第13話 エチぃ女


 普段通り教室へ入ったのだが、何故かクラスメイトがちらほらと俺の方を見ている。


 あれ……俺なんかやっちゃいました?


 少し居心地の悪さを感じるが、その視線は敵意や軽蔑といった類のものではないので気にしないことにした。


「やるねー藤ヶ谷君」


 隣の席のギャルである木下きのしたさんが話しかけてきた。

 相変わらずスカートが短くてエチぃ人だな。


「俺は何もやってない」


「教室で噂になってたよ。ショッピングモールで藤ヶ谷君が転校生を連れて歩いていたって。藤ヶ谷君って恋愛に興味無さそうに見えて手が早いとか、逆に転校生が扱いやすそうな藤ヶ谷君をペットにしたとか、藤ヶ谷君って出会い系とかやってそうだとか」


「あーそれか」


 流石は学校社会。

 噂の広がりが早過ぎる。


 いや、最後の噂に関してはただの偏見じゃねーかっ!


「あたしも驚いたかな。藤ヶ谷君って意外と肉食系なんだって」


「勘違いするな。長澤さんとは親が仲良くて知り合いなだけだ」


「え? 転校生って遠くの岐阜県から来たんでしょ? 家族が仲良いとか嘘っしょ」


 まぁ素直に信じてもらえないのはわかる。

 だからといって長澤さんとは双子ですとも言えない。

 困ったものだな……


 肝心の弓花はイヤホンを付けて音楽を聴き、本を読むことで完全に周りをシャットアウトしている。

 俺もそうすればよかったぜ。


「俺が自分から長澤さんに声をかけて連れ回せると思うか?」


「思わない」


 即答されて少し悲しくなってしまう。


「そういうことだ。信じてもらえないかもしれないが、俺は長澤さんと家族ぐるみの付き合いがある。それで昨日は駅前のショッピングモールの案内をお願いされていたわけだ」


「……まぁ、あの藤ヶ谷君が自分から女子に話しかけるのとか無理か。友達すらいないのに」


「一言余計だぞ」


「まっ、その話になったら、みんなにカップルじゃないみたいだとは言っとくよ」


「助かる」


 どうやら木下さんは信じてくれたみたいだ。

 木下さんはこのクラスでも一目置かれている生徒なので、木下さん発信で噂は静まっていくことだろう。


「でも、やっぱりちょっと怪しいかな」


「……女の勘ってやつか?」


「いや、あの転校生がちょくちょくこっちの様子を見てくるからさ」


 俺は気づかなかったが、木下さんは弓花の視線に気づいたらしい。

 俺には本を読んでいるようにしか見えなかったが……


「まー藤ヶ谷君の話題なんて、超どーでもいいんだけどね」


「本音出し過ぎだろ」


「ごめんごめん。みんなもきっとその内どうでもよくなって、すぐに忘れるよ」


 俺を嘲笑う木下さん、やっぱりギャルは恐い。

 シャツのボタンみんなより一つ余分に開けており、何度も思うが相変わらずエチぃな。


「そういう木下さんも噂立てられてたぞ」


 俺は前に教室で誰かが話していた木下さんの噂話を思い出した。


「どんな?」


「隣駅で金持ちそうなおっさんと歩いていたって」


「それパパじゃね?」


「そりゃそうか」


 女子高生がおっさんと歩いていたら、お父さんである確率が高い。

 木下さんはギャルなので変な憶測が立てられてしまうのだろう。


「お金くれる方のパパね」


「そっち!?」


「じょうだーん。あたしのパパお金持ちだから、そういうことしなくてもお金あるし」


 木下さんの冗談はリアル過ぎて本当に信じてしまった。まったく笑えないぞ。


「一万円貸そうか?」


 木下さんはブランド物の高そうな財布を取り出すと、中に分厚い札束が見える。

 十万円ぐらいは入っていそうだな……


 四角い包みみたいな物もいくつか入っているのが見える。

 ……あれは見なかったことにしよう。


「お金なんか人に貸すなよな。それに、そんなお金持ってるから変な噂立てられるんじゃないか?」


「別にどんなこと言われたっていいし。あたしだけが本当のあたしを理解していればそれでね」


 木下さんは変わった人だな。

 だから誰も話しかけないような俺にも話しかけてくるのだろう。


 俺は無意識に弓花の方を見てしまったが、弓花と目が合った。

 向こうは咄嗟に目を逸らしたが、本当にこちらの様子をチラ見していたみたいだ。


 たったそれだけのことで凄く幸せな気持ちになった。


 目が合うだけで嬉しくなってしまうとは……

 ちょっとヤバいな俺。

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