第3話:カザン攻略

さらにイヴァンは改革を進めます。

地方ごとにバラバラだった法典を統一し、中央集権化します。地方裁判所を復興させ、裁判官は中央の官吏と地方で選ばれた司法官を任用。司法組織の最高法院をモスクワとし、処罰に関しての刑罰を定めました。(現代の感覚では、窃盗や詐欺でも死刑だからかなり厳しい刑罰です)

しかしロシアには昔から袖の下――賄賂がはびこっており、罪を犯しても修道院に逃げ込む者はたくさんいました。


各地方の要所要所へ、中央から平民の役人を派遣し、司法、行政、財政の行政を務めさせます。こうやって、貴族たちの特権をじょじょに奪っていきました。

この改革によって、人々はロシアが中央集権の国だと認識するようになりました。頂点に君臨する皇帝が、国を統治しているのだと。


そしてもう一つの懸念だった、教会を改革します。

当時、西ヨーロッパでは宗教改革の嵐が吹き荒れており、東方正教会の威厳をさらに上げることで抵抗しました。府主教はじめ、聖職者を宮廷に呼び、教会の活動を改革する『百章(ストグラーフ)』を渡します。

風紀の乱れをただし、祈りの正しい方法、祭事、男色の禁止、娯楽の禁止、ひげ剃りの禁止、外国服の禁止……等など。それらを守らない者は異端だ、と。


当時のロシアでは字を読める僧侶はごくわずかしかおらず、ミサの内容は暗記していました。なぜなら、印刷用の輪転機を作っても、悪魔の道具だと人々は恐れ、壊したからです。

手書きだと誤りが多く、効率が悪い。印刷機を普及させるには、僧侶たちの教育がまず先だと考えたイヴァンは、宗教会議で、統一した教育制度を提案します。読み書き、計算、聖歌、宗教の教育を、教区長と書記官が運営する学校で学ぶことになりました。


教会の巨大な権力と落とすため、教会の土地を皇帝へ返還するよう、イヴァンは意見するも、さすがにそれは不敬だと、主教たちは猛反対します。折衷案をとり、今後、土地を取得するさいは、皇帝の許可が必要になりました。


あとは、貴族階級を根本的に改革するため、大貴族たちの下に位置する勤務貴族から、千人の有能な青年貴族を選び、皇帝の親衛隊にしました。彼らは毎年春になると、与えられた土地へ移動し、そこで農民を引き連れて土地と行政を管理します。

そうして少しずつ、大貴族の特権を削ぎ落としていきました。

しかし、奴隷のような苦しい生活がいやになり、農民たちは森へ脱走したといいます。


内政改革を進めるいっぽう、イヴァンは周辺諸国の情勢にも目を配っていました。

隣国のスウェーデン、ポーランド、そして一番の悩みの種は異教徒の国、タタールでした。ロシア領内を何度も侵入し、イヴァンをいらだたせます。


そこで1547年、カザン征服を実行。

自由民の終生銃部隊、農民から徴募された兵士部隊、花形の騎兵部隊、そして貴族将校が主流でしたが、イヴァンは功績によって昇格できる制度に変えます。外国人傭兵も導入。

生まれではなく、実力で司令官に抜擢されるため、ロシア軍は以前にはない強さを発揮するようになります。

これでタタール軍を降伏させられる、とイヴァンは思ったのですが、ヴォルガ河の凍結した氷が裂け、兵士も馬も食料も大砲も飲み込まれてしまい、撤退します。


1549年、二度目のカザン征服。

投石器、大砲を使って町を襲撃しますが、城壁はびくともしません。雪解けの悪天候で全てが流され食料も失い、撤退を余儀なくされます。

仕方なくカザンにほどちかい小さな要塞を攻略し、次回に備えることにしました。


1552年、三度目の征服に出発したイヴァンは、カザンに到着するとミサを捧げます。神を描いた軍旗、僧侶の祝福――これは神の代理としての聖戦なのだと。

町を襲撃しますが、タタール人の抵抗に敵わず、苦戦します。嵐が吹き荒れ、糧食を失い、ロシア軍は後退。

撤退をしたくないイヴァンは兵士たちを鼓舞します。水源を爆破し、巨大な木の塔を作って60台もの大砲を乗せて攻撃。さらに地下道を掘って、町をあちらこちら爆破します。

そして総攻撃をし、大勢の犠牲者を出しながら、ついにカザンの城を陥落しました。

ロシア兵たちは同時に奪略も行い、市場の金銀細工や、女子供と捕まえ奴隷として売り飛ばします。

降伏した王や後宮の女たちはキリスト教に改宗し、カザンはロシアの領土となりました。


ロシアでは、大公みずから戦地で指揮をとることはなく、安全な後方でひたすら祈りを捧げるのが伝統でした。だからイヴァンも、兵士たちを鼓舞することはあれど、戦場で戦ったことは一度もありませんでした。


※その他世界史コラムは下記のブログに掲載しています。

偉人たちの素顔~世界史コラム

https://history.ashrose.net/

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