第11話 ♀弓花の気持ち
※この話は弓花視点のエピソードです。
破裂しそうな想いを吐き出すかのように、私、長澤弓花はベッドに倒れ込む。
藤ヶ谷家に居候を始めて数日、慣れるどころか心はまったく落ち着かない。
それもこれも、あの藤ヶ谷咲矢という男が原因ね……
突如私の人生に現れた双子という存在。
父が亡くなる前にその存在は聞かされた。
自分の双子とか想像しただけでも身震いをしていた。
自分に似た男がいるなんてありえないと存在を否定したかった。
でも、しばらく経って冷静になると怖いもの見たさに会いたいという気持ちになった。
興味が湧いたというか、存在を確認しておきたいという気持ち。
そして、父の葬式時に咲矢のお母様から声をかけていただき、藤ヶ谷家に居候すると即答した。
結果は……
私と同じ、くせ毛頭の無愛想な男だった。
彼に特出した魅力もなければ、異性が惹かれる要素も見当たらない。
でも、彼といると何だか凄い落ち着く。
安心もするし、心が温かくなる。
もっと一緒にいたいし、触れていたいとも思う。
気づけば咲矢のことばかり考えていて、ずっと彼を目で追っている。
この気持ちが何なのかわからなくてモヤモヤしていたところに、彼が急に力強く抱きしめてきたもんだから気づいてしまった。
いや、気づかされてしまった。
咲矢に抱きしめられた時に湧き出た思いは、好きという二文字だった。
あの幸福感や湧き出る興奮は、好きな人に対して湧き出る感情だ。
今まで人を好きになったことなんてなかったから、とても新鮮な気持ちだった。
でも、どうして初めて好きになれた人が、よりによって自分の双子なのだろう……
人に恋をするのは一瞬と話では聞いていたけど、まさか私もそうなるなんて。
でも、双子の相手を好きになっても報われない。
公言できないし、誰からも認められない。
しかし、そんな逆境であろうと、私の心は咲矢を強く求めている。
それだけ彼を想う気持ちが強いのだろう。
馬鹿だな私は……
馬鹿だから、馬鹿げた恋をしてしまう。
でも、そんな馬鹿な自分が大好きでもある。
熱くなった身体を冷ますために飲み物でも飲もうかと部屋を出ると、同じタイミングで咲矢が隣の部屋から出てきた。
まったく……
この男はどうしていつも同じタイミングで行動するのだろう。
「さっきは悪かったな」
咲矢は先ほどの抱擁を再び謝ってくる。
華菜ちゃんを助けるためだったので謝る必要はないのだが、それでも彼は引け目を感じているようだ。
「どうだった? 私の抱き心地は?」
咲矢の引け目を軽くするために、私はあえて軽口で冗談を言ってみた。
「……良かったけど」
恥ずかしそうにしながら私の胸の方を見て、慌てて目を逸らした咲矢。
何その反応……可愛い、好き。
咲矢は今まで何度か私の大きな胸を見ては恥ずかしそうにしていた。
それが私はたまらなく好きで、もっと見て欲しいとも思う。
他の男子に胸を見られたら不快でしかないのに……
きっと、私を双子ではなく女として見ているのが嬉しく思えるのだろう。
結局、咲矢と一緒に行動し飲み物を飲むことに。
彼は何も言わずとも私が飲みたいと思っていたお茶を入れてくれて、渡してくれる。
私のことをわかってくれているのが本当に嬉しい。
彼もまた私のように自分をわかってくれる私の存在を嬉しく思っているのだろうか……
いや、思っている、そうに違いない。
私とそっくりなのだから、同じ気持ちを抱いているはず。
「咲矢の好きな女性のタイプって何かしら?」
「うーん……自分のことわかってくれる人かな」
それって私よね? この人、遠回しに私のこと好きって言っているわよね?
どうしようどうしよう、この喜びを早く誰かに伝えたいけど話せる友達がいない。
「後は清潔感のある人かな。俺は潔癖症だし、相手もそれを許容してくれる人じゃないと」
だからそれ私よね? しかも私の好きなタイプとほぼ一緒!
嬉しい嬉しい、胸が熱いし呼吸が上手くできない。
「弓花は?」
「あ、あなたと同じよ」
「……そうか」
私の気持ちを察してくれたのか、顔を赤くしている咲矢。
私もきっと同じ顔をしているだろう。
お茶を飲み終えた咲矢は逃げるように自分の部屋に入っていく。
きっと私と一緒にいるのが恥ずかしくて居辛かったのだろう。
リビングでテレビを点けると今話題のイケメン俳優が出演していた。
カッコイイし雰囲気も爽やかで人気があるのも頷ける。
でも、俳優さんを見ても私の心は何も動じないし、惹かれることもない。
何で咲矢はこの俳優さんよりもカッコよくなければ爽やかでもないし、オーラが何一つないのに、見るだけであんなにドキドキするのだろう……
好きになる理由がわからない。
他の人にはない咲矢の魅力っていったい何?
自問自答の繰り返しで混乱しそうになる。
今まで彼氏なんてできたことなければ、人を好きになったことすらない。
自分のことは大好きなんだけど……
あぁそっか、自分のことが大好きだからだ。
だから自分そっくりな咲矢に惹かれているんだ。
自分みたいな男性……
それはきっと私の理想の存在なんだ。
謎がちょっと解けた気がして、ずっとモヤモヤしていた気持ちが晴れてくる。
きっと、咲矢じゃなきゃ駄目なのかもね私は――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます