第5話〜雑談

「ぶっふぁお前.......そりゃあっははははは!!」


「爆笑すんなよ!今まじで困ってるんだよ!」


高校の中庭ーーというリア充の巣窟(カップルエンカウント率ドラグエのスラ◯ム並)の場所にはとてもいられない我ら人目気にする非社交的ガキンチョどもは屋上の前の階段で駄弁っていた。

無論屋上のドアは開いていない、だって危ないじゃん。


爆笑しまくる友人ーー浩介コウスケの横腹に思いっきり肘鉄を叩き込むがゲラゲラ笑いながら簡単に止められた。

青山浩介、友人らしき何か、趣味はツイッルーを一日中眺めて時間を浪費すること。

生粋のダメ人間で生徒会長に追われている、理由は知らん。


「いやお前、攻撃力ゼロって、しかもアクセサリー商人ってどんなネタプレイだよっ......ふっふふクソワロタ」


笑えないんだよこっちは!?


「やめろ、まじで悩んでるんだから。ぶっちゃけ指輪とかのアクセサリーで戦闘するしかないのかこれ?」


「あー攻撃力ゼロっつうか、うんまあそうだな。基本的に重量がある装備が使えないなら基本的に保持可能な指輪、腕輪とかだな。ネックレスもあるけど入手難易度高い上に需要が凄いしほぼ手に入らん。ダッシュと毒霧って偏りすぎだろ」


「ぶっちゃけ使えんの?」


ここは初心者だし自称上級者(自称)の英知に頼るもの悪くないだろう。


「ダッシュは基本暗殺系で使われる、主にPKプレイヤーがダッシュで飛び込んで麻痺毒を付与したナイフでグッサリとか。あと毒霧は軽い嫌がらせにしかならないしモンスターにほぼ通じない。基本毒耐性があるからな」


「ふむふむナイフを持てなくて毒霧もモンスターを倒せないと。控えめに言わずとも詰んでねこれ?」


「そう思うだろう?俺がゲーム内で一番使う武器は弓だ」


「つまり?」


「基本的な戦略はお前が突っ込んで嫌がらせして撹乱したところを狙撃する感じだな。まあそのためにはもっとアクセサリーのレパートリー増やせないとろくに戦えないだろうがな」


「うわぁ......なんで俺ばっかりこんなことになるんだよ」


「ランダム生成するからだよ。あれ容姿を数値化してそれに見合ったアバターを選んでるんだよ。だからイケメンが超高能力の微妙な顔の筋肉マッチョになることはあっても太ったブザメンがイケメン戦士になる事はない、醜い豚みたいな戦士になるな。で今回の場合お前の......」


「?」


ぼーっと横顔を見つめてどうしたこいつ。

若干頬が赤い気がするがこいつはあれか、最近流行のインフルにでもかかってるのか?

誤魔化すように頭を思いっきり掻いて......毛根大丈夫?後々はげそうだなこいつ。


「美少女よりの美少年、かなりの高数値は多分ゲーム側が処理しきれなかったんだよ、知らんけど」


「よくわからんんが、まあお前を責めた所で今のクソみたいな状況が変わるわけじゃないしな......なんとか頑張るか」


「ポジティブは良い事だ。俺もポジティブにならなきゃな......」


「どういう意味だ?」


やけに真剣な顔で呟いたその姿に深く違和感を覚える。

こいつは基本ポジティブなバカだ。

鬱陶しいほどのポジティブ野郎でネガティブとは無縁に近い。

つまり今の発言はあれか、謙虚のふりか?


「こっちの話だ。俺は昨日ネガティブすぎてトイレ行くために席を立ったら女子どもに侵略されて退けって言ってやったら違うクラスで首吊ろうかと考えちまったんだよ」


「おう吊るならトイレ行った後のほうがいいらしいぞ?」


なんせ吊ると自制ができなくなりだだ漏れらしい。


「止めてよね!?俺のギンギラギンなギラギラハートでも傷つくんだぞ!」


「やすりがけでもしてろ。せめてさり気なくなれ」


もっと高校生らしいネタを言え。

あれだ、なんだっけあの玄米みたいな名前の人。

まあ思い出せない、ぶっちゃけどうでも良いので思い出す必要もない。

人間は忘れる生き物だとどっかの偉い人が言ってたはずだ、知らんけど。


「俺トイレ行ってくるわ、お前も行くか?」


「女子か一人で行け」


「うわーん私連れションしたいなぁ」


「女子は連れション言わないと思うぞ、早よ行ってこい」


露骨に気持ち悪い挙動をとる浩介の背中を足で押すと危ねぇなっ!?と言いながら余裕で階段を駆け下りてどっかへと走って行った。

トイレは一人で行けって話だ、お前は三歳児かってぇの。


そんなくだらないことを考えていると階段を登る足音が聞こえてきた。

なんだ、またくだらないことをいうために戻ってきたのか?

