第6話 孤独の自信①
花見日和の今日、グラウンド上は何ともむさ苦しい。体と体、言葉と言葉がぶつかり合っている。
サッカー部の練習試合。午前十時から始まった試合は、時が進むにつれて激しさを増していた。
俺の所属する
だから、それなりのプライドも持ち合わせている。たかだ練習試合、されど練習試合だけれど負けるわけにはいかない。
部員の中には負けず嫌いもたくさんいる。その性格が今の展開を引き起こしている。
残り五分ほどで0ー0。監督から文句と指示が飛んでくる。
俺は監督から言われた通りにポジションを取り直す。
ゴールキーパーから放たれたボールは狙い通りに、俺の頭を通り越して後ろにいた選手の足元へと納まる。彼からボールを受け取り、右でフリーになっている選手へとパスを送り、俺もゴール前へ。
そして、ゴール前に味方選手が集まったところでボールが放り込まれてくる。そのボールは真っ直ぐに俺の頭目掛けて飛んできた。
飛んできたボールをゴールに送り込むように頭を振る――。
――ピッピーッ
試合終了の笛の合図が鳴り、ベンチに戻っていく。
「あれを決めてればな」
「すいません」
「次は決めろ」
「はい……」
監督の横を通り過ぎるとき、言葉を掛けられた。
俺のヘディングはこの試合最後のチャンスだった。それを外したので、結局試合は0-0で終わった。
俺は後悔を胸にベンチへと引き上げてきた。
今日の練習試合は三十分の試合が五試合行われる予定だ。
一試合目を終えてベンチで給水していると
「お疲れ。惜しかったね」
「ああ」
「監督になんて言われたの?」
「次は決めろだって」
香花は最近部活中も普通に話しかけてくるようになった。そのせいで他の部員は俺たちが付き合いだしたのなんだの噂している。けれど、噂しているだけでその真実を俺に確認しに来る部員はいなかった。どうやら香花のほうに確認しに行っているようだ。
サッカー部内で俺はあまり好かれていない……と思う。練習中も試合中もチームメイトとは会話をしないから。きっと無愛想な奴だと思われている。
――けれどこれは仕方がない。こうすると自分で決めたのだから。
五分ほどの休憩の後、二試合目が始まった。
この試合は一試合目に出ていなかった部員が主に出場しているので、俺はベンチで休憩している。
座っていると、マネージャーとしての仕事を終えた香花が俺の隣に来た。
「ねえ、昨日の話、どうする?」
昨日の話とは、
「どうするって?」
「具体的に何をするのかなって」
「特に決めてない」
「何それ。よくそれで引き受けたね」
香花は半笑いだ。
昨日杏から話を聞いてから、俺なりに考えていたが具体的に何をすればいいか思いつかなかった。
「そういう、香花は何かあるのか?」
「とりあえず話しかけてみる」
「単純だな」
「意見言っただけ
香花は不貞腐れたように言う。
でも、確かに何かしら作戦は考えないとな……。引き受けた以上、杏の期待には
その後、二人であれこれ考えた。
俺も香花も男嫌いになんかなったことがないから
結果、まずは香花が探りを入れることになった。気持ちを聞き出すのを男の俺なんかがやっても絶対に無理なのは目に見えているから。
話し終えると、監督からウォーミングアップの指示が来た。
立ち上がりグラウンドの端に向かいボールを蹴り始める。
すると、
「パス練しよーぜ」
「ああ」
短い距離でボールを蹴り合う。
武士はこの学校で唯一と言える俺の友達だ。一年の時同じクラスで部活も一緒で仲良くなった。もちろん俺から話しかけたわけではなく、武士のほうから話しかけてきた。
武士は明るく友達も多い。寡黙な俺にも積極的に話しかけに来てくれる。
「なあなあ、やっぱ香花ちゃんと付き合ってんの?」
興味津々と言った様子だ。
部活内で武士だけは噂について俺に聞いてくる。
「付き合ってない」
「でも、急に仲良くなりだしたじゃんか。さっきも話してたし」
「ちょっとな」
「怪しいなぁ。香花ちゃん気さくで可愛いもんな~」
「本当に付き合ってはないから」
「まっきーがそう言うなら信じるけど」
言葉ではそう言うものの表情と
高校生は男女でいるとすぐに恋人関係にしたがる。そっちのほうが面白いのだろう。
まあ、急に仲良くしだしたのだ。疑わないのもおかしいと言えばおかしいのだが……。
「じゃあ俺が香花ちゃん狙っちゃおっかな~」
「いいんじゃない?」
声音だけでは本気なのか冗談なのか判別はできなかった。
どちらにせよ俺には関係ない。ただの用心棒なのだから。
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