第7話 ホワイトボードにチャームポイントを

「そんなわけでなんと彼女たちは46人いるわけじゃないんだよ!」


 やれやれ。部長が視聴覚室でアイドルグループのことを調べたというから何を言うかと思えばこれだ。

 僕たちは部室に戻ってきた。先生は職員室に戻った。


「みんな可愛かったけど、正直あんまり区別がつかないな。ははは」


 おっさんか。

 おっさんじゃねえかよ。

 女の子の区別がつかないって意味がわからない。男じゃないんだぞ。男はまぁ、区別がつかない。みんなカイジの黒服みたいなものだ。

 っていうか部長はもういいよ。まなか先輩はどうだったんでしょうか。


「なんか男のアイドルってみんな似通ってるよねー」


 そう! まったくそうですよ! あいつらは似たような感じでどいつもこいつもモテやがって! さっすがまなか先輩!


「そんなわけで俺たちは成果なしってとこだ。そっちはどうだった?」

「……」


 出雲さんに聞いちゃったね。無言カワイイ。

 目をぱちぱちさせてから、部長はギャルの方を向く。予想できただろ。


「あーしはやっぱリョーマかなーって」


 上ケ見小羽あげみさわ先輩は王道中の王道、坂本龍馬を選んだご様子。チャラいようなそんなことないような。


「日本で初めてハネムーンしたとことか、いいかなーって」


 理由がカワイイイ!! ブッヒイイイ! 完璧! 完璧な乙女! 龍馬の姉より乙女ですよ! 1200ブヒです!


「なるほどな」

小羽さわちんかわいー」


 小羽さわちんかわいーって言ってるまなか先輩もかわいー。女の子ってカワイイものを見てカワイイって言ってるときが一番カワイイですよね。


「どうした、善院凰ぜんいんおう君。そんな真剣な顔をして」


 ブヒッてるだけだよ。

 なんて池澤部長には言えないので、僕は思っていたことを相談してみることにする。


「先生のことなんですけど」

「先生? 間田仁まだひと先生か」

「はい。歴史上の人物を好きになったという話でしたけど、逆に言うと僕たちと同じで普通の恋愛経験がなさそうでした」

「うん……確かにな」

「リミセン、美人なのにね。バージンっぽいよね」


 まなか先輩もそうでしょ!? とツッコんだらどうなるんだろう。残念な美人という共通点がありそうですね、ブヒヒヒ……。


「リミセンもギャルっぽくなればモテるかも?」


 上ケ見先輩はギャルっぽくなってモテたんでしょうか。僕からはモテモテですけど。


「俺はモテてる自覚があるが、間田仁まだひと先生には無いというのは確かに不思議だ」


 なんかこいつムカつくな……。自覚がなくてもムカつくけど。要するにモテる男は死ね。


「あーしなら、好きって言われたら好きになっちゃうけどなー」


 好きです!! ……言えない。好きです。言えない。オシテルのいくじなし!


「私は言われても、ふーんって感じだなー」


 まなか先輩はそれでいいです。


「……」


 出雲さんもそれでいいです。


「モテている自覚のない女性は、告白してくれた相手を好きになる……その可能性はあるかもしれない」


 イケメンが恋愛研究部の部長っぽいことを言う。


「よし、じゃあ俺が告白してみよう」


 えええええええ!!??


「また、告白すんのー?」


 上ケ見先輩が呆れたように言う。また、ということは何度かしているということだろう。なんてやつだ!


「いままでみたいに軽く言うんじゃなくて、かなり真面目にやってみる。どこかに呼び出して、真剣に交際を申し込んで見るよ」

「ちょ、それでオッケーされたらどうすんの?」

「まぁ問題ないだろう。俺は先生好きだし」

「そんなこと言って色んな人に告白すんのよくないと思うんだけど」

「みんな好きだったわけだしいいだろう。嘘ついてるわけじゃないし」


 なんだと!? いろんな女の子が好きとかとんでもないやつだ!


「俺は先生もまなかも、上ケ見も好きだよ」


 ふっと肩をすくめて笑う池澤とかいうろくでもない男。

 そんなの僕だってそうだっての! みんな可愛いし好きに決まってるだろ!

 え、それって僕と同じってこと?

 僕もろくでなしなの?

 なんてことだ……。イケメンじゃないだけ僕の方が下じゃん……。

 むしろ言えない僕がいくじなしなだけという説もある。握手会なら推してますって言えるのに!


「でもさ、どんなところが好きなの、とか聞かれてまともに答えられないじゃない」


 さっすが、まなか先輩。そうですよ、そういうところが僕と違うわけ。

 僕はね、山ほど好きなところがありますっ!

