19戦目 タイピング対決

 昨日は一気に3勝もできてとても気分がいい。

 だけど油断は禁物だ。エリスはそこまで考えてないと思うけど、油断をさせて貴重な1勝をもぎ取る作戦かもしれない。

 その可能性も考慮して気を引き締める。


「ふっふっふ。昨日は負けたけど今日はそうはいかないわ。1時間目の情報の授業で勝負よ」

「積極的に負けにきてくれて嬉しいよ」

「私はいつも勝ちにいってるわよ!」


 A4サイズの大きな教科書を両手に抱いてエリスはぷんすかとムキになって突っかかってくる。

 何度煽ってもこうして対抗してくれるのは本当に可愛いところだ。


「それで授業中に勝負ってどうするの?」

「私たちが向かっている場所はどこ?」

「パソコン室だけど」

「そのパソコンを使うわ。フリック入力では負けたけどタイピングなら」

「いや、エリスのタイピング遅いよね?」


 僕だってお世辞にも早いとは言えないけどエリスに比べたらだいぶスピードがある。

 エリスなんて人差し指だけを使ってモグラ叩きみたいに1つ1つのキーを押すくらいだし。


「人生何が起きるかわからないわ。いつも授業の最初にあるタイピング練習のスコアで勝負よ」

「いやいや、そんなビシっと指差されても……本当にいいの?」

「当然よ。私から持ち掛けた勝負だもの」


 昨日のフリック入力対決と違ってタイピング対決は圧倒的に僕が有利。

 それなのにこの自信はどこから湧いてくるんだろう。

 エリスに限って何か策や罠を考えているとは思えないけど。


「わかった。受けて立つ。ハンデは付けず全力でやるからね?」

「もちろんよ。かかってきなさい」


 蓋を開けてみれば僕の圧勝だった。

 スピードも正確さも、完全に僕の方が上。

 むしろエリスはあんなにゆっくりあってミスがあるのはどういうことなんだ。

 今度しっかり手取り足取り教えてあげないと。


 大宮エリス、19敗目。

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