第4話〜詰み

「ぶっちゃけるとなんだ。これ詰んでないか......?」


詰んでる、筋力が足りなさすぎて武器が保持できなければ戦えないだろう。


「格闘系で行くにも攻撃力が低すぎるだろうし、何をしようにも現実的じゃない」


「現実的じゃないって.......どうするべきなんだこれ」


本格的に何をすれば良いかわからない。

攻撃力が無く筋力が無くかといって格闘系もいけない。

ならばどうするのが正解なのか訳がわからない、というかこれゲームとして致命的だろう。


バンッ。


勢いよく叩き開かれた裏方のドアから先ほどの変態女が現れた。

桃色エプロンに亜麻色の髪を背後で乱暴に結びつけその碧眼の下には隈二つ。

そしてその右手には指輪が入った豪奢な箱に左手にはフリフリのドレス。

なんと無く嫌な予感がしイケメンは俺の前に出て剣を容赦なく抜いた。


「話は聞きました!ここはやはりアクセサリー完全装備でバフをかけまくるのはどうでしょうか!なので首に剣を突きつけないでください!」


きらりと首元で剣が光っているのに良い笑顔を浮かべているのが恐ろしい。

アクセサリーってどんなやつだよ。

この女が持ってる指輪は翡翠色の宝石がついた金色の指輪だ。

箱がやけに豪奢だが指輪は何処か質素さがあり、庶民感があった。

なんとうかあれだ、おばあちゃんから継いだアクセサリー的な。


「これ店に売りにきた上級プレイヤーの人が効果がイマイチだっていってましたけどぶっちゃけ使えると思うんですよ!」


「どういう効果なんだ?」


差し出された指輪を薬指にはめてみるとなんだか妙にしっくりくる。

見た目も結構良いがやけに強くなった気はしないしなんだろう、まあただの指輪だ。


顔を上げると指輪をつけたのを見た店主のおっちゃんが凄い顔をしていた。

だが変態店員はめちゃくちゃ良い笑顔をして話を続ける。


「この指輪はぶっちゃけアクセサリー商人専用装備で呪いの装備の一つなんですよ!装備したら外せないけどそのかわりアクセサリー商人の特性のアクセサリー装備枠の増加が二倍になるんです!」


「おいお前!そんな物売りつけようとするからこの店が最近アダルトショップ兼初心者詐欺って呼ばれちまってるんだよ!」


「痛い痛い痛い痛い!」


ぐりぐりぐりぐりと頭を拳骨で挟まれ涙目で女は泣き声をあげる。


待て。

いやちょっと待て。


そっと、そっと指を通した指輪を引き抜こうと引っ張ってみる、抜けない。

指をちょんぎるぐらいしないと離れそうにない、それぐらい抜けない。


おいちょっと待て呪いの装備って外せないやつだろ、これあれだろ、ドラグエに出てくる呪いの装備ってやつと一緒だろ!?


