クリスマスに向けて

「はぁ!?嫌っすよぉ!」


「イケる!お前ならイケるぞ!」


クリスマスまで、あと一週間を残す時期になった今日この頃。説得する加山さんの声と拒絶する俺の悲痛な叫びが、定休日のカフェバーに響いていた。



ときは今朝まで遡る。クリスマスの飾り付けを手伝って欲しいと言われた俺は、朝から加山さんのお店に出向いていた。お店用の大きなクリスマスツリーに丸い色ガラスのオーナメントや雪に見立てた綿を飾ったり、ドアにリースを掛けたり、暫くは平和なクリスマス準備だった。休憩のコーヒータイムに入るまでは。


「今年のクリスマス期間はサンタのコスプレを従業員全員でしようと思ってなァ。やってくれるか?」


「コスプレですかぁ……。俺、ハロウィンのときですらやったことないですけど、別にいいですよ」


そうかそうか!と喜ぶ加山さんが取り出した衣装は確かにサンタさんのコスプレだった。……ただ、それは普通のサンタさんではなく、女性用、しかもミニスカートのサンタ衣装だったのだ。そして冒頭に戻る。



「お前カワイイ顔してるだろ?身長も低いし細身だし!なんなら蜜柑みかんふたつ胸に付けるとか……な!?」


「胸がぺったんこだろって心配してるんじゃ無いっすよ!俺男!おーとーこー!いい歳して女装とか……!?な、何脱がしてんすか!うわ、加山さん力つよ!うわぁああぁ!!」


「おはようございま〜す。すみませんちょっと遅れちゃって……あら……」


ドアが開いて、入ってきたのは佐野さんだった。佐野さんが見たのは勿論、服を剥かれてミニスカサンタコスを見に纏った、この上無く見苦しい。恥ずかしさがこみあげて、散乱した自分の服を掻き集めて自分の格好を隠した。


「なかなか可愛いと思わねェか?」


「へぇ〜、マコちゃんなかなか似合うじゃない。脚も細長くてキレイだし、華奢だからあんまり違和感無いわね?」


「この状況でのマコちゃん呼びは最早もはや悪意っすよぉ……」


一生の恥だこれ。というか、加山さんは矢鱈力強かった。普段から、なかなかのガタイだとは思っていたけど、やっぱりあれは全部筋肉なのか。ともあれ、店に来たのが藤花ちゃんで無くて良かった。好きな人に女装姿を見られたら、流石にもう生きていけない。俺はそんなに強いメンタルは持ってない。


はああぁ……と落ち込んでいると、流石のオジサンも申し訳なくなったらしい。


「誠、それは間違えて買ってきちまっただけだから、本番は普通のサンタ衣装着てくれ。すまん、悪ふざけがすぎたな」


「そうね、マコちゃんは男の子なんだし、嫌がってる以上アウトだわ。それにきっと、マコちゃんなら普通のサンタさんの方がカッコよく似合うわよ」


「そうじゃなきゃ困りますって……」


その後俺は普通のサンタさんの衣装を試着し、明日からそれで接客をすることになった。大人ふたりに遊ばれた感は否めないが、このメンバーで過ごすのは楽しいから、ヨシとするか……。


はあ、疲れたから藤花ちゃんに会いたい。

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