第4話 天国ではフーリーという七十四人の処女が、お前を待っている。
「オレ達の秘密の場所にヤバい事態が迫ってる……」
マッドは真剣な表情で二人に言うのだが、キドケンは
「もったいぶるなよ。あんなゴミ捨て場でヤバい事が起こるわけねえだろ」
と野次を飛ばした。
マッドが言う秘密の場所、キドケンの言うゴミ捨て場は彼ら三人のたまり場の事だ。
第二次世界大戦当時、そこには火薬工場があったそうだ。その土地は終戦後に更地になったのだが、手つかずのままいつまでも放置されていた。
とある噂せいだ。
火薬工場があった時代に事故で死んだ者の魂が、成仏しないままそこに残っている、と。
信憑性は定かではないが、真夜中に火だるまになって歩く人影を見た、とか顔が焼け溶けた女が夜な夜なすすり泣きをしている、等々の噂が後を絶たず、気味悪がってその土地には誰も近づかなかった。
代わりに、その土地へゴミの不法投棄が自然と始まった。いつしか広大な土地はゴミで埋まり、ますます人が近づかなくなった。
「昨日、秘密の場所に行ったんだ。品物に手入れをしようと思ってさ」
「どうせ、晩のオカズを取りに行ったんだろ」
「悪いかよ。企画モノが急にオレを呼んだんだから仕方がないだろ。そんな事より問題はその後なんだ。品物の手入れをして、『大乱交! 全国女子〇生野球拳甲子園2007』を鞄に入れてゴミ捨て場を出た時……」
「おい、それ次貸してくれ」
「貸してやりたいのは山々何だがな、もう手元にない。コピーする前のマスターだからデータも残ってないんだ。すまないな、ミツオ」
「勘弁してくれよ。オレはあのDVD、コピーできるまで待ってたんだぜ」
「オレとした事が抜かった……ってそんな事どうでもいいんだよ! 話しを脱線させんな!」
間少年は「どうでもよくねえ!」と言うが、「とりあえず話を聞こうや」とキドケンに遮られる。
「話しを戻すぞ。ゴミ捨て場から出た後だ。警官に声をかけられたんだよ。制服じゃなくてスーツ着てたから、刑事って奴だと思う。で、そいつ持ち物検査をさせろって言ってくるんだよ」
「それで、素直に鞄の中見せちまったって訳か?」
「それ以外にどうすりゃいいんだ? 鞄に入れてた学生証みられて、十八以下だからDVDは没収された」
間少年は額を押さえてうなだれる。
「でもそれくらい珍しくもなんともないだろ? 慌て過ぎだよお前」とキドケン。
「なんか違うんだよ。その刑事、目的があってゴミ捨て場を張ってた感じなんだ。ここによく来るのかとか、知り合いでこのゴミ捨て場に近づく奴いないのか、って質問攻めにされた」
「で、答えたのかよ」
うなだれながら間少年。
「そこは誤魔化してきたよ。適当に」
「で、話しってのはそれだけなのか」
とキドケン。
「それだけだよ。十分大問題だろ?」
間少年は溜息をついてマッドに言う。
「なあ、マッド。そりゃ気にし過ぎだ。それだけの事でいちいち騒ぐなよ」
マッドは間少年に食い下がろうとするが、キドケンも同じ事を考えていたようだ。
「お前は体を鍛えねえから、心身ともに脆弱になっちまってんだよ。良い機会だ。お前も最強の戦士を目指せ」
「死んだ方がマシだ。って言うか死ね」
「んだと、コラ!」
キドケンが怒鳴る。こんな争いはいつもの事だ。間少年は慣れた調子で話題を変えた。
「そーいやキドケン。さっき何で喧嘩してたんだ?」
マッドの襟首を掴んでいたキドケンが、その体制のまま答えた。
「あ、あれか。三年の奴がよ、オレにフリスクを一万で売りつけようとしてきたんだよ。こりゃもうカツアゲだろ? だからブチのめした。そんだけ」
「どんなフリスクだよ。超高級素材で作られた皇室御用達ってか」
笑う間少年にキドケンは、ポケットからフリスクのケースを取り出して見せる。
「おもしれーから、その超高級品ブン取ってやった」
キドケンはマッドを掴んだまま、ケースを開けて数粒フリスクを口の中に放り込んだ。
その直後、キドケンはマッドを放し、表情を変えて
「まっず! オエェ!」
勢いよく噛み砕いたフリスクを吐き出した。
「天罰だな」
と呟きながら襟を直すマッド。
キドケンはあらかた吐き出すと、間少年のジュースを奪って口を濯いでもう一度足元に吐き出した。
「キドケン。さも当然そうな顔でうがいしてるけど、それオレのジュースだぞ」
「お前。大事な友達が腐ったフリスク食って腹壊したらどうすんだよ。悲しいだろ? そうだろ?」
