第6話 図書室で捗る脳内実況
「……おはようございます……!」
小さな声で、そう言ってしまいそうです。
ここは図書室でございます。よって、おしゃべりしてはイケマセン。
そんな中で可愛い女の子に囲まれていると、寝起きドッキリみたいなテンションになってしまいませんか? 僕はなります。
さて、ここではおしゃべり出来ないのでジェスチャーだけでコミニュケーションが行われるわけですが、それだとつまんないので僕は脳内で勝手にアフレコを行いますね。なに、よくやっていることです。
現在は出雲さん相手に、莉美先生が歴史の資料を見せている状況です……!
それでは、実況スタートです! 本当は話してないから気をつけてね!
「この人はどう?」(
「別に。
「忍輝きゅんに比べたら、負けるかもしんないけど、イイ男だと思うよっ?」(莉美先生は再度指で偉人の写真をつんつんします)
「忍輝、カッコ良くて大好き」(いつもどおりですけど無反応無表情の出雲さんです)
「先生も忍輝きゅんが好きだわ。抱いて」(他の偉人を探そうとページをめくっています)
ふー。二人ともなんて僕のことが好きなんだ……でも、僕の方がもっと好きだよ。愛していると言ってもいいね。
僕は脳内実況に忙しいが、偽ギャルこと上ケ見先輩は足を組んで分厚い本を読んでいる。医学の偉人、というタイトルだ。ギャルに似合わなすぎる。どう見てもギャルなのに、目は真剣そのものだ。尊すぎて、ため息が出ますね。一生推せます。
「じゃあじゃあ、こっちのコミカライズされた新選組はどうかしら」(先生が嬉しそうに持ってきたぞ。本当に歴史が好きなんだなあ、カワイイぞ)
「見てみる」(とりあえず素直に従う出雲さん)
「近藤勇かな? 土方歳三かな? どっちも格好良いのよ。忍輝きゅんも格好良いけど! 格好良いけど!」(カラーページの人物紹介を見せつける先生)
「沖田総司かな……だって忍輝くんに似てるから……」(沖田を指差したよ)
「あら、意外と面食いなのね? だから忍輝きゅんのことも好きなのかしら」(沖田は意外だったのかちょっと驚いた様子です)
「むしろ忍輝に似てるから選んだの。きゃっ、言っちゃった」(出雲さんは何も言ってません)
莉美先生は漫画の新選組の本を出雲さんに手渡した。出雲さんは無言でページを捲り始める。
莉美先生は僕の方を向いて、にっこり。次はあなたの番よ、ということだろう。この笑顔が見れるなら、この世に言葉なんてものは要らないかもしれないね?
「忍輝きゅん、お市の方が好き? 茶々が好き? それとも、わ・た・し?」(戦国時代を元にしたアニメの版権イラストだ。ここの図書室にはアニメ雑誌も置いているのだな。一応設定では僕よりは年上みたいだ)
「もちろん、先生が好きに決まっています」(僕は雑誌そっちのけで先生の顔を見るぞ。アニメも嫌いではないが)
「えっ、えっ、どっちなの?」(お市の方と茶々のイラストを交互に指を差している)
「だから先生ですってば」(先生の顔をじっと見る。眼鏡の奥にある瞳の中まで見てしまう。だいたい、そのアニメだったら森蘭丸の方が可愛いよ)
「え、まさか、私……?」
「そうです。ずっと言ってますけど」
「言ってないよー? えっ、ええっ、どうしよう」
莉美先生は顔を真っ赤にして、本を閉じた。可愛いですね、ブヒヒヒ。
肩口をつんつんされたので、何かと思ったら上ケ見先輩が僕の顔を見ながらぽかんと口を開けている。どうしたのかな。
口に手を当てて、これから内緒話を始めるから聞いてという態度。ギャルと内緒話とか最高じゃないですか。ブヒヒヒ!
彼女は僕の耳に軽く吐息がかかる場所で言葉を発する。くすぐったいですよ、ブヒヒヒ!
