第14話 先生の部屋に侵入

 食事を終えて、しばらくすると男部屋にみんなが集まった。ウノでもやるのかな。出雲さんが「ウノって言ってなーい」と言われ続ける未来が見えます。想像するだけでカワイイな。ブヒ。

 合宿場は畳の部屋だ。座布団を敷いて円をつくっている。みんな部屋にあった浴衣姿です。花火大会に着ていくような浴衣ももちろん好きだが、旅館の浴衣もいいですよね。なんというか防御力が低くて。

 しかも、まなか先輩と出雲さんはお風呂上がりだ。ブッヒー。

 上ケ見先輩は最初正座だったが、ギャルの設定を思い出したかのようにあぐらをかいた。ブッヒー。

 出雲さんは正座。無口系少女らしく完全無敵の正座です。ブッヒー。

 まなか先輩は女の子座りっていうのかな、ぺたんと座っている。これもブッヒー。座り方にも性格が出ますねぇ。どれも似合ってて素敵です。


「なんだ、トランプでもするのか?」

 

 何も言わずに集合した女子たちに部長が質問する。まなか先輩が軽く睨んだ。


「しないよ、馬鹿じゃないの」


 そうだよ。トランプなんかしないよ。部長は馬鹿だね。こういうときはウノだよね。


「この合宿はなんのためだったっけ?」


 なんのためだっけ。お風呂で盗み聞きをするためだったかな。


「俺が先生のことを知るためだったな」


 そうだったな。どうでも良すぎて忘れていました。僕は先生のバストのトップの色すら知ってますけどね! ブヒヒヒヒ!


「そうでしょ。だからこんなところにいる場合じゃないでしょ」

「というと? 先生はもうオフだぞ」

「バカ。オフの先生だから知ったことになるんじゃない」


 なるほど。それもそうだ。お仕事中の先生は魅力的だが、それは数ある顔の一面に過ぎない。

 オフの莉美先生。興味深いですね。


「しかしいいのか。覗きみたいな真似をして」

「男には見せらんないようなら、あーしらが止めるし」


 任せなさいという感じで、胸を叩く上ケ見先輩。頼もしい。鎖骨が少しも見えることなくぴっちりと浴衣を着ているところも頼もしい。もうちょっとギャルらしく、だらしない胸元でもいいんですよ?


「だからリミセンをウォッチングしてヨシってわけ」


 まなか先輩の胸元もウォッチングしてヨシってわけ。上ケ見先輩とは違って、もうゆるゆるです。たわわな胸の谷間がみえみえです。生きててよかった……。


 ぐい。


「?」


 なぜか腕を引っ張られる。無言で俺の浴衣を掴んでいるのは出雲さんだ。なんだろう。ウノって言って欲しいのかな。


「……」


 ですよねー。何も言わないんですよねー。なんだろう。

 じっと見るとドライヤーをしていないのか、黒いショートカットはしっとりと濡れていた。まだ体が温かいのか、頬も少し赤い。ブヒ。


「……」


 ちょっと胸を張っているような?

 うーん。わからない。


「ふぅ……」


 ため息をついた。珍しい。物憂げな出雲さんというのもオツなものですね。元が無表情だからちょっとでも感情が見え隠れするだけでカワイイです。控えめに750ブヒくらいかな?


「んじゃ、行こっかー」


 まなか先輩の号令に従い、みんなで廊下へ。


「で、どこにいるんだ、先生は」

「オッサンの部屋で飲み会らしいよ~?」


 知っているのか、上ケ見先輩。

 おっさんというのは唯一男の引率教師のことだ。確か文芸部の顧問。名前は知らない。興味ない。


「よっしゃー、おっさん先生の部屋に忍び込むかー」


 ノリノリで腕を振り上げるまなか先輩。僕の部屋にも忍び込んでください。


「この人数じゃ無理だろ」


 うるさいなこの男は。つまんねえこと言いやがって。だったら待ってろよ。


「確かにそうだねえ」


 ですよねー。さすがまなか先輩。正しい判断です。


「……」


 すっと前に立つ出雲さん。着いて来いということっぽい。忍び込むことに自信があるのかしら。この頼もしさ……実はくノ一という可能性も否定できない。僕はすでに忍法によって色香に惑わされているし……おっとそうなると上ケ見先輩もまなか先輩も実は忍者なのかもしれないですね?


「二人で行く」


 そう言って僕の浴衣のすそをつまむ出雲さん。それを見てよろしくとばかりに手をふるだけの先輩方。え? なんで僕たち二人なの?

