藤花のプレゼント選び
「へぇ〜。マコトさん、っていう人なんですね。その人の趣味とか、好きなものとかは知らないんですか?マコトさんは君にとって何?」
趣味や好きなもの。トモダチなら当たり前に知っているものなのかもしれないが、そもそもあたしとアレはトモダチなんだろうか。でも、そうじゃなかったら何なのだろう。知り合い?ナンパとカモ?因縁の相手?敵?考えれば考えるほど、分からない。よくよく考えると、あたしがアレについて知ってることなんてナンパ男なことと、顔だけ良いことと、案外生真面目な側面があること、誕生日、年の数と身長が高く無いことだけだ。なんであたしに構ってくるのか、真面目なところもあるのにナンパばっかりしてるのか……。あたしは誠についてなんて、何も知らない。
いつか、飽きられてしまったらと思うと漠々とした不安がある。それで良いと思っていた。それで良かったはずだった。
ムカつくけど、アイツは楽しい男だ。トモダチなんか要らなかったあたしを、無責任に変えたのはアイツだ。モノクロの世界が動き出したのも、全部アイツのせい。
「あたしにとって……。あ、そういえば。アイツいつも本読んでました。暇なとき、いつもお店の端っこで」
「へえ。じゃあ本にしますか?好きなジャンルとか、分かれば」
あたしはあまり本を読む方じゃない。絵の描き方の本や、イラスト集は家にたくさん持ってるけど、小説や説明文はどちらかというと眠くなってしまうたちだ。誠はエプロンの大きなポケットに文庫本をよく入れている。文豪と呼ばれるような人の小説や、最近よく聞くラノベ?なんかが、プラスチックの透明なカバーに入れられて、ポケットに差し込まれているのを見たことがある。こまゆきみたいな題名のを、この前は読んでいた。
「ジャンルか……守備範囲広そうなのは知ってますけど、具体的にどんなのとかは、あんまり……」
優さんはんー……と悩む。顎に手を当てるその仕草に不覚にもドキッとして、少し目を逸らした。
「あ、じゃあ!栞なんてどうですか?僕、三階の文具屋でいい感じの栞見たことあるんですよ」
「栞……?あー、確かに、それなら本読む人使いますよね!よし!そうします!ありがとうございました、相談乗って貰っちゃって。ここのお店じゃない所で買うことになっちゃって……」
「あ、それは全然」
優さんはにこっと笑った。
「僕、ここの店員じゃなくて、一般客ですので」
「………………は?」
優さんは、その後、特に連絡先を聞いてくる訳でも食事に誘う訳でもなく、サッパリと別れの挨拶をしてくれた。理由を聞いても、可愛いお嬢さんが困っていらっしゃったものだから、なんてテキトーな嘘で誤魔化されて終わりだった。褒め言葉は、嘘か嘘じゃないかくらい判断がつく。こっちは父さんに溺愛され、褒めちぎられてきたのだから。優さんの様子だと、半分本気と言ったところか。可愛いと思ってくれたことに嘘は無いのかもしれないが、声を掛けてみたのには別に理由があるのかもしれない。
あまり気にしないことにして、モールの3階の文具屋に向かった。ペンやノートは種類が豊富で、レジの近くに栞がまとめて置いてあるコーナーを見つける。紐の両端にアップリケみたいなものが付いているものや、S字に彎曲し、マークが付けられているものなど。栞と呼ぶより、ブックマークと言ったほうが似合うような、そんな栞がたくさんある。あたしはそのご十数分吟味して、犬の絵が刻まれた銀色のプレートに、深緑のリボンが垂れている栞を選んだ。レジで英世とサヨナラして、帰路に着く。
家で栞をラッピングして、誕生日おめでとうとだけ書いた可愛い付箋を貼っておいた。
……喜んでくれたらいいな。
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