第2話 ギャップ萌えで自己紹介
「ようこそ、恋愛研究会へ! いや、これで部員が五人になったからもうすぐ恋愛研究部になるぞ。いや~、嬉しいね!」
僕を大歓迎してくれているのが、イケメンの会長である。もうすぐ部長になるらしいけど。
ここは文化部の集まる部室棟の部室のひとつで、ちょっとした会議室くらいの大きさ。学習机を六つ長方形にして、五人で座っていた。
男は僕と彼の二人で、後は女子だ。みんな可愛いです。ブヒヒ。
「じゃあ、まずは自己紹介していこうか。俺は
すっごく爽やかな印象で、スポーツマン。これでモテないわけがない感じ。偉そうでも尖ってもいなくて、チャラくもないとくれば男からも好かれるだろう。僕は男には興味ないけど。
「恋愛研究会を立ち上げたのは、正直恋愛というものが全然わからないからだ。人として好き、はわかるんだが恋愛がわからない。男子も女子も同じ友人じゃないか。いろいろな女子から好きだと言われたが、俺も好きだよと全員に返事していたら大変なことになった。あっはっは!」
笑えばいいの?
普通にモテない男からしたら、許すまじだろう。爆発しろと何度も思われているに違いない。しかしモテるのに恋愛がわからないとは勿体ない話だ。僕はモテないのでわからなくても問題ない。
「じゃ、次は副会長」
「あーい。あーしねー」
え? そっち?
てっきり、
「あーしは、二年の
ブッヒイイイイイイ!
ギャル可愛いいいいいい!!!
ちょっと黒が混ざってるいかにもな茶髪がカワイイ~!
胸元がぱかっとだらしなく開いてるのがカワイイ~!
爪が長くて、ヘタなりに頑張ってやってるネイルアートがカワイイ~!
そして、ちょっと膝を立てて、膝小僧が見えてるのがセクシィ~!
これは……900ブヒ!
なかなかの可愛さだが、この程度なら自傷行為をしなくて済む。眉間にシワを寄せる程度だ。
「しくよろ~☆」
横ピース。間違いない。これぞギャルって感じだ!
だが、なんとなく古い感じがする。ギャルは未だに、よろぴくとか、しくよろとか本当に言うのか?
「うーん、上手になったなぁ上ケ見。先月から始めたとは思えないな」
「ちょっと、会長! バラさないでくださいよ、マジ卍!」
どういうことだ?
先月から何を?
疑問に感じて、眉根を寄せる。僕は眉根を寄せてばかりだな。眉間にシワの多い人生を歩んできました。
「上ケ見はギャルになったばかりなんだ。ギャルって恋愛経験豊富そうだろ? だからやってみたらわかるんじゃないかと言ってさ。銀縁眼鏡からカラコンだからな。みんなビックリしてたよ」
「ちょ、昔のことは言うなし~」
「黒髪おさげも似合ってたけど、今は面白いな」
「面白いとか失礼なんだけど~」
「ははは、ごめんごめん。以前から魅力的だったけど、真面目過ぎる感じがしたからさ」
ふむ。
つまりはこの人は、偽ギャルということか。本当は真面目で地味な女の子なんだろう。
それってさ、それって……ブブブブブ、ブッヒイイイイイイ!!
黒髪おさげ銀縁眼鏡の地味真面目女子が、無理してギャル化してるのブッヒイイイイイイ!!
そう考えると、開いてる胸元もより価値が高いィ! すっごく嬉しいィ! 片膝も無理して立ててるんだろうと思うと、たまらないィ!
よく見れば、使ってるペンとかメモ帳は少しもチャラくないし、書いている字もすごく丁寧だ。肌もギャルとは思えないほど白いし、目は盛ってない。普通にまつげが長いんだ。
ただのギャルだと思っていた分、そのギャップがたまらないよおおおお!!
僕の心のカウンターが上がっていく……3400、3500……バカな、まだ上がり続けるだと……これがギャップ萌え……!
「あ、どうしました? 大丈夫ですか?」
ブヒりすぎてヤバい顔になってる僕を、心配したのか僕の顔を覗き込んでくる。
上ケ見先輩、素がでちゃってますぅ~!! 真面目なときのころの話し方が出ちゃってますぅ~!! ギャルの顔で真面目に心配されちゃうとヤバいヤバいヤバい! 可愛すぎて死ぬ! ブヒ死する!
「あ、だ、大丈夫です」
それだけを言うために、右の太ももをつねり倒す。これは内出血必至だな……。
「そう? じゃ、いっけどぉー!」
クッッッソ可愛いィィ! 本気で心配して素が出てからすぐにギャルキャラに戻るのクッッッソ可愛いぞおおお!!! 良かった、入部して良かったァ! でも左の太ももも逝く!
「次は、まなか、よろしく」
むっ。
「あれ? やっぱりなんかお腹痛いんじゃない?」
「あああ、いやいや、すみません、全然そういうじゃないんです」
「ふーん? じゃあテンション上げてこー?」
「は、はーい!」
上ケ見先輩に心配されてしまった。ブヒっててもイラッとしても同じ顔っていうのは本当に面倒くさいな。それにしても心配されるのは嬉しいな。最高だ。もう好き。この人大好き。
「はい、二年の
えっ? にこやかな表情と裏腹にどえらいことを言う。
「壁ドンされてる女の子たちも、なーにが楽しいんだか? さーっぱり」
なるほど。この部活の人達はそういう人ばっかりなんだろう。多分、僕以外。
「そんな前置きしてないで、さっさとえっちしたらいいのに」
えっ? えっ? えっ?
何? 今なんて? なんかとんでもないこと言わなかった?