 どう考えても先生を知る必要のある部長が行くべきでは、と思うのだが。

 なにせ出雲さんがそう言ったのならもう覆らない感じがします。それは先輩方であっても同様のようだ。さすが出雲さんだぜ! 一生ついて行きます!


「……」


 俺の浴衣の裾から手を話した出雲さんは、いつもどおり無言で歩き始めました。どうやら二人で斥候を務めることになりそうです。僕が命をかけて守るのでご安心を。

 出雲さんは音もなく壁沿いに進んでいきます。迷いのない動き。無駄のない体捌き。これは本当に忍者か、または無口系美少女の特性ですね。どっちにしてもブヒれますね。


「ここ」


 一階の少し広めの部屋のようです。なんで知ってるのかわかりませんが、女子は何かあったらここへ来るように言われていたのかもしれないですね。

 先生も何かあったら僕の部屋に来てもいいですよ? そのあとで何かが起きちゃう可能性もありますけど……。

 それでここにどうやって忍び込むのかしら……? けむり玉を放り投げてそのうちに忍び込むとか、蛇やサソリなんかを放って混乱しているうちに中に入るとか? それともやっぱりくノ一らしく色気で籠絡するのかな……。ちょっと僕に試してみてもらっていいですか?

 そんなことを考えているうちに出雲さんはあっさり動く。


 がらっ。


「出雲です」


 エーッ!? いきなり部屋に入り込んで自己紹介ですかーっ!? まったく忍んでないじゃないですかー! むしろ普段の方が忍んでるまである。


「あら、どうしたのかしら、出雲さん……。善院凰くんも」


 間田仁先生が応対してくれた。

 頬が赤らみ、瞳が少し潤んでいる。これはもちろん僕という好きな男の子の顔を見たからキュンキュンしてそうなっている……のではなくお酒を飲んでいるからだろう。ほろ酔いの先生に僕がキュンキュンしていることは言うまでもない。ちょっとトロンとしている目が色っぽいですね!?


「おっ、ちょうどいいや。お前らちょっと留守番しててくれ。買い物に行きたいところだったんだ」


 オッサンが出ていく。まさにオッサンだな。悪いけれど他に説明すべき言葉を持ち合わせていない。だってオッサンなんだもの。


「ああ、私もお供しますよ。結構酔っているようですし」

「すいません、ありがとうございます」


 市媛いちひめ先生も一緒に出ていくようだ。娘さんは中学生でかなり可愛いという噂だ。市媛先生自体はなんというか、まぁアラフォーな女性だ。申し訳ないけれど僕にはそれ以上の描写をすることは難しい。


「えっと……じゃあ、二人とも入って? 散らかっているけれど」


 中は本当に散らかっていた。缶ビールと缶チューハイの空き缶に、開いたポテチの袋とさきイカやらアタリメやらが畳の上の新聞紙に散乱している。


「えっと……それで何かしら、出雲さん」

「……」(がじがじ)


 無言でアタリメをかじり始めた……!?


「……」(ちら)


 莉美先生が対処に困って僕を見た……!?

 僕にもわかりませんよ。忍法アタリメかじりの術とかじゃないですかね。ほら、僕たち混乱してますし。忍者は乱破らっぱとも言いますからね!


「……」(じーっ)


 しょうがないので、僕も先生を無言で見ることにした。他にやりようがない。

 やむを得ないから見つめているわけだけど、うーん、お風呂上がりの浴衣の美人教師は素晴らしい……メガネがおしゃれじゃないところが特にいい……黒縁メガネが少しダサいのがプライベート感があるというか……そうか、これがオフってことか。

 そうして見てみると長い髪を束ねるためのゴムも太くて黒くて野暮ったいというか、仕事中だったらもっと気を使っているだろう。

 顔ももちろん綺麗なんだけど、何かが違うと思ったら化粧がまったくされていない。いわゆるすっぴんということだ。

 なるほど、これが大人の女性のすっぴんか……。

 普段は見せない素顔……深い関係になった気がしてなんだか興奮してきましたね……ブヒヒヒヒ!


「ひいっ!? ううっ、凄い目で見られてる……ちょっと、鏡を見てくるわね……」


 莉美先生はトイレの前にある化粧台のところへ移動した。もっと見ていたかったのに、残念……。


「……」(ビッ)


 アタリメを咥えた出雲さんが親指を立てる。どういうこと? 僕は何もやっていませんよ?

 首をひねる僕の手をいきなりつかみ、立ち上がらせる。

 なになに、シャルウィダンス?

 そして、そのまま音もなく押入れを開けて二人でINです。なんですってー!?

 あわわわ、こんな暗いところで二人っきりになってどうするつもりなの?

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