第16話 クレープ


 放課後になり学校を出ると、少し距離を空けてついてきていた弓花が隣に立った。


「そのまま帰るか?」


「もう少し咲矢と二人でいたいのだけど」


「俺もそう思ってた。どこか行くか」


 俺の言葉聞いた弓花は、嬉しそうな表情を見せて背中をポンポンと軽く叩いてきた。

 気持ちがシンクロしていると思うと俺も嬉しくなるな。


「弓花って甘い物好きだろ?」


「何よその決めつけは」


「俺が甘い物好きだからな」


「……悔しいけど、甘い物は私も大好きよ」


 やはり同じだった。

 確認する必要も無いとは思ったが、好きなものが同じということを実感したくてわざわざ聞いてしまった。


「駅前にオススメのクレープ屋さんがあるんだ」


「行きたい」


 考える間も無く瞬時に回答した弓花。


「やっぱりな」


 クレープと聞いて目を輝かせている弓花。

 俺以上に甘い物には目がないみたいだ。


「肉より魚派でしょ?」


「そうだな」


「ほらほら」


 私もあなたのことをわかっているわと主張したいのか、得意気な笑みを見せる弓花。


「一番好きな色は黒でしょ? 青系統の色も好き」


「正解」


「よしよし、全部私と一緒」


 正解すればするほどご機嫌になる弓花。

 その姿を素直に可愛いと思うし、俺も当てられると嬉しくなってしまう。


「猫より犬派でしょ?」


「いや、猫派だけど」


「えっ!?」


 弓花は俺と違う回答を見つけてしまいショックを受ける。

 双子とはいえ育った環境が違うので、多少の誤差はどうしても生まれてしまうだろう。


「私と異なる答えを出さないでよ」


「それは無理があるだろ」


「できるだけ咲矢とは同じでいたいの。私も今日から猫派。にゃーん」


 何故か無理に合わせてくる弓花。

 理解し合えないものは受け入れられないのか、異なる答えは俺に合わせてくるつもりのようだ。



     ▲



 駅地下にあるクレープ屋に辿り着き、俺は苺と生クリームとチョコソースがかかったメニューを頼むことに。

 すると、弓花も俺と同じメニューを注文していた。


「何で同じものを頼むんだよ。二つ頼めば二種類味わえるのに」


「ななな、何よ、その間接キス前提の言い方は!」


 俺の言葉聞いて顔を真っ赤にする弓花。


「そ、そうか……そうなるよな。華菜とはいつも、別の味頼んで二種類楽しんでたから、その感覚で言ってたわ。ごめん」


 弓花は双子とはいえ、まだ付き合いは浅い。

 間接キスを前提に話をするべきではなかったな……


 出来上がったクレープは俺と弓花に渡されて、近くのテーブル席で食べることに。


「美味しいわね」


「だろ」


「男なのに美味しいクレープ屋を知ってるのはどうかと思うけど」


「杉山先輩に教えてもらったんだよ」


 俺の言葉を聞いた弓花はクレープを食べる手を止めてしまった。


「その先輩ってもしかして女性かしら?」


「……そうだけど」


 俺の回答を聞いた弓花は、足のつま先で俺のすねを軽く蹴ってきた。


「何すんだよ」


「他の女との思い出の場所に連れてこさせないでよ」


「別に何の思い出も無いよ。杉山先輩は前にも言った昼休みの隠れ家的な食事場所を教えてくれた眼鏡かけてて地味でぼっちだった先輩だ」


 他人の話になると機嫌を一気に悪くさせる弓花。


 疑問には思ったが、冷静に考えることに。

 弓花が俺の知らない男の話してきたら、確かに俺もあまり快くは思えないな……


 あれ? これって嫉妬とかいうやつじゃ……


「ああ、あの人のことね。付き合ってたの?」


「そういう関係じゃないって……連絡先も知らないし。それに前にも言ったが俺は自慢ではないが、誰かと付き合ったことはない」


「それは自慢していいことよ」


 先ほどまでは怒っていたが、何故か俺に今まで彼女がいなかったと聞いて急に笑顔になった弓花。

 前にも彼女なんていなかった話をした気はするが、俺のモテなかった話は弓花の好物らしい。


「咲矢のクレープ食べさせてもらえないかしら」


「何でだよ、味は一緒だぞ」


「嫌なの?」


「嫌じゃないけど……」


 弓花は俺のクレープと自分のクレープを交換する。

 俺は弓花のクレープを食べたのだが、味は変わらないはずなのに弓花のクレープの方が少し甘い気がした。


「これ意味あるか?」


「……あるわよ。ちょっと距離が縮まった気はするし」


「潔癖症だから男の俺が食べたやつなんて不快だろ?」


「私とそっくりなあなたを汚いと思うのなら、私も汚くなってしまうわ。咲矢の汚れなら不快になんて思わない。他の男のクレープだったら投げ飛ばしてるけどね」


 どうやら俺の汚れは全て受け入れてくれるようだ。

 何かちょっとやらしいな……


 まぁそういう俺も弓花のことなら何でも受けいれることができそうだけど。



 少し気恥ずかしくなってしまった俺達はクレープが溶けないようにささっと食べ終えた――

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