 まず、まなか先輩の胸が好きですっ!

 あれ、これだとまともには答えられないな……ちょっと本人に言えないもんな……。

 莉美先生のお尻が好きなことも伝えられない。難しいな。


「なるほど。じゃあ、事前にみんなで間田仁まだひと先生のいいところ、好きなところをあげてみよう」


 部長はホワイトボードにマーカーで先生の好きなところ、と書いてディスカッションを開始した。なにそれ、楽しそうじゃん。

 好きな女の子の好きなポイントをみんなで言い合うとか最高かよ。ドリンクバー無くて大丈夫? 朝までファミレスでやったほうがよくない?


「よしっ、私から言っちゃおう!」


 まなか先輩、言っちゃおう!


「お尻がえっちだと思う!」


 まなか先輩! さすがです! 僕が言えなかったことを平然と言ってのける! そこがブヒれる、憧れるぅ!


「んー? そうか?」


 バカ! 部長! お前は何もわかってない! タイトスカートを履いた眼鏡の女教師のお尻だぞ!?


「お尻だったらまなかの方がいいんじゃないか?」


 バカ! セクハラ! 変態! 怒られろバカ!


「そう? あんがと」


 笑ってお礼を言ったー!? まなか先輩はやはり最高すぎる存在だったか……。もちろん僕も好きですよ、まなか先輩のお尻。ブヒヒヒ……。


「……ふふっ」


 出雲さんが笑った!?

 下ネタだからか!

 このやりとりで思わず笑っちゃう出雲さん、やっぱりイイ……。


「ヒップが素敵、と……他には?」


 一応ホワイトボードには書くんだな。この池澤という男、真面目なのか不真面目なのかわからないですね。

 同じく真面目なのか不真面目なのかわかりずらい上ケ見先輩は、ダルそうに髪をいじってつぶやく。


「まー、やっぱ美人じゃね?」

「うん、まぁそうだな」


 まぁそうだなじゃねえよ! 先生はめちゃめちゃ美人だろうが!


「仕事熱心だし、生徒思いだし、それで日本史とかのことは大好きって感じがするとこも好きかな」


 そうそう。そうなんだよね。上ケ見先輩はよく見てるなあ。やっぱり根が真面目なんだよね。好きです。


「おっ、なんだなんだ、上ケ見は先生のこと随分好きなんだな? 上ケ見が告白するか?」

「しねーし、バカ」


 しねえだろ、バカが。部長はほんとバカ。だけど今の上ケ見先輩、ちょっと唇を尖らせててめっちゃ可愛かったから、許す。むしろ僕もバカって言われたい。


「他には?」

「他には? じゃないよー。やっぱり自分では好きなところが出てこないじゃないの」

「まなか、そうは言ってもなあ。どんなところが好きかって聞かれたら、全部って言うしな」


 ふむう。確かに莉美先生のことは全部好きだ。しかし、それを一言で片付けるなんて許せん。一晩は語りたい。


「まなかのことも、全部好きだぞ」

「全部って、うんこも?」

「ぶふっ」


 出雲さん!? 今ので笑うか? 本当に下ネタが好きなんだな……。それにしても笑顔が素敵だ。うんこで笑ってても、素敵だ。いや、むしろうんこで笑うからこそ素敵だ。


「下ネタが好きな後輩を笑わせる優しいジョークが言えるところも、チャーミングだよ」


 くっ……さらっと上手いこと言いやがって。でも、いい事言うね。やっぱり朝まで語り明かさない?


「はいはい」


 さらっと受け流す、まなか先輩。最高かよ。


「上ケ見のことも全部好きだぞ」

「……ふん、バカじゃん」


 さらっと受け流せなくて、ちょっと嬉しそうな上ケ見先輩。最高かよ。


「それにしても全部ねえ……、リミセンの好きじゃないところは無いの?」


 ちょっと意地悪な質問をするまなか先輩だ。


「んー。あるか? そんなの」


 あるわけないんだよなあ……。これについては部長と同意見だ。


「ふーん。そっか」


 まなか先輩は、つまんなそうだ。悪口が言いたいわけでも無いだろうけど、なんだろう。


「ま、こんなところだろう。じゃあ、明日にでも校舎裏に呼び出して告白するよ」


 マジですか……。

 部長はホワイトボードにイレイサーをかけ、みんなかばんに筆記用具をしまい始める。

 ファミレスに移動する、って感じじゃないな。これで今日はお開き、ってことか。

 それにしても、告白か……。

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