第5話 女教師と恋バナ
「それで先生、是非教えていただけないでしょうか」
「え、何をですか?」
「もちろん恋愛についてです」
「へっ……」
「リミセンの恋バナ聞きたーい」
「ちょっと、
ふむ。莉美先生を略してリミセンなんだろうが、面と向かって言うのは勇気がいるだろう。本当のギャルなら平気なんだろうけど、偽ギャルだからな……。
実際、
「カワイイっしょ。リミセンって呼び名。カワイイ先生にピッタリみたいな?」
「……え、カワイイ?」
「ちょーカワイイっしょ」
「あ、そう……そうなんだ」
嬉しそうだーッ!? 絶対叱るはずだったのに、ちょっとカワイイって言われただけで、リミセンなんて呼ばれ方を許してしまったーッ!? それにしてもメガネ美人がはにかむとマジでカワイイーッ! ブヒヒのヒーッ!
「うん、たしかに莉美先生は美人だよねっ」
「あ、
エーッ!? 自分からリミセンって呼んでくれとリクエストーッ!? よっぽど嬉しかったんですね。この人、本当に可愛いな……。
「じゃあ、リミセン。リミセンはやっぱりモテるから恋愛のことにも詳しそう」
「モテないですよ……
「いやいや、リミセンの方が絶対モテますよー」
「そんなことないわよー」
ふうむ。二人の美女がお互いを褒めあっている……これがブスだったら目も当てられないが、美女同士だと目に入れても痛くないですね。二人とも僕の中ではモテモテですよ! ブヒヒ!
「えっと、あの、本当にそんなことないの……」
「でも、今までに好きになった男の人はいるんじゃないですか」
「それは、あるけど」
「その人のこと、教えて下さいよっ」
「んー、誰から話そうかな」
「えっ、えっ、いっぱいいるんですか?」
「いっぱいいるわよ」
恋多き乙女だったようです。わかります。僕も好きな女の子がいっぱいいるので。なんなら今眼の前に四人もいます。ブヒ。
「そうね、彼は……強い人だったわ。すごく強い。そして弱いものや困ってる人を助けちゃう正義漢」
「ふんふん」
「敵にすら情けをかけちゃうくらい、優しいの」
敵? 恋敵かな?
「それでぇ、信心深くってぇ」
信心深い? なんだ? クリスチャンなのかな?
「お酒にも強くて、けっこう飲むの」
大人だな……
「でも独身だったの。生涯」
生涯? もう亡くなったってことか?
「謙信」
「「えっ?」」
えっ? 出雲さんの突然のつぶやきにみんなびっくり。僕もびっくり。
「上杉謙信」
「そう! そうなの。恋愛小説が好きだったっていう逸話もあって、そこも可愛いし、大好きな人なの」
こくり、とただ頷く出雲さんと「なんだ……歴史上の人物の話かよ……」という表情になる三人。
しかし僕は……わかる。よ~くわかる。
なぜなら、上杉謙信は……女性だった説があるからだっ!!
織田信長を弱かったとか言っちゃうくらい、めちゃくちゃ強いのに女の子とかブヒイイイイイ! なのに敵に塩を送る優しさブヒイイイイイ!
「いいですよね、上杉謙信……僕も大好きです」
「えっ!? わかるの!? わかってくれるの
「もちろんです」
「そっか。この話をするとみんな呆れた顔するのに。うふふ、先生、嬉しいな」
「僕も……嬉しいです」
嬉しいのは、先生が僕の右手を両手で握っているからである。なんというすべすべの肌なのか。なんという柔らかい手なのか。先生が握手会をしたら全力で並びますよ、ブヒヒヒヒ……。
「うん……でも、確かに」
池澤部長が何か言い始めたので、みんなそちらを向く。僕以外。僕はもちろん、先生を見ているし、先生を嗅いでいる。ほんといい匂いするなぁ……ウェヒヒヒ……。
「いままで漫画やドラマの恋愛シーンやシチュエーションについて調べたりしたことはあるが、歴史上の人物や架空のキャラクターなどに対して恋をするということもあるよな」
なるほど。ようやくそこに至りましたか。初恋の相手がアニメキャラとかよくある話じゃない。いまさら何言ってんだ、このイケメン。
あ、先生が手を離しちゃったじゃないかよ、畜生。男は死ね。
「それ、アリよりのアリじゃね? 初恋相手がリアルじゃなくても別にいっかも」
上ケ見先輩は架空のキャラとかも含めて初恋がまだなんですね? KAWAII! 好き!
