第18話 馬と兎の瞳①

 唐子とうこあんずと無事合流した俺たちは園内を歩きながら動物たちを見て回った。


 猿やトラなど定番の動物たちを見ながら、蕾來らいら香花きょうかを中心に話を進め、俺と杏がたまに会話に参加するという流れだった。

 蕾來と香花は唐子にもしっかりと話題は振っているのだが、唐子は頑なに会話をしようとしない。その度に杏は申し訳なさそうな顔を一瞬だけ見せるのだ。


 ちなみに、俺はまだ唐子に話かけてることすらできていない。

 杏と約束したのだからやらねばいけないのだが……。

 時々見せる鋭い視線と近づくなオーラのせいで、話しかけるのになかなか勇気がいる。


 そんな俺たちは、東園を見終わり西園へと続く道を移動していた。この道が意外と長いのだ。

 上野動物園は都心にあるにもかかわらず敷地が広い。パンダや象などがいる東園とウサギや馬などがいる西園。上野動物園は大きく二つに分かれている。だから、動物の種類は多いし、見応えもある。

 動物好きの人が来たら一日で周り切れそうもないような場所だ。今日は遠足で時間制限もあるし、何より蕾來と香花の進むペースが速いのでその心配はなさそうだが。 


 特に動物のいない長い道をたらたら歩いていると、徐々に会話も減ってきた。

 もうすぐ頂点に差し掛かろうとしている太陽が燦々と降り注いでいる。蕾來と香花は仲良く手でパタパタと風を送り合っていた。

 仲良いな本当に。

 一方の唐子と杏は黙々と歩いている。こっちの姉妹も特に仲が悪いわけではないのだろうけど、蕾來たちと比べるとおとなしい分、仲の良さがあまり伝わってこない。


 俺も黙々と考え事をしながら歩いていると、ようやく西園へと辿り着いた。

 目の前には不忍池しのばずのいけが広がっている。視界が開けた分、同じ園内でも広々とした印象を受けた。


「あっ! 馬だ」


 香花が指さしたほうには二頭の馬がいた。香花はそのままパタパタと馬のほうに駆け寄っていく。

 好きな動物は馬だと言っていたのだから、きっと楽しみにしていたのだろう。

 香花の後に俺たちも続いた。


 柵の中に居たのは、白毛と鹿毛の馬だ。


「ほら、くりくりした目、可愛くない?」

「確かに、可愛い……」

「唐子もそう思うよね」

「……………………まあ」

「だよねだよね」


 共感を得られて嬉しかったのか、香花はニコニコしている。香花の圧に押されたのか、唐子も珍しく返答した。

 本人はどう思っているか知らないけど、香花にはスッと人の懐に入り込む力があるように思う。

 このまま唐子が心を開いてくれればいい。


「白い馬っていたんだね~」

「そりゃいるだろ」


 俺の思考を遮ってまたバカっぽい発言をした蕾來は白毛の馬を珍しそうに眺めていた。

 思わず俺もツッコんでしまった。


「馬は茶色だけかと思ってた~」

「嘘だろ……。白馬の王子様とかよく言うじゃん」

「あ、たしかに~。でも、なんで王子様は白馬なんだろうね」


 そう言われると俺にもわからないな。黒とか茶色だとあんまりかっこよくないのだろうか。女子的にはやっぱり白馬がいいのかな。


「まあ~どっちでもいっか」

「……いいのかよ」


 興味なさそうだなこいつ……。


「そういえば、角生えてないんだね」

「角……?」

「今思い出したんだけどさ~、白い馬って角生えてなかったっけ?」

「それユニコーンだから」


 蕾來と会話すると疲れるな。


「あはは~」

「ふふっ…………」


 俺と蕾來の会話を聞いていた香花と杏は笑いながらこっちを見ていた。


「……何がおもしろいんだよ……」

「珍しく牧がしっかりツッコんでるなって思って。私も今度はボケ倒してみようかな。そしたら牧と会話続きそうだし。ね、杏!」

「……そう、だね……。いい、かも」

「良くないよ」


 俺の言葉に唐子以外の三人が楽しそうに笑った。

 そんな俺たちを二頭の馬は丸い瞳で優しく見つめていた。

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