VS

「あ、藤花さんじゃない?やっぱりそうだ!お久しぶりです!」


「あ、優さん!」


 俺が兄貴を席に案内するより先に、兄貴は藤花ちゃんに反応して彼女の席に近付いた。なぜか藤花ちゃんも兄貴に反応して、しかも名前で呼び合っていて……。俺の心は言いようもなくもやっとした。彼女のテーブルにつかつか早歩きし、兄貴を糾弾しようと意気込んだ。それより先に、兄貴は俺に気付いて顔をぱっと明るくする。


「マコト!会いたかったよ〜!今日シフト入ってたんだね!」


「いやなんでココでバイトしてるの知ってんの!怖えよ!ってか……藤花ちゃんとどういう関係!?」


「あ、ホラ言ったじゃんさっき。プレゼント探し手伝って貰ったのこの人!それより、マコちゃん、優さんと知り合い?」


 よりにもよってそれ男かよ。ていうか身内かよ。つうかこのクソ兄なんで俺の職場知ってんだ何も言ってねえのに。


 荒ぶる心をなんとか鎮めて、気分を落ち着ける。熱くなったら負けだ。藤花ちゃんの前なのに。


「知り合いもなにも兄弟ですよ。僕のフルネーム、浅石優ですから。あれ、言ってなかったかな?」


「お前絶対わざとだろ!」


 俺の兄貴、浅石優は頭が良いのである。なんらかの形で藤花ちゃんに俺が懸想しているのに気付いて、ちょっかいを出しに来たに違い無い。この男はそういう奴だ。


「言ってなかったです。びっくりしました。マコちゃん何熱くなってんの?何、不仲?」


「マコトはツンデレさんなだけですよ〜。それより、藤花さん。……君みたいな綺麗な子がどうしてマコトみたいな害虫を?」


「がいちゅ……!?」


 突然落とされた爆弾に驚く俺と藤花ちゃん。兄貴のことだから、藤花ちゃんに初めて会った時は丁寧に猫被りしていたんだろう。藤花ちゃんは目をまん丸くしている。


「あー……マコちゃんは確かに害虫だけど、害虫の中でも良い害虫なんで」


「害虫否定してよぉ!


 ……もういい!兄貴、てめえツラ貸せ、表出ろ!」


「きゅんっ」


「兄貴反応おかしいから!」


 店内で騒ぐわけにもいかないので、兄ちゃんを外に連れ出す。痛いなぁ、なんて呑気に言う兄ちゃんを無視して、引き摺る。兄ちゃんは俺に恋人ができることが嫌なんだろう。あまり認めたく無いけど、こうも長い間一緒に居たらわかる。


「マコトぉ、元気だった?ちゃんと食べなきゃダメでしょ、ちょっと前冷蔵庫空っぽだったよ?お兄ちゃん心配なんだけど!」


 兄貴の素はこんな感じだ。っつうか!


「何勝手に俺ん家入ってんだよ!つうかどうやって入った!?」


「え?合鍵借りた!」


「失くしたと思ったら……!」


 けろっとした顔で爆弾発言を落っことす兄ちゃん。キーホルダーにつけられた見慣れた鍵を取り出してひらひらと振って見せる。


「マコトも僕の家の愛鍵あいかぎ持ってるから御相子でしょ?玄関のボードに引っ掛けてたやつ」


「いやあれアンタん家のかよ!友達が忘れてったんかと思ってみんなに聞いて回ったわ!何やってんのお前ほんとに!」


「マコト、好きだよ?」


「話聞け」


 俺が兄ちゃんを苦手とする理由。そう、兄貴コイツは俺を溺愛し過ぎているのである。折角藤花ちゃんに会えたのに、よりにもよって兄貴も店に来るなんて。藤花ちゃんに渡さなきゃいけないものがあったのに。


「マコト?ごめんって、日付変わった瞬間に誕生日メール送れなくってさ」


「そこじゃねーよ。っつうか日付変わった3分後だったろ十分だわ。俺はあの娘に話すことがあんだよ!兄貴は俺のことをツッコミ人間にでもする気かよぉ……」


「ごめんってば〜。僕はマコトに彼女ができてマコトの中の僕が霞むのが死ぬほど許せないだけ!」


「微妙に話噛み合って無ぇし!」


 あぁ、矢っ張り俺、コイツ苦手だ。

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