友達

「ねぇ、アンタにとってあたしって何よ?」


 唐突に聞いてくる藤花ちゃん。俺にとっての藤花ちゃんは、


「大好きな人?」


「あー、アンタに聞いたあたしがバカだったわ。いや、この前優さんに聞かれて思ったの、あたしとアンタって何なんだろって。付き合いは決して長くないし、むしろ浅い方じゃない?」


 確かに。俺と藤花ちゃんは何と呼ぶべき関係なのだろうか。藤花ちゃんがお店に来て、俺がナンパしてケーキを奢る。ただそれだけ。歳だって違うし、連絡先を知っているわけでもないけど、クリスマスは一緒に過ごしたし、誕生日も祝ってもらった。


「友達?……じゃ、駄目、かな……」


 否定されるのが怖くて、恐る恐る言う。


「友達ねえ。……認めるの癪なんだけど」


「じゃあ黙認ってことで!」


 友達という関係を一方的に取り付けたが、藤花ちゃんは呆れた顔をするだけで、嫌がりはしなかった。ちょっとずつだけど、俺に心開いてくれてるんだろうか。


「ねぇ藤花ちゃん。連絡先メールアドレス教えてくれない?」


「は?……別にいいけど。あたしLINEとかってやってないし。でも聞いてどうすんのよ」


「え、売らないよ」


「疑ってないわ、バカ」


 冗談冗談、と軽く流して、遊びに行く誘いをしていいか許可を取る。藤花ちゃんは、少し面倒臭そうにした。お誘いはやめておくか、とちょっと残念に思う。携帯スマホを出して空メールを送って、連絡先の登録を済ませる。初めて出会ったあの日からすると、連絡先に『赤峰藤花』があるなんて感動モノだ。


 藤花ちゃんの毒素の強い暴言が走馬灯のようにフラッシュバックする。煩悩の塊だとか、キリンのがマシとか、NHKだとか、オジサンとか、お花畑とか……なんか頑張ったな、俺。涙ちょちょぎれる……。


「うわ、何てカオしてんの。ジャガイモの顔真似?」


「毒舌でも好ぎだよ゛」


「きも」


 ***


 家に帰って来ると、冷蔵庫に何も入ってなかったことに気付く。買い物に行こうと思ってたの、忘れてた。と、思ったが、冷蔵庫を開けるとそこには卵も肉も野菜も一通り揃っていて、丸めの綺麗な文字で『がんば☆』と書かれたメモが残されていた。……兄貴か。


 こういうとこ優しいんだよなぁ。


 人の家に勝手に上がり込むのは褒められないが、俺のことを兄ちゃんなりに心配してくれてるんだろうと思うと、少し嬉しい。不器用な兄ちゃんなりに、俺のこと可愛がってくれてるんだろうな、長い付き合いだし、鈍感な俺にもそれくらいは分かる。昔はあんなに過度に溺愛はしてなかった気がするんだが、いつからああなってしまったんだろうか。ある意味、楽しいしいいんだけど。ときどきでいいかな、なんて。


 兄ちゃんのメモを無意識に手帳に挟んで、野菜炒めを食べた後、兄ちゃんにメールで『ありがとう』を伝えておく。メールボックスにひとつメールが届いていて、ダイレクトメールかな、なんて何気なく受信ボックスを見ると、なんとメールは藤花ちゃんからで、危うくスマホを取り落としそうになる。


 藤花ちゃんからの初メールは


『おやすみ』


 とだけ。


 しかも7分前。もう寝ちゃっただろうか、と思いつつも、慌ててメールを返す。


『おやすみ!いい夢見てね!』


 流石に寝てるか、と思って風呂に入ったものの、ちょっと急いで体を洗って、髪も濡れたまま風呂を出て、少しだけ期待してメールのアプリを見ると、右上に❶と表示がある。


 藤花ちゃんから返信で、


『見ようと思って見れないけど、ありがと』


 と来ていた。俺はスマホを抱きしめてベッドの上でゴロゴロ転がって、大好きな人におやすみと、寝る前のくだらないやりとりができる嬉しさを噛みしめた。


 今日は早めに寝なきゃ。


 明日は朝早く起きて、藤花ちゃんにおはようってメールしなきゃだ。

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