絶望感
また、体調を崩した。怠くて眠くて、お腹が痛くて、動くのがすぐ辛くなってしまい、ベッドに倒れ込んでしまう日々が続いていた。そんな状態のまま、十数日が過ぎた。食べ物もろくに喉を通らなくなって、段々ベッドで過ごす時間が長くなる。最近はもう、1日の半分以上、ベッドに寝転んで過ごしている。
今日も効かない薬を呑む。戻れないあの日を乞う。
前回病院に行ったとき、この薬が合わなかったらもう、駄目だと言われてしまった。駄目だって言い方だったかは覚えてないけど、平たく言えばそんな感じだった。
もともと、見つかった時から治らないかもしれないと言われていた。小さい頃からしょっちゅう体を壊して、いつか病気で死ぬんだろうな、なんて思っていたあたしだったが、医者に
『すい臓がんが見つかりました』
なんて言われたときは人並みにショックを受けた。鈍器で頭を思いっきり殴られたような、そんな感覚だった。4年前の、13歳の初夏だった。夏休み中白い病室で過ごして、手術をした。もう大丈夫だと思ったのに、再発したがんが見つかった。見つかったときには既にかなり深刻な状態に陥っていた。薬物療法で小さくしてから手術をすることを提案されたが薬はなかなか効かなかった。
病院に来た。診てもらった後、父さんと母さんが医者に呼ばれて部屋を出ていく。もうダメなんだろうな、と自嘲気味に嗤った。そうでもしていないと、不安でどうにかなりそうだった。
父さんも母さんも、蒼白な顔で帰ってきた。父さんはあたしを不安がらせないためか無理やり微笑んで
「藤花……今から言うことを、よく聞いて欲しいんだ」
と、言った。喉を絞って、うん、と言った。小さくて細くて乾いた声が出た。
「ホスピスに入らないか」
***
ホスピスに入る話は断った。最期が集まるような場所に、行きたくなかったからだ。医者からは延命治療も進められたがそれも断って、緩和ケアのみを受けることにした。残った短い時間を、できるだけ楽に生きたかった。
もう痛い思いをするのは嫌だ。
ベッドの上でぼーっとする。あたしの頭はあの日へと帰っていく。がん、と診断されて迎えた、13度目の夏に。
***
「じゃあ藤花、また明日来るからな」
「毎日来てくんなくていいよ。父さん忙しいでしょ?」
静かになった病室で、わたしはため息を吐く。退屈な夏休みになりそうだ、と外を眺める。皮肉気に美しい入道雲が、青い空に佇む。向かいのベッドに眠る、夏に似つかわしくない白い肌の少女のまつ毛がふっと揺れて、まぶたがゆっくりと開いた。
「あたし、何時間くらい寝てた?トウカのお父さん、今日も来てたの?」
「2時間くらいじゃないかな。父さんは今日も来てたよ、今帰ったところ」
わたしが答えると、ミオリはまだ眠たそうに、いいなあ、とのんびり呟いた。
ミオリと同じこの病室にきて2週間。
わたしはミオリの家族が彼女の見舞いに来るところを見たことがない。
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