毒舌少女

「は?……い、嫌です!俺、本気なんです!絶対やめません!行ってきます!」


「あ、オイ!……しゃあないか、誠、一度言い出したら聞かねェし」


「加山さん、本当にどういう意味なの?あの子はやめとけ、って……」


 加山さんと佐野さんが何か話しているのが聞こえたが、俺は気にしなかった。


 落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる。いつも通りに、いつもナンパをするくらいのテンションで行けば、失敗しないはずだ。


 彼女……藤花さんの席に近付く程俺の心臓がの音が高くなる。


 俺は意を決して彼女に話しかけた。


「あの!……あの、ちょっとだけ俺と話してくれませんか?」


「あなた、さっきの……。如何どうして?」


貴女あなたが、あんまり綺麗なものですから……俺、君のこと気になっちゃって」


 へら、といつもの笑顔を彼女に向ける。が、彼女は少しも笑うことはなく、綺麗なアーモンド形の目を怪訝そうに光らせて俺を見ただけだった。


「あたし、アンタのこと知ってる。加山さんが言ってたの。……好みの女に片っ端から手を出すバイトが居るって。名前は確か……」


「誠。浅石誠って言うんだ」


「へえ。ねぇ、ナンパって楽しいの?自分のルックス使って女の子取っ替え引っ替えとかアンタ煩悩の塊かなんかなワケ?あ、あたしの口が悪くて嫌になった?可愛くて優しい女のコが良いなら御生憎様おあいにくさま。他当たってくれる」


 変な汗が出て、顔が熱くて、逃げ出したくなる。この子の言ってることは、悔しいくらい何一つ間違ってない。というか、加山さん、俺のことをそんなふうに藤花さんに教えてたのかよ……と加山さんを責めたくなるが、全部自業自得なのでやめておく。


 はっきり言って、藤花さんがこんなに毒舌だとは思わなかった。けど。


 ……こんなことで諦めたらさらにカッコ悪いだろ、頑張れ、俺。


「ううん、俺は君が毒舌少女でも良いよ。そっちがその気なら、俺も本気で君をナンパするから。てことで、ここの席座っていい?」


「アンタと相席するならキリンと相席の方がマシ」


「そっか、じゃあ、この辺、動物園ないから俺で我慢してね」


 してやったり、と笑って、彼女に向き合うように座る。

 藤花さん……いや、藤花ちゃんはちぇっ、とあからさまに舌打ちをして、コーヒーを口に含んだ。藤花ちゃんは俺と喋りたくないからか、スケッチブックを抱えて、鉛筆で何かを描き始めた。


 しかし、面と向かって座ってみて初めて気づいたが、藤花ちゃんは身長が高いらしい。目線が、俺とほぼ変わらない。


 けどやっぱり、藤花ちゃんは綺麗だ。


「なぁ、加山さんに君の名前聞いたから、藤花ちゃんって呼ばせてもらうね。藤花ちゃん、絵を描いてるの?俺、美術の成績常に悪かったからなんか羨ましいなぁ。カッコいいね、藤花ちゃん」


「うるさい。アンタの話、NHKと同じくらいつまんない。よくそんなんでナンパなんかできたよね」


「え?日本放送協会と同列か〜、嬉しいなぁ」


 思い描いていたよりずっと険悪なムードだけど、俺は藤花ちゃんと話すことに成功した。

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