第14話 令呪
四時間目は体育の授業となった。
男子は教室で女子は更衣室で体操着に着替える。
何故、男子は更衣室を用意されていないのか、いつも疑問に思う。
九月ということもあり暑さは続いていて、ジャージを着ている生徒は少ない。
体育館に集まり、右半分は女子がバレーボールを行い、左半分は男子がバスケを行うみたいだ。
体育の先生が適当なこともあり、指導とかは行わず試合をするだけ。
だが、その適当さは俺のような影の生徒にとっては苦痛な時間である。
クラスで勝手にチーム分けしなければならないので、俺さんこういう時どういう顔すればいいかわからない。
「友陽と俺でドラフトしようぜ」
「だな」
クラスの人気者である
あのような場を回す存在がいると、影の生徒である俺も助かるな。
「二人目は藤ヶ谷君かな」
「まじか、ダークホースだな」
まさかの福尾に第二指名で呼ばれてしまった。
俺なんて名前わからなくて最後になるのがオチだと思っていたのに。
「何で俺なんだよ」
「去年の球技大会のバスケで、違うクラスだったけど活躍してたのを覚えてたからね。今は帰宅部だけど、中学の時にバスケ部だったんだろ?」
「一応な」
俺の存在がイケメンの福尾に認識されていて、少し嬉しくなる。
だが、俺は高校でもバスケ部だったぞ。
一週間で辞めたけど。
チーム分けの後はウォーミングアップが始まる。
イケイケの人たちがボールを占領してウェイウェイ言いながらシュートをぼこすか打っているので、俺は柔軟体操に専念する。
「転校生の胸やばいな」
「性格はヤバいけど、容姿だけならクラス一位だろ」
何人かの生徒の目は隣でバレーボールを始めている女子に向けられている。
俺もチラ見するが、弓花が走っていて胸が大きく揺れていた。
確かにあれはヤバい……
「やっぱ長澤さん可愛いよね」
「うおっ」
福尾が急に俺へ話しかけてきた。
心臓止まるかと思ったわボケ。
「何だよ、急に」
「今、長澤さんのこと見てたでしょ?」
「見てねーよ。長澤さんの胸は見てたが」
「ははっ、正直者だね藤ヶ谷君は」
下手な嘘はみっともないので正直に伝えたが笑われてしまった。
「福尾って初日に転校生から手をはたかれたりしただろ? あの態度とかウザくないのか?」
「いや、あれは俺が馴れ馴れしくしすぎたと思うよ」
理不尽に弓花からキレられた福尾だったが、怒ることなく自らの非を認めている。
イケメンだからか器も大きいみたいだ。
「藤ヶ谷君って長澤さんと家族ぐるみで仲が良いんでしょ?」
「何で知ってんだよ」
「木下さんから聞いたよ。あんな美人さんと縁があるなんて羨ましい限りだ」
噂というのは本当にあっという間に広まってしまうな。
恐ろしくもあるが今はありがたい。
「ちょっと待った、何で福尾はブラジャー着けてんの!?」
よく見ると福尾は胸が少し膨らんでいて体操着の内側にブラジャーの影が見える。
「友達とゲームしてて負けちゃってさ、一週間ブラジャー生活っていう罰ゲームを受けているんだ。今日はその最終日。他のみんなはほとんど知ってるけど、知らない藤ヶ谷君は驚くか」
陽キャラの遊びって意外と恐いな。
罰ゲーム重すぎだろ……
「今野君も前に一週間ズボンを逆に着る生活してたよ。俺達の中ではそういう遊びが軽くブームになってんだ。めっちゃ面白いよね」
思い出し笑いをしている福尾。
ぜんぜん笑えない俺が異常なのだろうか……
友達いなくて良かったー……
最近の陽キャラの遊びはえぐいって。
そういう身内のノリとかは俺みたいなよそ者には理解できん。
ウォーミングアップの時間は終了し、試合が始まる。
俺はレイアップシュートとスリーポイントシュートを決めて五点を取ることに成功したが、帰宅部の影響で体力が無く五分で他のクラスメイトと選手交代をした。
「はぁ……はぁ……」
普段は運動しないくせに、自分の得意分野だからといって全力を出してしまい疲れ切った。
これも俺の負けず嫌いな性格のせいだろう。
息を切らしながら壁にもたれついて、試合を眺めることに。
そんな俺の元に拍手をしながら、ジャージ姿の木下さんがやってきた。
「試合見てたよ藤ヶ谷君。相変わらずバスケ上手いね」
木下さんとは去年も同じクラスだったので、バスケが得意だったことを知っているようだ。
「木下さんは試合ないのか?」
「あたしは一生見学。体育だるいし」
ジャージ姿な時点で運動する気無いと思っていたが、見学しているようだ。
「体調悪いのか? 無理するなよ」
「ぜんぜんそんなことないよ、ズル休みだし。心配してくれてありがと」
どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだ。
木下さんは不良気質というかマイペースなので、学校を休むことも多いからな。
俺は女子バレーの方を見ると、弓花が強いスパイクを放っていて点を取っていた。
やはり弓花もスポーツは苦手ではないみたいだな。
そんな弓花は近くで俺が見ていたことに気づいたのか、小さく手を振ってきた。
そして、すぐに切り替えて試合に集中し始めた。
「えええ!? なに今の?」
木下さんは先ほどの弓花の行為に驚いているようだ。
「手を振ってきたな」
「転校生ってああいうことするんだ。もっとクールな人かと思ったから、ギャップ萌えだよ。というか藤ヶ谷君好かれ過ぎでしょ? あんなの好きな人にしかやらないよ」
「それは大袈裟だろ」
「うわ~乙女心わかってない。ないわ」
木下さんに引かれてしまう。
弓花は双子なので、友達感覚で活躍を見ていた俺に手を振ってきただけだろう。
だが、凄く嬉しかったのは事実だ。
手を振られただけで一気に幸せな気持ちになった。
試合終了の笛が鳴り、バスケの試合が終了した。
結果は十八対二十二で福尾チームは負けていた。
せっかく幸せな気分だったのに、試合に負けていたせいでその気分がどこか遠くへ行ってしまった。
戦いに負けるってのは本当に嫌だな……
「くそー! 一週間左手に令呪生活だ!」
試合に負けた福尾は悔しそうに叫んでいる。
どうやらこの試合でも罰ゲームを科していたみたいだ。
女子側の方を見てみると、弓花のいるチームが負けてしまっていた。
弓花が髪を荒くかき分けており、めっちゃ不機嫌になっていた。
どうやら負けず嫌いという点も同じみたいだ――
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