天然タラシ男
藤花ちゃんと加山さんと佐野さんと弘樹の分のお土産は生八ツ橋にした。ニッキのとチョコの、人気のやつを人数分買ったはいいが、折角だし藤花ちゃんには形に残るものもあげたい。ただ、姉ちゃん以外の女の子にプレゼントなんてした事がない俺は、どうしたものか悩んでしまっていた。姉ちゃんに聞けば早いんだろうが、なんかムカつくので聞けない。絶対揶揄われる。
お店が所狭しと並ぶ通りを歩いていると、不意に店の中の何かがきらりと光った。吸い寄せられるようにお店に入ると、そこは
「ちょっとマコぉ!急に黙っていなくなるのやめなよね!……ってあれ、これ、簪?」
「うん……。プレゼントにどうかなって」
「いいんじゃないの?もう付き合ってるんでしょ?」
ぴた、と俺の足が止まる。
「付き合って、ないけど……」
は?と姉ちゃんが声を漏らした。どうせ馬鹿にするつもりだろ、と大して気にも止めずにガラス珠を見る。人懐っこい笑みを浮かべた店員さんが話しかけて来て、説明をしてくれる。プレゼントなんですか、なんてちょっとにやにやしながら聞いてくるもんだから、ちょっと浮き足立ちながらも肯定する。
店員さん曰くひとつひとつ手作りで作られた簪は、
ふと、紫の花がガラスに閉じ込められたものを見つける。
「あ、それ、藤の花なんですよ。しゃらしゃら付いてるのと違うから、普段遣いも出来ると思います」
「藤の花、ですか……。これにします。送りたい人、藤の花みたいな人なので」
お買い上げありがとうございます、と店員さんが微笑む。藤花ちゃんは、名前もそうだけど藤みたいだと思う。最初は薔薇みたいだと思ったけど、今は藤だと思う。優しくて可憐で儚くて強かでしっかりした……春の花だ。
布の簪入れに包んで貰って、店をあとにする。店員さんは、やけに張り切った顔で
「頑張ってくださいね」
なんて言う。男の客が珍しいからだろうか。俺がしっかりした重みの簪をバッグに仕舞い込んでいると、姉ちゃんが、珍しく真顔で話しかけてくる。
「アンタ、天然?」
「え、何急に。姉ちゃん如何したの?」
「あーもういいわ。マコなら大丈夫っしょ」
姉ちゃんは勝手に話を切り上げて、帰るわよ、とそそくさと歩き出した。俺は両手両肩に引っ提げた姉ちゃんのお土産を持ち直して姉ちゃんを追いかけた。
イマドキの若い子は知らんかー、なんて呟く姉ちゃんは、どこか嬉しそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます