第7話 孤独の自信②
三試合目が始まった。
スターティングメンバーは一試合目とほぼ同じだ。
一試合目とは打って変わって序盤から差が付いた。最初の
それでも監督からの文句と指示は飛んでくる。ポジション取りが悪かったり、簡単にボールを失ってしまったり。理由は様々だ。
さらに仲間からも文句と指示は飛んでくる。指示は良いにしても、文句を言われると少しイラッとしてしまう。
一方の俺は試合中ですらあまり言葉を発さない。本当は指示を出すべきなのだが……。感覚でやっているところもあるのでうまく言葉にできない。
それに……。試合に私情を持ち込むのは良くないが、普段話してないやつに気軽に指示を出せない俺の性格にも問題はある。
そのことで怒られたこともあるが、そう簡単に改善できるものでもなかった。
その点武士はよく声を出している。あまり関わりのない先輩に対しても。その姿は単純に羨ましく思うと同時に、不安になる。
――いつか、取り返しのつかない言葉まで発してしまうのではないかと。
三試合目はそのまま2ー0で終わった。一試合目の終わりよりもチームの雰囲気は良い。
けれど、五試合目――。
俺は絶好のゴールチャンスを三回外し、さらに試合も0ー1で負けた。
最後の最後にしてチームの雰囲気は最悪になった。監督の機嫌も悪い。チームメイトからも冷たい視線を注がれる。居心地が悪い。戦犯扱いだ。
こういう状況になると一人というのは苦しい。今までも数回こういった状況になった。
悪いのは自分なのでこれは反省して切り替えるしかない。けれど、試合直後はさすがに落ち込む。
唯一、武士だけは「どんまい」と声を掛けてくれた。
空気の重いミーティングが終わり帰宅の途に就く。
隣にはジャージ姿の
「たまにはうまくいかない日もあるよ」
「………………」
重い足取りで帰る俺を、香花は励ましてくれる。落ち込んでいるときに誰かが隣にいてくれるのはとても心強い。
「牧って結構落ち込むんだね。今まであんまり牧のこと見てたわけじゃないから知らなかったよ」
「……人並みにはな」
「練習試合だよ練習試合。公式戦でミスしたわけじゃないんだから。あんまり気にしないほうが良いよ。運がなかったって、そう思えば良いんじゃない?」
「……ああ」
確かに香花の言う通りだ。けれど今の心にその言葉は染み渡ってこない。
ポカポカとした日差しは、立ち並ぶ家々に遮られて影へと姿を変えた。行く手から冷たい風が吹いてくる。
「……なあ。こんな俺が杏のお願いを叶えてやれると思うか?」
急に弱気になった。なぜ昨日引き受けてしまったのだろうか。こんなに人望のない俺が、他人の欠点を克服させられるだろうか。
……自信がなくなってきた。
「大丈夫だよ。私はできると思う。前向きに考えようよ」
その返答を聞いても、自信は取り戻せない。
思考はどんどん暗闇へと引きずり込まれていく。
自分の感情を相手にするので精いっぱいだ。とても、他人のことをどうにかできるとは思えない。
暗闇から抜け出せないまま俺は家へとたどり着いた。
「後でね」
そう言って香花は家へと消えていった。
――この日俺は初めておじさんとの約束を破った。
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