クリスマスが終わった後に

 クリスマス、当日。何となく期待していた俺だったが、結局藤花ちゃんには会えず終いだった。期待をしていた分だけ、少し苦い思いをしたが、コスプレをしての接客は意外と楽しくて、サンタさんにプレゼントを貰えなくなってから、恋人と過ごすことも無かったいつもの味気ないクリスマスを思えば、今年は十分に楽しかった。


 会えるかもなんて思って、こっそり藤花ちゃんにプレゼントを用意してた俺だったが、それはまあ、最悪姉貴に送りつければいいか。


 明日はクリスマスの装飾を片付けるために店は休みなので、予定が終わったらすぐ店に行くつもりだ。


 ***


「何オマエ、落ち込んでんの?」


「あ、いや……」


 今日は友達の家に遊びに来ている。案外鋭いこの男は、大学に入ってから仲良くなった弘樹ひろきだった。適当に誤魔化そうかと思ったけど、嘘が下手な俺の口からは都合の良い言葉なんか出てこない。


「最近一緒に遊びに行ってもナンパしねぇしさぁ。オマエもしかして、病気かなんかなったんじゃ……?余命宣告とかされてたりする感じ?」


「まさか。最近好きな人できてさー……。でも、クリスマス、会えなくって」


 はぁ!?と素っ頓狂な声を上げる弘樹。弘樹はノリは軽いけど、優しくて純粋で人をあんまり揶揄うタイプじゃ無いから素直に話ができる。ナンパしないイコール体調不良と思われることになんとなく既視感を憶えたが、それはまあ置いとこう。


「バイト先のお客さんなんだけどさ、かなりの強敵で……」


「そっかぁ……。でもオレ、応援するよ!非リア仲間減るのは淋しいけどさー!それより誠に幸せになって欲しいもんな!」


 その後も、弘樹と(主に藤花ちゃんについて)話し込んでしまい、予定より時間が遅れてしまった。時計を見て、カフェに行こうと思ってた時間を30分も過ぎていたので、弘樹に礼を言って、慌ててカフェに向かって走った。


「加山さん!すません!遅れちゃって!」


「お、誠ォ、遅いじゃねェか」


「あら、走って来たの?」


 カフェのドアにはCLOSEの札が掛けられていたが、店内はまるで片付いて無かった。それどころか、店内にはコーヒーのいい匂いが立ち込め、テーブルには赤い大きなつぶの苺が沢山乗ったホールケーキが置いてあり、まるでこれからパーティーでも始めるかのようだった。


 加山さんも佐野さんも、サンタさんの帽子被ってるし。


「折角のクリスマスなのに、マコちゃんバイトに出っ放しだったでしょ?どうせクリスマス感なんて皆無なクリスマスだったんだろうな〜と思って、加山さんに提案したの」


「たまにはこういうのもアリだろ?

 佐野ちゃんが言わなくてもそうするつもりだったしな!



 ……おい藤花ァ!恥ずかしがってないで早く出て来いって!」


「えっ、藤花……?藤花ちゃん来てるんですか!?」


 トウカの三文字で舞い上がる俺。店の奥の部屋から、ちょこ、と藤花ちゃんの小さい顔が覗く。その頭にはサンタさんの帽子が乗せられていて……。


「あらあら、マコちゃんたら真っ赤になっちゃって〜」


「な!?なってないっす!」


 恥ずかしそうに出てきた藤花ちゃんは赤い布の縁に白いもこもこがついたサンタコスを身に纏っていて、短いスカートからは黒いニーハイを履いた細長い脚と白い太腿が少し覗いている。


 ていうか、あれ、俺が先週着せられたやつ……。


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