24戦目 うまい棒対決
我が校の購買はお菓子が充実している。
中でもうまい棒に力を入れていて常に10種類は味が置いてある。
たこ焼き味やコーンポタージュ味などのお馴染みの面子の中に一際気になる味を発見した。
「なあエリス。うまい棒対決しないか?」
「うまい棒対決ぅ?」
眉をひそめてオウム返しにされてしまった。
エリスが謎の対決を持ちかけた時、僕はそんな気持ちになっているんだぞ。
「ちょっとおもしろい味のうまい棒を見つけたんだ。この味を当てられたらエリスの勝ち」
「おもしろそうじゃない。どんな味か楽しみだわ」
「自分で食べたわけじゃないからどんな味か知らないけど、売ってるくらいだからたぶんおいしいよ」
うまい棒と言えばとんかつソース味やチーズ味と言ったおかず系が定番だ。
この味は一体どういう経緯で生まれたのか開発者に聞いたみたい。
「それじゃあ目をつむって」
「こう?」
言われるがままに目をつむる幼馴染。
ただまぶたを閉じただけなのに、このままキスしたくなるほど艶やかな唇が強調される。
もしここで嫌われるのを覚悟でキスしたら、意外とすんなり受け入れてもられるんじゃないか。
そんな期待感がほんの少しだけ込み上げてくる。
「そのまま口を開けて」
「ん」
なんでこんなに素直に僕の指示に従ってくれるんだろう。
僕も思春期真っ盛りなのでエリスの今の状態を見てなんかこうムクムクしてきてしまう。
そんな僕の気持ちを全く察知していないエリスは今か今かとうまい棒を待ち受けている。
「それじゃあいくよ。ゆっくり入れるから」
「ん」
口を開けたままなのでまともには返事をしてもらえない。
今の『ん』を了解の合図と受け取り恐る恐るうまい棒をエリスの口へと入れていく。
「これくらいなら噛めるかな?」
「……」
上唇にちょんとうまい棒の先を当て、おおよその位置を伝える。
このあたりがいい具合だったようでエリスは無言で咀嚼を始めた。
「…………」
ただ咀嚼しているだけなのに口の近くに棒状のものがあるというだけで何とも卑猥な光景に見える。
「もっと欲しいかも」
「おおお、おう」
無防備なエリスを見つめている時に甘えたような声でこんなことを言われたものだから僕の方が動揺してしまった。
こんな自分を幼馴染に知られたくなくて、必死に取り繕いながらうまい棒のおかわりをエリスの口に入れる。
「ん……んー?」
やっぱりこの味はなかなか思い当たるものがないらしくモグモグしながら唸っている。
もし僕が逆の立場で対決を申し込まれていたらたぶん負けていた。
エリスがうまい棒に目を付ける前に仕掛けられて良かった思う。
「甘いような……酸っぱいような……? 本当にうまい棒?」
「もちろん。そこに不正はないよ」
「むむむ……ああ、もう! わかんない!」
目をつむったまま両手をバタバタさせる姿も可愛い。
勉強を教えていてもすぐにわからないと言うエリスだけど、こうなっている時は本当にわからない時だ。
「どうする? 降参する?」
「待って! もしかしたら適当に言ったら当たるかもしれない。ううう」
渋い顔をして正解をひねり出そうとしている。。
まさかレモン果汁のように搾り出てくるとは思えないけど、エリスの負けが確定するその瞬間まで油断はできない。
「まさか……みかん味?」
「残念。不正解」
「はぁ~やっぱり」
エリスは目を閉じたままうなだれる。回答した後だからもう開けてもいいのに。
おもしろいからそのままにしておこうかな。
「それで正解はなんなの? 甘い味がしたけど」
「レモンスカッシュ味。変わり種も変わり種だよね」
「本当にそんな味があるの!?」
「うん。ここにエリスの食べ賭けがあるよ」
ここまでやりとりをしてもエリスは一向に目を開けない。
僕の指示があるまでこのままで過ごしそうだ。
「あの、エリス。もう目を開けてもいいんだよ?」
「え? あ? そうよね。ははは……」
エリスはゆっくりと目を開ける。
その目の前に食べかけのうまい棒と、綺麗に剥いたパッケージを広げて嫌でも視界に入るようにする。
「レモン……スカッシュ味」
「そう。レモンスカッシュ味。実在するでしょ? 残りも食べて確認して」
「ん」
ふてくされた顔をしながら残りのうまい棒にかじりついた。
目をつむっている時は妙な背徳感があるのに、今みたいに目を開けた状態だと餌付けのように感じる。
相手の視界を奪うかどうかは結構重要みたいだ。
「うぅ、たしかに同じ味だ。言われると炭酸っぽくも感じる」
「そうなんだ。僕もあとで食べてみよう」
本当はエリスの食べかけを間接キスのように食べてみたかったけど、さすがにそれを言ったら変態扱いされてしまう。
自分の欲望をそっと胸の奥にしまって勝利の余韻に浸った。
大宮エリス、24敗目。
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