第二の実家
「お久しぶりです」
カランッとアンティーク調の扉を開けて、開店前のカフェに入る。1週間も帰省していたものだからかなり久しぶりに感じる。ただでさえ、藤花ちゃんに会えるかも、とぎちぎちにシフトを入れていた所為でもあるのかもしれない。
もう店にいた、シャツに黒いエプロン姿の加山さんと佐野さんに挨拶する。
「あらぁ、久しぶりね〜。どう?楽しかったかしら?」
「寂しかったぞ、誠。でも、昨日帰ってきて今日すぐバイトなんて、体は大丈夫なのか?」
「楽しかったです。でもなんか、加山さんと佐野さんに早く会いたくなっちゃって、すぐ来ちゃいました。ホントは今日まで休むつもりだったんですけど、俺まだ若いし」
なんて、おちゃらけて言うと、加山さんにからからと笑われる。あらあら、若いっていいわね、なんて、十分まだ若いであろう佐野さんに言われる。お土産の生八ツ橋を広げると、出身が京都だということに、案外驚かれた。多分、僕が関東弁をマスターしているからだと思う。出身地の話も、よく考えればしたことは無かった。
あとは、藤花ちゃんだ。今度いつ会えるか分からないが……。早く会いたい。
「あの、加山さん、藤花ちゃん、俺がいない間にお店に来ましたか?」
「ったく、土産話より先に藤花か?随分ご執心だなァ。安心しろ、来てねェから」
「あはは……ありがとうございます」
加山さんに、コイツぅ、と小突かれてむず痒い思いをする。あぁ、久しぶりだ。帰ってきたんだ、俺。第二の実家に。
***
今日は比較的体調が良い。
雑貨屋、スポーツショップ、本屋……色んなジャンルの店を回ったものの、異性にプレゼントなんてした経験がないため、何をあげればいいものか、思考が迷宮入りする一方だった。こんなとき、男友達のひとりでも居れば……。いや、要らないと跳ね除けたのは紛れもないな自分なのだ。そんな我儘は通用しない。
自分が欲しいものを、と聞いたことがあるが、プレゼントを貰う機会がそもそも無いので、それは出来ない。欲しいものも、パッとは浮かばない。
いっそ食べ物?
いや、アイツはわざわざ、あたしの何気ない発言を覚えてプレゼントしたんだ。あたしがそんなテキトーしたら、負けたことになる。
自分でもよく分からない理屈だと思うと、自然とため息が出る。
「ねぇ君」
ふと、男の声がして後ろを振り向く。そこには、長身の、人の良さそうな笑顔の男性がいた。顔立ちは整っていて、爽やかながらも目がくりっとして少し可愛い。世間一般でイケメンとされるタイプだろう。アイツよりちょっと歳上くらいの、若い人。
「な、何」
「あぁ、いや、ごめんなさい。怖がらせるつもりは無かったんですよ。何か探してるのかなって思ったものですから。僕、ここの店員なんですよ」
「はあ……。あ、じゃあ」
利用できるものは利用しよう。あたしはその人にプレゼント選びの相談に乗ってもらうことにした。彼は優と名乗った。あたしも渋々、藤花とだけ名乗って、誠について話すことにした。
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