第19話 合宿終わりの名推理


 合宿は終わり、バスで帰ることに。

 文芸部の変態と一緒に座る……わけなく、出雲さんの隣に座らせてもらった。


「……」


 安定の静けさ。安心しますね。

 出雲さんはアタリメをかじっていますけど。気に入ったんですね?

 アタリメをがじがじしてるだけなのに、めっちゃカワイイですね。動画投稿サイトとか見てると、それの何が面白いんだと思うことはよくあるが、これをアップすれば高評価間違いナシでは?

 タイトルをつけるなら「美少女JKが無言であたりめかじってみた」ですかね。出雲ちゃんねる、チャンネル登録するしかない。


「ん」

「あ、ありがとう」


 ひとつくれた。

 がじがじ。

 イカの香りを味わいながら、思い出す。

 先生との疑似デートのことを……。

 ただ海岸線を歩くだけで、手をつないでおしゃべりするだけで、あれだけ楽しい時間になったのはなぜか……。

 あれほどドキドキして、ワクワクして、ときめいてしまったのはなぜかということを……。

 それは、それは……!


「デートだからだな……!」


 どうやら僕が思っていたよりも、デートというのはすごいイベントだったようだ。

 部長は失敗してましたが。

 今後の恋愛研究部は、もっとデートをしたほうがいいですね。吊り橋効果とかアホなことはしなくていい。


「みなさん、合宿お疲れさまでした~。家に帰るまでが合宿ですから、気を抜かないようにね~」


 小学校の遠足かな?

 お約束に近いことを言ったのは、莉美先生です。小学校の先生だとしたら、男子生徒からモテモテだったでしょうね。


「……!」


 じっと見ていたら、突然顔を赤くして目をそらした。今、目があったような気がしたのですが。

 ひょっとしたら、先生も擬似デートのことを思い出してテレたのかもしれないですね。だとするとカワイすぎませんか? やっぱりプロポーズするべきかな?


「そ、そうだ、えっと、もうすぐサービスエリアで、最後の休憩所になります。だからおトイレ済ませておくように」


 なぜかテンパってトイレ休憩をアナウンスする莉美先生。バスガイドをしていたら、男子生徒とツーショットを頼まれまくってたでしょうね。

 僕は先生の言うことを素直に聞くことにした。

 それにしても、なんか莉美先生の様子が変だな。いつにもまして可愛らしいというか……いいことですね。


「お主」


 ハンカチで手を拭きながら、バスに戻る最中に話しかけられた。

 髭の濃い、眼鏡をかけた痩せた男。行きのバスで一緒になった……摩叙臥璃まじょがりというペンネームの文芸部の変態だ。怖いから近づいちゃ駄目ですよ。


「バスで話せぬか」

「僕は寝ようかと思ってるんで……」


 お断り一択。

 発言がヤバいのよ。すぐ酷い目にあわせようとするからね。くわばらくわばら。


「待て。あの間田仁莉美まだひとりみなる顧問の教師。見違えるほど魅力的になっている。明らかに何かあったようにしか見えん。その件についてなのだが」

「しょうがないな」

「助かる」


 ちょうど気になっていたことをピンポイントで。これは断れない。

 まさかまたこいつと話をすることになるとは思わなかったが、やはり只者ではない気がする。

 バスに戻り、隣りに座った。


「それで、どこが違っているように見える?」


 わざわざ聞いてくるくらいだ、なんか変だなくらいしかわからない僕と違うのだろう。


「ふむ。なんと言えばよいか。表情、声、雰囲気……それが変わっている」

「確かに……」


 なんか浮ついてるというか、落ち着きがないというか。妙に焦ったり、逆にぼーっとしていたりするような気がする。顔も赤いし……。ひょっとして……。


「風邪かも……」


 やばい。温泉に入ったときに湯冷めしちゃったのかな。看病するしかない。つきっきりで看病するしかない。お粥を作ってふーふーして食べさせたり、体を拭いたりします。遠慮しないでいいですよ!


「いや、そうではない」


 そうではないそうです。

 よかった、病気の先生はいないんだ……。


「お主、なにかしたのではないか? 調教とか」


 顧問の先生を調教するわけないだろ。

 僕が調教されるならともかく……美人女教師に冷たい目で見られながら罵られるんだ……ヒールで踏まれるんだ……いいですね! 2100ブヒ! 出ました、2000超えが出ましたよ!