「すっごくえっちしたいんですよ。気持ちいいらしいので。でも恋人じゃないと駄目っていうから仕方なく、恋をするべく研究しております」
えーっ!? えっ? えーっ!? この間違いなく優等生に違いない
「あれっ? また辛そうな顔になってるよ? 大丈夫? おっぱい揉む?」
とんでもないセリフと共に心配そうに覗き込んでくる
「ほら、やっぱり引いてるじゃないか、まなか」
「ええー。これで元気にならない男はいないってツイッターで見たのにぃ」
まぁ、入学したばかりの学校で先輩の胸を部活で揉んだりしたら、その後の高校生活がまともに過ごせるわけがない。
それにおっぱいを触ってブヒってしまったら、その後でまともに話をするくらい自傷行為をした場合、ひとつくらい内臓が破裂するかもしれない。
「じゃあ、次は新入部員。先に入部届けを出してくれたのは……」
「はい」
無言で隣の女子が手を上げる。
眼鏡をかけ、黒髪のショートカット。小柄な体型。
今まで一度も発言していない。そして今まで何のリアクションもない。まったくの無表情を貫いていた。これが単純に緊張しているからなのか、それとも……
「
名前しか言わない。声も小さい。やはり、僕の予想が当たった。
これは一時期一世を風靡した、無表情無口系ヒロインだ! 完成度高ぇえ! ひょっとしたら本当はアンドロイドで人間じゃない可能性すら感じますね!
「えっと、出雲さん? 名前以外にもなんかないかな?」
「?」
イケメンの先輩にこう言われても一言も発しない徹底っぷり。これはブヒれますね。
「恋愛に興味があるのかい?」
「逆」
最低限しか言わないんだね。これは筋金入りだぞ。でも声は超可愛いですね。抑揚のない淡白なセリフなのに、鈴を鳴らしたような高くて甘い声。ブヒヒヒ。
「興味がないのに入部を? どうしてまた」
「漫画のため」
「漫画? 描いてるってことかな?」
「そう」
出た! 「そう」出た! 「そう」とか「逆」とかしか言わないの出た! しかも漫画描いてるらしい。いいぞいいぞ~、そういうのいいぞ~。
「へえ~。どんな漫画描いてるの?」
「ギャグ」
「え? ギャグ漫画?」
「そう」
意外! 意外すぎる! 突然今までのキャラと違う。ギャグ漫画とか読むイメージすらないのに描いてるんだ!?
「へぇ~、漫画部もお笑い研もあるのにわざわざこっちに?」
「そう」
「漫画の勉強ってことか~。恋愛とかラブコメとか描くための」
「そう」
「偉いねぇ。頭撫でてあげたくなるね」
撫でポ!? 頭撫でられてポッってなるパターン!? それ絶対可愛いよ!? 似合うよッ! やって! 是非やって!
「会長~? そういうやめなって言われてるっしょ~? たらしなんだから」
ギャルによって阻まれた! 仕方なし。
無表情からの、撫でポ、いつか見せて欲しい。
「ねえねえ、私もお笑い結構好きなんだけど。どんなの好きなの~?」
「下ネタ」
違和感!!
天使が鼻くそほじってるくらいの違和感!!
「えっ!? 下ネタ!?」
「そう」
エッッッ!? 聞き間違いじゃないの? 下ネタっすか!? それにしても下ネタが好きって言ってるのに、無表情ってスゲえな!?
「下ネタって、おちんちんとかうんことかそういう?」
「そう」
「意外~、ぜんっぜんそうは見えないねぇ。私、ひとつギャグあるよ」
スカートを少し下ろした状態で、一度後ろを向いてから、くるりと腰を曲げてこちらに向けて人差し指を突きつける。
「半ケツを言い渡す!」
えぇ……これ、美人だけはやっちゃ駄目。子供でもおっさんでも笑いになるけど、美人は駄目。単に有り難いだけ。イケメンは後ろを向き、ギャルは両手で顔を覆った。僕ももちろん紳士なので、顔を背ける。出雲さんの方に。
「ふふ、ふふふ」
笑っていたー!?
まさかこのギャグで笑う人がいたとは。しかもお姫様とかの笑い方だ。にこやかな笑みと、ころころと鈴を転がすような声で笑っている。上品すぎて下ネタでの笑いにはとても見えない。
それにしても……無表情な美少女が、こんなふうに笑ったら……ブ……ヒ……
は!? あぶない。一瞬意識を持っていかれた。あやうくブヒ死するところだった。なんという極上の可愛らしさなんだ……ありがてえ、ありがてえ……これは僕も下ネタギャグを開発せざるを得ないな……。
彼女の笑顔のために。笑顔でブヒるために。
「コホン、まなか。下ネタはいいが尻を出さないように」
「え~? じゃあおっぱい出す?」
「胸も出すなッ!」
「あ~し、下ネタとかマジNGなんだけど」
先輩たちが、やいのやいの言っている。ここで僕は焦り始めた。この流れで圧倒的に普通のことしか言えない僕が自己紹介をするハードルの高さ。どうしよう……
「じゃあ、最後、自己紹介をお願いするよ」
「あ、はい。えっと、僕は
恐る恐る言葉を紡ぐ。出雲さん以外は、黙ってうんうんと頷いている。共感してくれているようだ。
「みんな魅力的だもんな」
僕は女の子がみんな大好きだ。この場にいる3人のことも大好き。男は興味ない。
「普通の好きと、恋愛の好きって何が違うんだろうね」
女性として好き、という意味であるならば僕はほとんどの女の子に対して、恋愛の好きということになる。恋人100人できるかな。
「好きになってもらう、っていうのもよくわかんないよね~」
女の子は可愛いから好きになるのはわかるが、僕は男だから仮に僕を好きになったとしても理解不能。女性同士の恋愛なら理解可能。
「オチは?」
どうしよう?
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