「おいおいお前何やってるんだよ!?」


「待て、落ち着くんだ。最悪の事態になってるかどうかの確認が最初だ」


シリアスな顔でイケメンが冷静に言った。

もうこの時点の状況が最悪の中の最悪でしかないのだが。


「さっ最悪の事態?」


「この装備の特徴はアクセサリー商人しか装備できない、つまり......」


「スッステータス......オープン」


恐る恐る真似をして言ってみると眼前にポリゴンの画面が出現し、装備という欄をタッチした。

すると目の前に自分の姿の簡易版が表示され、名前の下には職業という文字が。

その右側に続く文字はアクセサリー商人その単語であった。


背後から覗き込んだ店長が顔に手を当てやっちまったと酷く残念そうな顔をして。

表情で察したイケメンがやはり斬り殺すかと言って女の背後で剣を構え。

何故か女は物凄く楽しそうな顔を浮かべていた。


「どうすればいいんだこれ」


深くため息を吐いて両眼を閉じた。

アクセサリー商人は確か攻撃力がゼロに変わる代わりにアクセサリーのドロップ率が上がってアクセサリーを装備できる数が増える、だったか。

ぶっちゃけアクセサリーは強くないと言われているしドロップ率も低いそう。

だというのに、だというのに。


「俺はアクセサリー商人?あれ夢かな?」


「楽しい楽しい現実ですよ!ああ絶望に歪む幼女の顔はとっても美味しいですね!それとお代の五万コイン貰いますね!」


ピコンっと目の前に購入確認画面が現れた。

多分俺は今ものすごい笑顔をしているに違いないだろう。

両端をしっかりと握りしめ膝をおもいっきり下から叩きつけた。

パリィッンっといい音を立てて壊れ果てたポリゴン、すぐに再度出現してしまった。


「やはり斬る。僕の仲間は一体何故君を解放したのか」


「あっそれならこの子の姉と言ったら許されました!」


「許されんなよ!?杜撰か!」


どこの世界に姉と言って解放される犯罪者がいるんだ一生繋いで牢獄に放り込んでおけ。


「まっアクセサリー商人とかいうネタ職業誰得って話なんですがねっ!クソワロタ」


「ふんっ」


容赦なく振り下ろされたイケメンの剣が女を切り裂く。

それと同時に現れる表示には店員プレイヤーの殺害はできませんと書かれていた。

店員以外だったら殺せるのかよと突っ込みたくなるがまあ今の問題は別、これだ。


見た目はいい、うん見た目はいい普通に洒落た指輪だ。

だというのに、だというのになんだこの呪いの装備。

そりゃあ売るわけだ、こんなゴミ装備誤装備でもしたら悲惨すぎる大事件になる。

しかも今アクセサリー商人に強制変更されたのをみるにもしほかの職業や、強力な武器を集めた人間が間違えて装備してしまったら最悪の事態になりかねない。


運営の悪意を感じる、物凄く感じる。


頭を掻いてから店長が店の裏に消えて指輪を二つ持って出てきた。

またあれか、また呪いの装備か、また俺は騙されるのか。

信じないぞ、絶対に信じないぞこんなクソみたいな物。


「提案があるんだが......」


「断る」


「いや、呪いの装備は外せないしここはな、まあ、お詫びも兼ねてこの二つをやろう」


赤色の石が埋め込まれた指輪に水色の指輪。

アクセサリー箱に入った二つの指輪を突っぱねる。

絶対に呪いだろう、絶対にそうだ俺はもう騙されない。


だが店長は本当に申し訳なさそうにして二つの指輪をカウンターの上に置いた。

美しい指輪だが結局の所店の不備をこうやって賄賂で帳消しにされるのはなんだかムカつく。


けれど。


「それ受け取る以外選択肢ねぇよなぁ......」


「本当にすまない、絶対のこのクソ女は解雇しておくから。弁償も必要だったら請求してくれて構わない」


「ふぅん......まあ、ありがとうございます」


うんしょうがない、うんまぁしょうがないのだ。

結局の所このクソゲーを攻略する努力をせずにクソと言い続けて諦めるのはクソゲー攻略プレイヤーとしての名が廃る。

指輪を二つ受け取り今度はしっかり装備する前に表示された解説を読む。


『加速の指輪』

一時間に一度スキル:ダッシュが使用できる、レベルアップによって時間短縮可能。


『毒霧の指輪』

自分と自分のパーティーメンバーを除いた対象に継続的に微ダメージを与える。


???????

普通じゃね?????

めちゃくちゃ普通だし言うならなんかめちゃくちゃ性能よくね?


詐欺か、新手の詐欺か?

なんだかめちゃくちゃ不安になる。


「これって結構いい効果の装備じゃないですか。電光バエと毒ガエルの超低確率のドロップ品じゃないか。かなり高性能じゃないですか」


「そうだよな。なんだこれ賄賂ですか?」


完全に賄賂だろう、店の悪評流したらどうなるかわかってるよな?的な。

だが店長は心底怠そうに。


「その装備なんだが昔この店に通ってたアルトってプレイヤーが売ったやつだ。さっきの指輪を売ったのもあいつなんだがもしうっかり装備する馬鹿がいたらこの二つを渡してくれってさ。もう半年以上ログインしてこないからすっかり忘れてたんだが今ので完全に思い出した」