「なにいきなり告ってんの?」
……え?
気づけば、出雲さんも僕の顔をじっとみつめており、莉美先生は本で顔を隠している。どうやら、いつの間にか脳内アフレコではなく本当の会話になっていたようですね。どうしましょう!?
違うんですよ……って言うかというと、まったく違わないのでそれはおかしい。っていうか好きなのは間違いないので別に問題ない気がします。サイン会でアイドルに向かって大ファンなんです、って言って何か問題があるのだろうか。いや、ない。
そんな決意を胸にするが、上ケ見先輩は腕を組みつつ、
「まぁ、比較がアニメだもんね?」
と納得したようだ。普通に考えて絵と実物で比べたら、そりゃ実物だよね、という意味でとらえたようだ。僕はどちらも好きですけど……。
「それに先生、美人だしね……」
上ケ見先輩は、本で隠れて見えない先生を見やりながら、ひとりごちる。上ケ見先輩も美人ですよ。
「……」
出雲さんは何も言わない。出雲さんも美少女ですよ。
「~~~!」
先生も何も言わない。だけど声にならない声が聞こえるかのようだ。
恥ずかしがってる莉美先生の可愛さは異常。こんな様子を見られるのだとしたら、何度でも告ってみせる!
「……」
これは出雲さんではなく、僕です。そもそもここは図書館であり、みんな無言なのです。普通に考えて告っちゃ駄目。
くそう、それにしても先生カワイイぜ、ブヒヒヒヒ!
僕は極上のごちそうの味わいに、表情が険しいものになる。
「……っ」
いたたまれなくなったのか、先生は図書室を出ていった。うーん、恥ずかしがりすぎではないでしょうか。可愛い人だなぁ……。
「……」
「ちょっと」
出雲さんも、上ケ見先輩も、追いかけろよ、みたいな雰囲気です。ええ……そんなにマズかったのかな……。傷つけたみたいになってるじゃないか……。
図書室を出ると、先生は廊下にいた。一応窓を見ているふりをしているが、これは完全に待ち構えていたと思われる。
「
忍輝きゅんでいいのに……いや、これは僕が勝手に脳内でそうなってただけでそんな呼び方は現実的じゃないか。そんな教師いないな。
「先生、わかってるの。この前と一緒よね。いっつもこうなの」
……? なんのことやら。僕は思わず小首をかしげた。
「うっ、かわいい……ダメダメ! この子は生徒! 生徒よ……あのね、私、自意識過剰なのよ。子供の頃から、結構男の人の視線を感じてたの」
それは、そうだろう。先生は子供の頃から可愛かったに違いない。
「でも、私のこと見てたよね、みたいなことを聞くとみんな見てないよって」
それは、そうだろう。今私のこと見てたよねと言われて、平然と見てたと言える男がどれだけいますかね。なんで聞いちゃうの。
「きっとぼんやりしてただけとか、背後に猫がいたとか、顔に何かついてたとか、眼鏡のブランドが気になったとかそんなことなのよ。なのに私っていっつも、勘違いしちゃって……」
勘違いではないと思いますが、勘違いだと思ってる先生はブヒヒですね。
「ひっ!? なんで怒るの……」
怒ってないんだよ。ブヒッてるんだよ。
しかし、勘違いだと思ってる先生もいいが、勘違いではないと伝えたら、もっと可愛くなるのかな。
「僕は見てました」
「えっ?」
「僕は、先生を見てました」
そう言うと、先生はぼしゅっという音が立ちそうなくらい顔を赤らめた。ブッヒイイイ! やっぱりカワイイぜ~!
「
脳内でブヒりまくってるので、そうなっちゃうんだろうな……。
「そっか、優しいね。慰めてくれてるんだよね」
うーん。先生はややこしいですね。
でも、素直に喜ばないところも僕は好きです。
「さすが、恋愛研究部だね」
そう言って、僕の額をつーんと突いたと思ったら、また図書室に戻っていった。
いやー、先生。
僕じゃなくても、好きになっちゃうと思いますよ。
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