第18話 疑似デートから始まる初恋
「わー。カッコいいね、池澤……クン」
などと言ってみる。
相手が男の子でも、デートって最初に服装とかを褒めるのよね?
私は男性とデートしたことからわからないけど!
「せん……いえ、莉美さんも、綺麗です。とても似合っていますね、その服」
褒められたわ。
悪い気はしない。社交辞令とわかっていても。
昨日と同じ服だとしても。
「……」
終わりかしら。
え?
見え見えの社交辞令だけ?
とりあえず歩くみたい……。
「……」
こちらから話題を振ろうかしら……テレビの話題……大河ドラマの話?
それとも……ゲームの話題かな。新しい野望シリーズの?
男子高校生が好きそうな話題ではあるかもしれないけど……絶対デートっぽくないわ……。
きっと後ろで見ている上ケ見さんから冷たい目で見られるわ……。
まぁ、私のデートではなくて彼のデートのシミュレーションということなのだから、黙ってエスコートされてればいいわよね。
「海ですね」
「海ですねー」
海です。海はあります。
しかし海岸を歩くだけのデートは初心者には難易度が高いかもしれない。遊園地だったら普通に楽しいものね。
それじゃ練習にならないか。誰と一緒でも楽しいところにいっちゃったら。
大人の女性とのデートのシミュレーションかぁ……高校生から見れば大人かもしれないけど、全然自覚ないなぁ……。
子供を産んで育ててるっていう昔のクラスメイトとかは、大人だなーって思っちゃうけど。
「せ……莉美さんの好きな食べ物はなんですか?」
好きな食べ物って、早くも話題がない感じ。
でも、なんかお見合いみたいな気もしちゃう。
そうよね、いきなり大河ドラマみたいな話題より、よっぽど無難よね。
「塩辛かなー」
「イカのですか?」
「イカよー。甘海老の塩辛も好きよ」
「甘海老の塩辛なんてあるんですねー」
「そうよー。美味しいわよー」
私も日本酒を飲むようになるまでは知らなかったけど。
日本酒と塩辛は最高。そういうところは大人ね!
オヤジ臭いとかいう人のことは嫌いよ。
乾杯からカシオレとか頼むタイプとは絶対一緒に飲みに行かないわよ!
「先生はそのー」
「はい。なんでしょう」
男子高校生と一緒にいるのにお酒のこと考えてちゃいけないわね。反省。
これは彼のデートの練習であって、私のお見合いの練習ではないのよ。
「ええと……」
何かしら。
なんか困ってるみたい。
わかりやすく頭を掻いているわ。
「……」
「ちょっとすみません」
池澤君は後ろを歩いているみんなの方へ。
どうしたのかしら。おトイレかな。
「代わってくれないか、忍輝」
え?
ええ?
忍輝くんに代わる!?
「あ、それいい。飽きてきてたし」
「免斗じゃこんなもんっしょ。オシテル、がんば」
女子も賛同してる!?
えー!?
「じゃ、じゃあ」
「すまん、よろしくな。手本を見せてくれ」
手本を見せろと言われて、大股でのっしのし歩いてくる。そういうとこがかわいーのよねー。男の子ーって感じで。
「せんせ……いや、莉美さん。僕が相手でもいいでしょうか」
「えっ!? 善院凰君とデートするの!?」
本当に?
そんなことより忍輝くんから莉美さんって呼ばれちゃったんだけど。すっごく真剣な顔で。やば。
「やっぱり駄目ですよね」
否定と捉えられてしまったようです。
勇気を振り絞って言ってくれただろうに。がっかりさせてはいけないわ。そうよ、愛する生徒ですもの!
やぶさかじゃないわ!
「全然!? いえ、えっと、大丈夫ですよ。あの、部活の? 活動として? 池澤君ばかりというのも変だし?」
うわ、動揺してるのバレバレかも。
変な言い訳にしか聞こえないかも……。
「じゃあ、よろしくお願いします……えっと、莉美さん」
か、かわいすぎる……。
急な代役だろうに、なんでこんなに真摯なのかしら。
「うん、よろしくね、えっと、忍輝クン」
「えっと、そのー」
うわ、すごいしかめっ面。悔しいのかしら。
ひょっとしたら、後ろの三人の誰かが好きなのかも。
だとしたらイヤよね……。
「ごめんね、やだよね、こんな年上なんて」
「と、とんでもないですよ。光栄です」
「そ、そうだよね。前に、有りだって言ってたよね。年上」
後ろの三人のうち二人は彼にとって年上なのだから、年上を否定しちゃ駄目よね。
それにしても、光栄って……ふふふ。
「莉美さんこそ、こんな年下の男なんて子供みたいな感じですよね」
はっ!
そうか、私は年上であることを気にしているけど、彼は年下であることをもっと気にするわよね。しかも童顔だし。
「そ、そんなことないよ! ちゃんと男の人だよぉ」
むしろ男性経験がないから、こういう怖くない男の子の方がいい。
「ほ、本当ですか~」
わ、嬉しそう。
照れちゃってかわいー。
「盛り上がってるねー」
「マジアゲアゲなんだけど」
「いちゃいちゃ」
ひゃっ!?
後ろの三人の女子生徒のことをすっかり忘れてた!
それにしても、そんなにいい雰囲気だったのかしら……恥ずかし……。
「これって、あの、デートなんですよね」
いちいち可愛いなあもう。
「そ、そうだよ~。デートだよ、忍輝クン」
「じゃ、じゃあ」
そう言って、おずおずと手を差し出してきたと思ったら。
「あ、うふふ」
手を握ってくれた。
なんか男の子が勇気を出して一生懸命に何かをしてるのっていいわね。
ちょっと震えてて、なんかドキドキしちゃう。
ちゃんとこっちからも握り返した方が安心できるかな。
「えっと、海、キレイですね」
なんだろ。
そんなたどたどしいセリフが、すっごく素敵に感じる。
それは言葉の持つ意味じゃなくて。
きっと思いが伝わってくるから。
さっきまでの池澤君とはまるで違う。本当に私のことを好きなのかもしれないってくらい、あふれてる感情のせいなのかな。
「そうだねっ」
ちょっと体をくっつけてみた。
なんか乙女みたいじゃない?
いや、乙女なんだけど。めっちゃ乙女なんですけどね。
ほら、デートっぽくしてあげないとから。彼のために。彼のためにだよ?
それにしても……。
こうして男の子と海沿いをただ歩くだけでも、こんなに楽しいんだなぁ……。
「サーフィンしている人とかいますね」
「ふふ、本当ね」
必死で会話しようとしてる。
一生懸命に私に話しかけてくれてる。
それがわかる。
あと、多分。
私と一緒で、ドキドキして目線が泳いでるから、サーフィンしている人を見つけたんだ。
「ほら、あっちにも」
こちらからも話しかけたい。
そんな気持ちになった。
指を指した方向を見ようとしたのか、より体がくっついた。
かわいい男の子だけど、ちゃんと男性なんだとわかる。
がっしりしていて、頼もしい感じ……。
「あ……」
そこには、いつもみたいな苦み走った顔ではなく、優しい表情があった。
そして私は、気づいてしまった。
好かれているかもしれないから気になっている。
彼が私を好きかもしれないことが気になる。
彼と一緒にいると、自分を好きだと思ってくれているかが心配になる。
そういう状態はとっくに終わっていて。
話しかけるたびにドキドキして、一緒に歩くだけでもワクワクして。
ソワソワして落ち着かないのに、ずっとこの時間が続いて欲しいと思っていて。
これはつまり、そういうこと。
私は彼に、恋をしている。
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