「そんなの好きになっても、ちゅーも出来ないじゃん。ちゅーも」
ちゅーと言うときに唇を突き出す
「まなか、だからこそいいんだ。お前みたいなやつこそ、肉体的な接触は絶対に出来ない相手を好きになればいいと俺は思う」
「そうよ、
そうですよね、僕も内心では先生に恋をしていますよ……。
「ふーん。まぁリミセンが言うなら、やってみようかな」
「先生も応援するよ」
「あ、歴史上の人物はいいや。どうせならイケメンがいい」
「そ、そんなことないのよ? ゲームとかでイケメンになった歴史上の人物だっていっぱいいてね?」
「んー、でも大丈夫です」
「あ、そう……」
ショボーンとしてる先生もカワイイな……。
「はっ、
キャラって言っちゃった。でも、とりあえずまた僕の手を握ってくれていることが重要です。ぜひ、チェキもお願いしたい。
「お願いします」
「うん、任せて。先生、詳しいから」
でしょうね。日本史の先生だもんね。
「どんな男性がタイプなの?」
「いや、僕は男なので女の人をお願いします」
「ん? 先生は、男性同士の恋愛もいいと思うの」
「いや、それはそういう人もいるかもしれませんが」
僕ほど当てはまらない人もいないと思います。
「んー。うん、女の人ね。任せて」
ちょっと残念そうにしたが、すぐに気持ちを取り戻したようです。
この人、本当は歴史じゃなくて歴史上の人物の男性同士のカップリングが好きなんじゃないかという疑いが……。でも、それが高じて歴史の先生になったとかいいですよね。そういう先生、僕は好きです。
「先生」
「どうしたの、出雲さん」
「私も」
「え、出雲さんも女の人を?」
「……」
先生は百合もイケルクチでしたか。それはそれでブヒイイイイイ!
しかもちょっと悩んでる出雲さんも、ブヒイイイイイ!
いいですよぉ~、出雲さんと
「男性」
「あぁ、そうよね。任せて」
女より男の方が好きだという、割と当たり前のことを言ってるだけのはずだが、万年無表情の出雲さんが頬を赤らめた。恥ずかしいんでしょう。ブヒヒヒ。出雲さんは男が好き。いいですね。普通なのにね。ブヒヒヒヒ。
「あ、あ~しも」
小さく手を上げる上ケ見先輩。やっぱりちょっと恥ずかしそうだ。ブヒヒヒ。男が好きなんですね? ブヒヒヒヒ。
「じゃあ、二手に分かれようか。俺とまなかは視聴覚室に行って、ネットで調べてみよう」
「先生たちは図書室に行きましょう」
嬉しそうだなあ、
とりあえず先生について行く。
図書室はこちらではなかった気がするが……と思っていたら、社会科準備室に入った。おやおやおや。他に教師はいないご様子です。
先生はちゃちゃっと机を動かすと、四人席のテーブルを作って、着席を促した。
そして、机の上に肘を乗せて手を組み、顎を乗せる。
「じゃあ、まずは上ケ見さんから。どんな男の子が好きなの?」
うっひょーっ!? 突然の恋バナ出たぁー!? こんな女子会みたいなところに僕は居てもいいんでしょうか。イイんです!
「やっぱり、好みを知らないとオススメできないからね。先にヒアリングしないと」
嬉しそう~! まるで親戚にお見合い相手を勧めるおばさんみたいですけどね。でも、ウキウキしてる先生は可愛いので全然オッケーです。
上ケ見先輩は、ギャルらしく体を曲げて横で足を組む。もちろん、スカートは短い。ブヒヒヒヒ。
「あーしの好みかー。やっぱ男らしい人じゃね」
本当に男らしい人が好みなのか、その方がギャルっぽいからなのか。どっちにしても頬をぽりぽり掻きながら恥ずかしそうに言うところが可愛いですね。
「ふんふん。なるほどね。出雲さんは?」
「……わからない」
「そうよねー。いきなり言われてもわからないわよね。じゃあ、上ケ見さんの言うような、男らしい人はどう? 強くて、筋肉ムキムキみたいな」
「好きじゃない」
「あら、そうなの。じゃあ、頭がいい方がいいのかしら。軍師として大活躍するインテリイケメンとか」
「好きじゃない」
「じゃあ、お金持ちとか、貴族みたいな人は?」
「好きじゃない」
「なるほど……じゃあ平和な時代の文化人とかかな」
めっちゃ真剣に考えてるな、先生。それにしても好きなタイプはわからないけど、好きじゃないタイプははっきりしてますね、出雲さん。スゴイなあ。僕は今からの質問に恐怖している。だって、ほぼほぼ好きに決まっているから。嫌いなタイプの女性って……思いつかないんだよな……。
「
「えっ?」
あれ? なんか思っていた質問と違うな。
「無いかな?」
「いえ、全然そんなことは」
「じゃあ、有りなのね?」
「はい」
有りに決まっている。自分の母親より下なら全然有りです。
「そっかー。そうなんだ。へへ」
にこにこしながら、髪をいじる先生。マジで美人だな……本当に彼氏いないのかな……。
「ふ、ふーん」
なぜか上ケ見先輩も、髪をいじっている。ギャルが髪をいじるのは似合う。可愛い。
「……」
出雲さんはいつもどおり。まぁショートカットだしね。いいんです、出雲さんはいつも可愛いです。
「じゃあ、図書室いこうか」
「はーい」
「……」
歴史上の人物に年上も年下もないと思うんですけど……。まぁ何でもいいや。階段を登っていくタイトスカートに包まれた莉美先生のヒップを見ていたら、他のことなどどうでもよくなりますよ、ブヒヒヒヒ。
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