というか腹減ったしチョココロネ食べたい、いやでも今日は間違えてカニクリームコロッケパンを買ってしまった。

あの餌に群がるアリの大群の様な購買部では狙った獲物を手に入れられないのがザラだ......食欲旺盛な男子恐るべし。


それはともかく階段を登ってきた顔は見知った人物のものであった。

凛とした顔立ちに男子が誰もが夢見る様な腰辺りまで伸びた艶のある美しい黒髪に大和撫子然とした黒眼。

威風堂々とした立ち振る舞いにすらっとした体型は理想的と言って過言ではない。


彼女はこの学校の生徒会長である黒山椿クロヤマツバキだ。

浩介を振って振られた仲である、うんわからん。

まあ色々会って浩介に構ってもらいたいのか何かに託けて寄ってくるが天文学の神様か愉悦の神様が微笑んでるのか彼女がくるとき確実に浩介は何処かに行っているのだ。

流石に哀れ、俺の姿を見とめた彼女は一瞬よくわからない笑顔というかなんだ?涎垂らしそうというか、まあきのせいだろう、おかしな表情を浮かべたあと凛とした表情で口を開いた。


「奴はどこですか?身嗜みが整ってないとあれほど言っているのに治らない」


「言うほどひどいか?確かに鳥のが巣を後みたいな髪型とどうやったらできるのかわからない背後のシャツが地味に飛び出てて靴紐が良く解けてるのを除けば......模範的だろ?」


「あなたが一番酷いですね。身嗜みではなくて言い方、姿格好だけは模範的と言うのに何故性格がそうも捻くれているのか......」


「そりゃあ男女からラブレターもらいまくったらこうなるだろ」


本当にあれはトラウマになる、ラブレターを開けた瞬間溢れ出る謎の毛......差出人不明でめちゃくちゃ曲がってるやつだった。


ーーそうだ、たまには浩介とエンカウントさせてみよう。

こうやって適当に雑談してればあいつも戻ってくるだろう、それまではまあ不本意だがカニクリームコロッケパンを頬張るとしよう。


この生徒会長が厳しいので結構な生徒に嫌われているが個人的にはとても良い人だと思う。

醜い赤い髪もあり得ない碧眼も生まれつきのものと言って先生に啖呵切ってくれたこともある。


彼女は階段を清楚に上がってきて、清楚に上がるってなんだ?まあそれっぽい立ち振る舞いで上がってきて目の前でうろうろし始めた。


ああ、これはあれだ。

よくあるあれだ、俺は詳しいんだ。


「椿会長、トイレ行きたいなら別に気にしませんて.......」


「ちっ違います!花を摘みに行く予定はありませんし、何より私はその、貴方の食事のですね、健康バランスを考えてるんですよええ。そのなんですか?はんばぁーがぁーなるものでしょう?体に悪いと聞きますしね!ええ!」


.......先ほどから視線が俺の手の中のカニクリームコロッケパンに行っている。

はんばぁーがぁーって発音の仕方どうやってるんだめちゃくちゃ気になる。

何を言いたいかはわかった、つまり。


「ほれ半分食うと良い。ダークサイドに来るんだ会長.......」


まだ口のつけてないそれをパリッと二つに切って片方を差し出した。


「だぁーくさいど?いや、私は誰かに食事を恵んでもらうほど貧相ではありません!」


「じゃあしょうがないこれは浩介の胃の中だな......」


袋に入れてしまおうとすると露骨に残念そうな顔を浮かべる。

つくづく面倒臭い生徒会長だこと。

しょうがないので袋を置いた上にカニクリームコロッケパンの半分を置いてそっぽを向く。


「今は誰も見てないし食ったら良いでしょ」


「いえでも」


「せっかく食べてもらいたかったのに......うぅ、生徒会長は俺が出した飯が食えないのか」


うーん我ながら気持ち悪い。

まあこんなんで騙されるわけ。


「いえ、いただきます!もちろんいただきますよ!ほっほーら今から食べますよ!」


そこにはやけに必死な顔でカニクリームコロッケパンを上品に口に近づける椿生徒会長がいた。

しかもナチョラルに横に座っちゃってるし、何やってるのこの人。

だめだこの人早くなんとかしないと。

なんだか将来結婚詐欺とかに引っかかりそうだな


「将来悪い男に引っかからないでくれよ本当......」


罪悪感を感じた。

深く罪悪感を感じた。

これが無知な人間を騙す罪悪感というやつか、本当に辛い良いぞもっとやらなくちゃ。


一口齧るとめちゃくちゃ美味しそうに食べていく。

この生徒会長お嬢様で軽いジャンクフードに疎いらしい。


「ようこそダークサイドへ」


「だからそのだぁーくさいどってなんなんですか!?」


「これも美味しいからどうぞ」


鞄に昨日自販機で間違って買ったマックスコーヒーとやらを生徒会長に渡しておく。

飲んだことないし背後の糖分濃度見て軽くドン引きしてやめたのだ。


「え?あっありがとうございます」


「良いってことよ。それで次の持ち物検査見逃してくれませんかね?」


「ダメです。規則は規則ですから、これ甘くて美味しいですね」


「太るぞ」


「意地の悪いこと言わないでください!」


ポクっと頬を膨らまして彼女はそっぽを向いた。

スマホを開くと浩介の荷物を持ってきてくれというメッセージが一つ、どうやら下から話を聞いているらしい。

人をパシらせるとは良い度胸じゃないか、誰がとは言ってないな、うんわかった良いだろう。


「会長、これ浩介まで届けてやってくださいよ。なんでも持病の鞄がないと恋しくて死んじゃう病が再発してるらしくて........」


ピーんピーんと通知音がうるさい。

それはそうと飲み終わったマッカンの缶を宝物かの様に丁寧に握った会長は浩介のカバンを勢いよく持ち上げた。


「あの男はそんな患いがあったんですね!今すぐ届けて来ます!」


「行ってらっしゃい」


「行ってきます!」


なんだこの会話。

まあ精神衛生上心地がいいことだ、人助けするのは。

ゲームの惨劇も今は忘れよう、帰ったら浩介となんとかするか.......











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る