのか」
「……ええ。あなたのことはいつも見てるわ」
何故か心臓の鼓動が早くなってしまうが、それは弓花も同じなのだろうか……
もじもじしながら手で胸辺りを押さえている弓花の姿を見ていると、同じであるかもしれないと推測できる。
いやいや、きっと俺の思い込みだろう。
勘違い自惚れ男にはなりたくないので、勝手に弓花も俺に好意を抱いているかもしれないとか考えるのは止めておこう。
その後は特に会話もなく昼休みが過ぎて行った。
隣にいる弓花の表情はずっと嬉しそうだったな――
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