第10話 幼女は見て愛でる為の物である!
セナはあれから、
「で、話ってなんだよ。中じゃダメなのか?」
ゲームセンターの裏手にある、自転車置き場まで連れて来られたキドケンはセナに尋ねる。マッドはキドケンの後ろで俯きながらチラチラとセナに視線を送っていた。気持ち悪い。
「これから話す事は普通じゃない事なの。あんた達はどうでもいいけどアタシは知り合いに聞かれたくないから」
「セ……セナさん。ふ……普通じゃないって、もしかしてあなた隠れ腐女子なんですか?」
「は? 何言ってんのコイツ。殺していい?」
「マッドは後でオレが殺しとくから、要件を話せ」
「あんた達、ミツオと仲が良いでしょ? 最近おかしな所はなかった」
「おかしい事だらけだな。急に最強の戦士を目指して、学校バックれて、自分より強い奴を探しに行っちまった」
「キドケン。それはお前の勘違いだ。ミツオは脳内彼女に会いたくても会えない悲しみに打ちひしがれていたんだよ。それで傷心をいやすために今日は早退したんだ」
「ゴメン。あんた達が何言ってるか、全っ然わかんない」
セナはこめかみに手を当てる。
「アタシから説明する。今のミツオに何が起こってるか。かなり普通じゃない話だけど、多分あんた達くらいアホだったら、話しても問題ないわ」
※ ※ ※
セナの話を聞いた後、マッドとキドケンはしばらく口を閉ざしてた。
「どういう状況か少しは理解出来た?」
「ま、まあ、多少は」
とマッド。
「で、どうすりゃいい? あいつはバカで、ボンクラで、変態で、クソったれで、正直ぶっ殺したいくらいムカつくときもあるけど、仲間だ。やべえ時くらい、助けてやらねえと」
「それなんだけどな、キドケン。水子って言うと、流産とか、中絶とかで生まれてこれなかった可愛そうな子供の幽霊だろ? やっぱここは水子の親を探し出すのが一番じゃないかと思うんだ。きっとオレ達の身近に親がいるんじゃないか?」
「なるほどな。流石だぜマッド。頭がキレる。誰か心当たりのある奴は……」
マッドとキドケンは「うーん」と唸り声を上げながらクラスメートたちの顔を思い浮かべた。
あいつは違う。
あいつの訳が無い。
あいつが一足先に童貞卒業してる……?
そんなわけないな、だったら世界は終わりだ……
二人の様子を見ていたセナが溜息をつく。
「無駄な事考えてんじゃねーよ。お前らなんて全員童貞だろ」
セナの言葉に膝から崩れ落ちる二人の少年。
「女に言われるのが、こんなにも応えるとは思わなかったぜ」
震える声でキドケン。
「お父さん、お母さん、先立つ息子をお許しください」
手を合わせながら目を瞑るマッド。
「それと、あんた達勘違いしてるみたいだけど、ミツオに憑いてるのは三歳くらいの幽霊よ。水子って胎児の霊だけじゃなくて子供の幽霊全体を示す言葉だから。そう考えるとアタシ達と同世代が親って事はあり得ない」
「うぇぇぇぇ!」
死にかけていたマッドが、急に目を開け叫び出す。
「な、何? これどういう生き物なの。気持ち悪い」
マッドの反応にセナが引きつる。
「ミツオが三歳ぐらいの幼女と! ミツオめ。羨ましい。羨ましいぞミツオめ。うらやま、うらやま、うらめしうらめし」
「放っておけ。男心は複雑なんだよ」
息を吹き返したキドケンが言う。
突然、駐輪場に金属音が響いた。
三人は音の方に振り向くが、そこには倒れた自転車があるだけで誰もいない。風すらも吹いていない。だが、立て続けにマッドのすぐ後ろの自転車も倒れ、もう一台倒れ込んできた自転車をキドケンがかわす。
「なんだ! 何が起こってんだよ」
怯えるマッド。キドケンは半身に構えて様子をうかがう。その時セナの顔に風が吹き、彼女の肩まで伸びた髪の毛が後ろへ大きくなびいたかと思うと、力が抜けたようにセナが膝をついた。
「おい、大丈夫か?」
キドケンがセナに話しかける。
「助けて……お兄ちゃんが、連れて行かれたの」
セナの口から、か細い声が響いた。
「は? 何言ってんだ。こんな時に」
「短い服と、ぶかぶかのズボンを穿いた怖い顔したクルクル頭の人に、車で連れて行かれちゃったの……お願い助け……うるっせーよ! 勝手に人の口使ってんじゃねえ!」
突然、ドスを利かせた怒鳴り声を上げて立ち上がるセナ。「怖いよ。三次元の女の子」とマッドはまた怯えるが、今はそれどころじゃない。こんな奴は放っておこう。
「何があったんだよ?」
「一瞬、取り憑かれた。ミツオに憑いてた子みたいだ。あー、本っ当にウゼー。これだから幽霊は嫌いなんだ。マジ、死ねよクソガキ」
「ちょ、ちょっと待ってセナさん。幽霊とはいえ仮にも幼女だよ。もうちょっと優しくしてあげようよ。それにもう死んでるから」
「だったらもう一回死ね。あームカつく」
セナに対し「やっぱり三次元怖いよ」と呟くマッド。むしろお前の将来の方が怖いわ。
「で? その幼女はまだこの辺にいるのか?」
「いるよ。あんたの目の前にいる」
素早い動きで一歩下がるキドケン。あらゆる格闘技で養ったフットワークがこんなところで役に立つとわ。
「おかげでミツオの居場所について手掛かりが掴めたけどね。短い服に、ぶかぶかズボン、クルクル頭。そんな奴に掴まってるらしい」
「短い服に、ぶかぶかズボン……」
マッドが呟く。
「おまけにクルクル頭。あいつしかいねーだろ、そんなダセー格好。って事は多分ミツオがいるのもあの場所だな」
キドケンがマッドの言葉を繋ぐ。
「え? あんた達わかったの?」
「大体な。早速ミツオを助けに行こうぜ」
キドケンが急かす。
「ちょっと待てキドケン。慎重になった方がいい。それにあの場所ならオレ達のテリトリーだ。良い作戦を思いついた」
マッドは自信ありげにニヤリと笑った。
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