「悲しくねえよ! それよりお前に吐き出された、ジュースの方が不憫だっつーの!」
今度は間少年がキドケンに掴みかかる。
丁度その時チャイムが鳴った。掴みあう二人はマッドに引き離され、それぞれの教室へと向かうのであった。
※ ※ ※
午後は世界史の授業だった。食後の授業と言う事もあり、三十人の生徒のほとんどは頭を机に預けている。だがしかしどうだろう。
「ってな感じで、イスラム教徒ってのは極度な禁欲をしてるんだが、それじゃ誰も従わないだろ。つーわけ天国ってのが必要になって来る。その天国ってのがフーリーっていう七十四人の処女といつでもセックス出来るってとこでな。そのフーリーってのは何回ヤッても処女のまま……ってお前らエロい話しした途端に起きるんじゃねえよ!」
世界史の教師が言う通り、眠っていた生徒達はもれなく机から顔を起こしていた。
また、これはムサイ男しかいない工業高校の特徴ともいえるのだが、どうせ教室にはバカな男しかいないから容赦なく下ネタをぶっこんでくる教師がいる。ふむ、平和な事だ。
「エロい話したとたんムクムク起きやがって、お前らチンコその物じゃねえか! よし。じゃあ、次のページ、ここテストに出るからな!」
テストと言う言葉にみるみる萎えていくチンコ達……もとい生徒達。間少年も類にもれず力尽きかけていた。
今日は朦朧とするほど蒸し暑い。そのうえ食後の授業だ。頭をはっきりさせろと言う方が無理のある、と間少年は思いながら、昼休みに買ったジュースを飲み干した。
飲み干した途端に間少年は猛烈な眩暈に襲われた。午前中あれだけ眠ったのにまだ眠いのかな? おかしーな。ま、寝るか。などと考えていたが窓の外に何か動く物がある事に気付いた。
間少年の座る席の左手側に窓があるのだが、発情期みたいにギラギラしてた太陽光が降り注いでいる。
そして、その窓のすぐ外に裸の女がいた。
思わず目を疑う間少年。
(おいおい、ここ三階だぞ)
彼は自分の目がおかしくなったのかと思い目を擦った。再び目を開けて窓の外見る。すると裸の女が二人に増えていた。
一人目は肩まで伸びた黒髪サラサラヘアー。清楚な雰囲気で乳首の色はピンク色。クッソ、股間の辺りにモザイクがかかっててよく見えねぇ!
二人目は茶髪のショートヘアー。小麦色の肌したチョイギャル系。なんかエロい雰囲気で乳首の色はピンク色。クッソこっちも股間の辺りにモザイクかかってる!
などと観察しつつ、間少年は眉間に皺を寄せていた。もう一度眼を擦る。今度は裸の女が四人に増えている。
一人はツインテールのロリ巨乳。何にも知らなさそうな顔してエグイ事するよ。こういう子。絶対。そんでやっぱり股間にはモザイクかかってて、歯がゆい、実に歯がゆい。
もう一人は黒縁眼鏡でちょっと斜に構えた表情。こういう子がエロい事するとたまらんのですよ……それはそうと何なんだよ股間のモザイク! 俺たちはいつもモザイクの向こう側を目指してるんだよ!
間少年は心の中で叫び声を上げながら、もう一度眼を擦った。すると裸の女は八人に。もう一度、目を擦る。すると今度は十六人に……。
気が付くと七十四人に増えた裸の女達は教室の中にまで入って来ていた。教室が狭く感じるほどの大人数に困惑しつつも間少年の下半身はいきり立つ。彼女達は全員、間違いなく正真正銘の処女だった。
処女達は間少年目がけて迫って来る。間少年に逃げ場はない。壁のようにフォーメーションを組んで処女達は間少年に迫る。もはや間少年は逃げる気はない。
だが次の瞬間、処女たちの取った行動に間少年はあっけにとられ、そして己の悶々とした欲情は打ち砕かれた。
何を思ったか間少年を取り囲む彼女らは突然仰け反り、ブリッジすると映画「エクソシスト」で悪魔に憑りつかれた子供のように間少年めがけて迫ってきたのだ。股間を向けて……もとい、モザイクを向けて。
迫りくる処女たちに対し抵抗むなしく間少年はモザイクにまみれ、モザイクの中に埋もれ、あぁ、そうか、知ろうと思えば思うほど知る事ができなくなる……愛とモザイクはこうも似ているのか……とわけのわからん思考を最後に眠りに落ちるのだった。
そして間少年が寝言で呟いた。
「……デジタルモザイクなんて大っ嫌いだ」
その言葉に、後ろの席のマッドが感銘を受けていたことを彼は知らない。
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