 それはいいとして。


「いや、してない」

「そうであるか……」


 残念そうだな……。


「漫画研究部の顧問に強姦されそうになったとかどうだ」

「やめてよー」


 冗談でもやめてくれ。あのおっさん先生のことだろうが、想像しただけで許せん。たださえ、何もしてなくてもなんか許せないのに。あれかな、まなか先輩をかわいいとか言ってたからかな。許せん。かわいくないと言ってももちろん許さないが。まなか先輩のことは見ないように生きて欲しい。


「ふむ……魅力的になったということは、酷い目にあったと思うのだが……」


 なんでだよ!

 酷い目にあえばあうほど、魅力的になるってどういうことですか。

 カードゲームみたいに「2のダメージを受ける代わりに、美しさを得る」とか書かれているんでしょうか。

 絶対カワイがられて育った女の子の方がカワイイと思いますけど。


「だとすると何があったのか? お主、心当たりは」

「そうだなあ」


 合宿場で最初にヘンだと思ったことと言えば……。


「露天風呂でえっちな声を出してた……」


 あれは衝撃でした……。


「お、お主……」


 引いてる。

 僕が引いてるんじゃなくて、僕に引いている。なんという屈辱。


「覗いたとかじゃないからね。男湯に聞こえたんだよ」

「ふむ……他にもなにか聞こえたか」


 えっちな声を出してたことには食いつかずに、他になにかあったか聞くって。やっぱり変な男だ……僕ならそこを深堀りしているうちにバスが到着しちゃうよ。

 他に言っていたことといえば、バストのトップがちょっと赤くなっていたこととかですかね……。それは関係ないか……。


「そういえば告白するとかしないとか」

「それだ」


 それなんですか。

 なんか眼鏡がキラーンと光ったように見えました。


「つまり彼女は恋をした」

「な、なんと」

「恋をすると女性は美しくなる……そういうことだな」


 莉美先生が恋をしている……。


「しかもこの合宿中に」


 合宿中に……!


「お主、心当たりは」


 合宿中に恋をした相手がいるとしたら?

 そういえば……。


「誰にも言えない相手とかなんとか」

「ほう」


 言ってたぞ。


「だから女の子が相手なんじゃないかと」

「ほう? なぜそう思う」


 なぜか。

 うーん。なぜかは考えたことがなかったな。そうだとしたらウヒョーと思っていただけで。

 待てよ、これだと僕のほうがこの人よりヤバいやつみたいじゃないか。困ったな。

 もともと歴史上の人物でいえば男性が好きだったようだしな……。

 ただ……。


「だって好きになりそうな男がいないから」


 そうですよ。

 だってあのおっさん先生はありえないし。


「そんなこともあるまい。誰にも言えない相手……それは生徒なのでは」


 確かに。そう思ったこともありました。


「つまり……」


 つまり……。


「あの部長、池澤氏では?」


 それはないだろう。


「あんなイケメンを好きになるかな」

「普通はイケメンを好きになると思うのだが?」


 た、確かに……!

 その発想はなかった……。


「実は池澤部長と先生は擬似デートをしたんだ」

「それみたことか」

「最初にカッコいいねって言ってた」

「言ってるではないか」

「でもほとんど話ができなかったんだけど」

「それが恋ではないか」


 た、確かに……!

 好きな人相手だとすんなりしゃべれなくなるって、なんかの歌でも言ってた気がするよ!

 失敗だと思っていたけど、あれは大成功だったのか……。

 そう考えてみるといろいろと納得できるけど……。一度フッてないか?


「実は、もともと池澤部長が先生に告白しているんだよね」

「ほう?」

「だけど本当に自分のことを理解してくれていないと思うからって、オッケーしなかったんだけど?」

「ふむ。拒否したのか? 保留ではなく?」

「……合宿が終わったら改めて話をすることになってた……」

「決まりではないか。告白してきた相手を意識していた。そして擬似デートで好きになった。だからその返事をする。それが告白ということだろう」


 決まりだーっ!

 カップル誕生だーっ!


「生徒に恋をした女教師か……」


 そう言って莉美先生の方を見た。僕も見る。確かに恋をしてる顔に見えるな……キレイだ……ブヒ。 


「どうにかして酷い目にあわせられないものか……」


 やっぱりこいつヤバいよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

羊の皮を被った萌え豚 暮影司(ぐれえいじ) @grayage14

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