「アルトって......」


あいつの兄のプレイヤー名だ。

暫くプレイしてたらしいが結構な上位プレイヤーだったらしい、らしいと言うのは友人が偉く皮肉って語るからよくわからない。

もうすでにやめてしまったらしいがこの店にきていたのか。


「指輪のドロップ率がめちゃくちゃ低いから値段だけはやけに高いんだ。これ二つで家一つ買えるぞ。まあゲーム内でだがそれなりに高い」


「えっ!?金の塊じゃんかこれ!」


家一つってどれぐらいの値段かはわからないがスケールはわかる、クソ高い、以上。


「あいつの忘形見だがまあこのまま放置していたらただのクソ高い道具だからな。誰かに使ってもらった方がいいだろ」


「店長!私商売人として見過ごせません!これ二つで五千万コインですよ!そんなのやるよって簡単にあげていいんですか!それに最近あのギルドがーー」


「お前が常識的なこと言うと違和感しかないな。だがこれは良いんだ。元の持ち主の意向を優先する方が個人的には良いと思うしな」


「いややめるべきです!こんな高価な装備を持っていたら間違いなく初心者狩りギルドに襲われます......!」


イケメンがやけに真剣に訴えかけている。


「初心者狩りギルド?」


「ああ、最近初心者を襲うクソPK集団というか、プレイヤー?がいてな。全貌がわからないんだがまあ初心者を一方的にいたぶって殺すことで金を奪う奴らがいるんだ」


「じゃあイケメン、お前なんで俺に十万コインもくれたんだ?」


必死に反対するくせに金くれたこいつはなんだったんだって話。


「どうせ装備を買って使い切るつもりだったんだ。装備は殺しても奪えないからな」


「そう言うことか。じゃあ指輪も大丈夫じゃないのか?」


「このゲームはゲームとは言ってるがやりようによっては拷問もできてしまうから。指輪を譲渡しろって脅すこともできる」


確かに最初の確認画面でそんなこと聞かれたな。

一切運営は関与しませんだっけか?

まあそんなことを聞かれた。

いやでもその理屈はおかしい。


「でも十万ぐらいの装備だったら大丈夫って話でもないだろ」


「いいや初心者狩りはな......その、なんだ。物凄く高い装備かものすごく安い装備しか狙わない」


「ものすごく安い装備かものすごく高い装備って、それまたなんで?」


「安い装備は絶対量が少ないから誰が売ったかを追跡しにくいし、初心者は辛酸を舐めて終わりだ、安いし納得できる。少し高めの装備だと上級者ギルドの息がかかったものの可能性が高い、だからこそあいつらは襲わない。だが高級装備、特に指輪は単価が高いし売れば簡単に大金になる、リスクを背負っても儲かるからあいつらは襲う」


「じゃあ指輪って最悪の装備じゃ......」


「ああ、だからこんなもの危険だ」


なんだかゲーム内でまでそんな話を聞かなければいけないのはなんとなく嫌だ。

気分は最悪、まあリアルのゲームというのは理解できる。


「だがそれがないとゲームがプレイできないだろう?早い事ギルドに入って戦闘法を確立してけば良いしな。お前の警備ギルド新団員募集中だろ?」


「残念ながら僕には参加の許可権がない上レベル制限があってレベル三十以上なので」


ああ、結構あるやつだ。

低レベルプレイヤーを弾くことでギルドの戦績を上げるというやつだろう。

店長はニヤリと笑ってぶっきらぼうに話す。


「まー大丈夫だろ、一眼の多い所で狩りすることを徹底すれば良いし何よりレベル十までは運営から保護がかけられてるからな、PKの対象にはならない。低レベル募集してるギルドもあるしな」


レベル十までは大丈夫なのか、それは結構安心感がある。

そういえばあいつも明日からログインするって言ってたな、あいつ結構プレイしてるらしいし大丈夫だろう。


「俺の友人がログインするしあいつ結構上級プレイヤーっぽいから大丈夫ですよ」


「なら大丈夫そうだな」


「そう、かい。ならまあ止めはしない、本当に気をつけるんだぞ?」


イケメンが本当に心配そうにしてる、このゲーム民度が相当いいかこいつが実はロリコンやろうパターンだな。

まあババアコンプレックスのババコンらしいが。

カウンターの上の二つの指輪を嵌めると装備欄に名前が追加される。

よし、今日はもうログアウトして明日友人と試してみるか。


「じゃあ今日はありがとうございました、そろそろログアウトする時間なので失礼します」


「ああそうか、もし何かあったら警備ギルドのトーフの名前を出してくれれば駆けつける。チャットはギルド内のプレイヤーでしか使えないからな」


「是非装備を作る際は私に是非!是非!」


「お前は黙れ。まあ坊主、うちを贔屓にな、多少まけてやるから」


「ありがとうございます」


ゲーム内での友人、ご贔屓の武具屋、変態、新装備ゲット。

これから俺の冒険が始まるのかと思うと高揚感を感じる。

結構初日としては良い方なのではないかーーさあ明日から本格的にやりこむぞ!




ーーいやダメだろこれぇぇぇぇぇ!!


アウト、完全アウト、何がアウトってこのゲームを始めた目的が達成できてないし逆に胸のある幼女(ショタ)になっちまうし。

筋力ゼロ装備装備不可とかいうクソ仕様。

ゴミクソナメクジすぎる、病む。

明日友人がログインしたら何かしら解決策を出させよう、さもなくば全力で殴る。


最悪の初日だ、気分が落ちる。

しょうがないしステータス画面を出してログアウトボタンを押した。

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