第2話:ロシア皇帝イヴァン四世の改革

当時のロシアの大貴族はそれぞれが古くから領地を所有し、大公に負けず豪華な生活をしていました。彼らは誇り高く、簡単に君主の言うことをききません。

商人は中国等、アジアと取り引きをして富み、教会は広大な領地と農民を所有し、信心深い民衆から喜捨をされ、裕福な生活をしていました。

いっぽう、ロシアのほとんどを占める農民や労働者は、教会と領主の重税に苦しみながら貧しい生活を強いられました。行軍中の軍隊を養う義務もあります。

迷信と東方正教会への信心深さが、ロシアの人々の生活とともにあり、西ヨーロッパ諸国ほど文化が進んでいませんでした。


ローマ帝国皇帝を直系の子孫とするリューリク王朝。その末裔であるイヴァンは、皇帝(ツァーリ)として君臨し、ロシアを帝国にすることこそが神の啓示だと、臣下である大貴族たちに告げます。

大貴族たちは「大公と皇帝に何の違いが?」と疑問に感じるも、その後に控えている花嫁選定を進めるために、賛成します。もし自分の親族から皇帝の花嫁が選出されれば、大出世が約束されるからです。


1547年、モスクワの寺院で聖別式が府主教によって行われ、イヴァンはロシアの専制君主として戴冠します。

その後、すぐにロシア中から花嫁候補千人が選ばれ、さらに選抜されたなかから、イヴァンはお気に入りの令嬢を見つけます。

同年、イヴァンとアナスタシア・ロマーノヴアが結婚をします。彼女はのちのロマノフ朝の家系の娘でした。


皇帝になったイヴァンは権力に酔いしれ、気まぐれに臣下を罰します。彼らの絶望した顔を見るのが楽しかったのですが、モスクワが大火に見舞われたことで、神の懲罰だと恐れます。

民衆は普段、虐げられた恨みを晴らすように、火事のさなか貴族たちの邸宅を襲い、奪略しました。彼らは支配者である皇帝とその寵臣たちを憎んでいました。


改悛したイヴァンは、さまざまな改革を進めます。


まず民衆から嫌われていたグリンスキー一族を権力から遠ざけ、選抜者会議(イズブランナヤ=ラーダ)と呼ばれる新しい会議を設けます。賢明で穏健、献身的として知られる僧侶と貴族が選ばれました。

特に重用したのは、司祭シリヴェストルと、頭角を現した貴族士官、アレクセイ・アダーシェフ青年です。ほかにアンドレイ・クルスプキー等。彼らは皇帝の相談役として、そば仕えました。

残忍なイヴァンでしたが、妻のアナスタシアの献身的な愛情によって、冷酷な君主としての一面が抑えられました。悲しむ妻の顔を見たくない、と。


大火で焼けたモスクワの町を再建したあと、1550年に全国会議(ゼムスキー・ソボール)を開きます。全国から僧侶、貴族、大官吏ら、代表が宮廷にやってくるのですが、実際はかたちばかりの会議で、君主の決定事項の拝聴でした。

会議のあと、皇帝は彼らを引き連れミサをし、クレムリンの広場で大勢の人々の前で話します。

おのれの罪を悔い改めつつ、幼いときの不遇――貴族たちの仕打ちや裏切り、強欲さを語り、彼らが君主の教育をないがしろにし、国を乱したのだと。

それはいつも臣下の前で話していたのですが、民衆の前で話すのは初めてでした。そうやってイヴァンは、人々の不満を大貴族のみへ向けさせようとしたのです。


私はおまえたちの信仰と私への忠誠をかけて誓う。今後は弾圧と掠奪からおまえたちを守る。過去のことは寛大な心で忘れ、神の御心と愛とともに一団となろうではないか。私がおまえたちを裁き、守る者となろう。


イヴァンはそう演説し、民衆たちは感激します。キリストの再来だ、と。

虐げられてきた人々は、皇帝を崇め、涙を流すのでした。


※その他世界史コラムは下記のブログに掲載しています。

偉人たちの素顔~世界史コラム

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