第7話 昼休み


 三時間目が終わり、十分休憩の時間が始まる。


 次の授業が終われば四十分の昼休みが始まるので、俺は弓花にラインでメッセージを送ることに。


 遠くに座っている弓花を見るが、イヤホンをして音楽を聴きながら本を読んでいるのがわかる。

 完全に周りをシャットアウトしていて、人を寄せ付けないオーラが見える。


 初日からあの徹底ぶりは凄いな……

 俺も休み時間には音楽を聴いて過ごすことは多いので人のことは言えないが。



     ▲



「藤ヶ谷君、気を遣ってくれてありがとう」


 昼休みが始まり廊下を出ると、弓花がその後ろを少し離れてついてきた。


 早速孤立を極めている弓花。

 教室で昼休みを過ごすのは辛いだろうと察して、静かに過ごせる良い場所があるとスマホで事前にメッセージを送っていた。


「余計なお世話じゃなかったか?」


「いいえ。どうしようか困っていたところだったし、ありがたい助け舟だったわ」


 弓花の席の周りは騒がしいグループが何組かあり、その連中が昼休みにまとまって食事をする。

 俺なら耐えがたい位置なので、救いの手を差し伸べた。


 二年生の教室が集まるエリアを抜けると、弓花が俺との距離を詰めてきた。


「藤ヶ谷君、見事なぼっち生活だったわね。休み時間に常に一人でスマホ弄っていて、友達がいないことが明白だったわ」


「それ長澤さんが言う?」


「私はまだ初日だもの。友達はいなくて当然よ」


 どうやら友達を作る気はあるみたいだ。

 とてもその気持ちが態度に表れていなかったので、友達とかいらないし一人でいたいしという姿勢の人だと思っていた。



「ここなら、静かにひっそりと昼休みを過ごせるぞ」


「あら、意外と良い場所ね」


 弓花を校舎裏にあるベンチや机が置かれているちょっとしたスペースに案内した。


 近くに窓があるも、そこにある教室は化学室や家庭科室等で人の気配はない。

 屋根もあるので雨が降っても大丈夫だ。


「こんな場所を知っているなんて、この学校でぼっちを極め過ぎじゃないかしら? 少し心配になるレベルよ」


「俺が一年の時に教室に居辛くて外でうろついてたら、今は卒業してしまった三年生の先輩が教えてくれたんだ。ここはこの学校の歴代のぼっちに引き継がれている聖地なんだ」


「私をその歴史の一部にしないでよ」


 三、四ヶ月の間だったが、この場所を教えてくれた杉山先輩には世話になったな。

 ここにある机も杉山先輩がどっかの教室から勝手に持ってきたと言っていたしな。


 眼鏡を掛けていた地味な先輩だったが、俺とここで過ごすことを嫌な顔一つせずに受け入れてくれていた。

 希望の大学に入れたみたいだが、今はぼっちを卒業して楽しく過ごしているのだろうか……


「じゃあ、後は何かあったらスマホにでも連絡してくれ。俺は基本的にスマホ弄ってるからすぐに気づけると思う」


「えっ、戻っちゃうの?」


「一人の方がいいかなと思って」


「いや、新しい学校だから一緒にいてくれると助かる……かも」


「そうか、じゃあ俺もここで食べるよ」


 同伴を希望した弓花。

 俺もここで過ごすのは好きなので、拒否する理由は無い。


 俺も弓花もコンビニで買ったパンを食べる。

 理由は片手で食べられるし、楽だから。

 きっと弓花も同じことを考えているだろう。

 

 母は働いていることもあり、俺は弁当を作らなくていいよと言っている。

 たまに作ってくれることもあるが、基本は貰ったお金で昼食を買っている。


「長澤さん、初日から飛ばし過ぎじゃない?」


「何が?」


「周りに冷たい言葉を放ったり、福尾君の手を強く払いのけたりさ。もっと穏便に学校生活を送ろうとは思わないのか?」


「……ああいう人たちは遅かれ早かれ私の元から去っていくわ。なら、最初から絡まれない方が手際が良いと私は考える」


 その考え方は俺と同じだな。

 だが、客観的に弓花の行動を見ているとそわそわするので、もっと穏便に済ましてもらいたいとは思う。


「触らないでよと言った時は、流石に俺もヒヤっとしたぞ」


「私、男子に触られると鳥肌が立つのよ。本当に無理なの」


「……そうなのか。俺は男子も女子も平気だけど。まぁ馴れ馴れしい男子はうざいとも思うが」


 俺は女子に触られても鳥肌が立つことは無いし、可愛い女子ならむしろ嬉しい。


 双子とはいえ、全てが弓花と同じわけではないみたいだ。


「そこは親の教育の違いね。私は父親から男子とは関わるなと子供の頃から強く言われていたこともあって、男子に強い拒否反応が出てしまうの」


 弓花の父親は、俺の実の父親の話でもある。

 娘を大事にしたかったのかもしれないが、それが歪んだ教育となって弓花に変なトラウマを植えさせてしまっているようだ。


「あっ」


 風が強く吹き、弓花が置いていたコンビニの袋が俺の元に飛んでくる。


 それを慌てて掴もうとした弓花の手と俺の手が合わさってしまい、二人の手でコンビニ袋を掴んだ。


「悪い、触っちった」


 俺は慌てて手を放す。

 事故だったとはいえ、男子に触られると鳥肌が立つと言った弓花に触れてしまった。



「うそ……」


 だが、弓花は怒るどころか驚いている。


「どうかしたのか?」


「鳥肌が立たなかった……こんなの初めて」


 どうやら男の俺に触られても鳥肌が立たなかったことに驚いているようだ。


「たまたまじゃないのか?」


「いや、そんなことは……ちょっと、私を触ってみて」


「は?」


 弓花に触ってとお願いされて困惑する。

 綺麗な女性に触るのは双子とはいえ緊張する。


「いいから早く」


「しょうがねーな」


 俺は弓花の検証のためだと気持ちを切り替えて、肩に触れてみる。


「どうだ?」


「何故か大丈夫……あなた、本当に男?」


「お、男だよ」


 男だと証明できるものはいくつかあるが、見せてはいけないものなので口で説得するしかない。


「双子だから平気なんじゃないか? 家族とか兄弟とか身内だと認識していれば流石に拒否反応は出ないだろ」


「やっぱり血とか遺伝子とかが同じだからかしら。性別は違えど、存在は瓜二つなあなたを拒否することは自分自身を拒否することにも繋がるものね」


 今度は弓花が俺のお腹や腕を触ってくる。

 問答無用だな……


「くすぐったいぞ」


「ごめん、男子に触れるの新鮮だからつい」


 こんなところを見られたらカップルがイチャついていると思われてしまう。

 だが、弓花は少し嬉しそうな表情を見せていたので、特に拒否はせずに受け入れた。


 その後は学校の授業の話をしていると、あっという間に昼休みの時間は終わってしまった――

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